男の手が腰に触れる。
手の主をゆっくりと仰ぎみれば、いつから見ていたのだろうか熱を孕んだ瞳がこちらを見つめていた。熱いくらいの視線から逃れることなど出来るはずはなく、思わず漏れた吐息のような声を纏うように唇に手が触れる。
二人きりの空間に互いの呼吸の音だけが響く。
少しカサついた指が壊れ物に触れるように唇を優しくなぞっていく、時折触れる硬い感触は操縦ダコだろうか、研ぎ澄まされた感覚は如実にひろう。いつの間にか近くに来ていた薄青の奥に揺らめく確かな色を目に留めて、口づけられるのだろうかと小さな予感と少しの期待に息を呑む。
時間にしてはどの位なのか、一瞬にも永遠にも感じるほどの間、どうしたらいいのか分からずにただ目の前の男を見つめていた。
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