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    メイリオ

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    メイリオ

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    グレビリDW提出作品
    お題:「読書」
    &第22回お題:「眼鏡」

    🎄よりもさらに前の時間軸。
    グレビリだけどまだ恋心も自覚してない位の時

    「たっだいま〜!おかえりなさい!」

    返事を期待していないように、扉が開いた瞬間ビリーが自己完結した挨拶を部屋に向かって投げる。突然の声にビクリと身体を震わせながらも、共同で買ったソファに座り本を読んでいたグレイはビリーに向かって控えめに帰宅への挨拶を返した。

    「お、おかえりなさい……ビリーくん」
    「あ、ただいま、グレイ♪……あれ、コミックじゃなくて小説なんだ。珍しいネ。何読んでるの?」

    グレイの姿を見つけるとニコリと人好きのする笑みを浮かべ、なんてことのないようにグレイの隣のスペースへと腰掛ける。不快では無いが、驚きの方が勝る距離の詰め方にドキドキと本を握る力を強くしていると、ゴーグルの奥で光る瞳の興味が手元の本へと向けられた。

    「あっ……えっと、こっ、これは『ノコギリ男』の最新巻についてくる書き下ろし小説で……ッご、ごめんなさい!」
    「ワオ!俺っちはタイトルを聞いただけなのにどうして謝るの?」
    「だって、せっかく聞いてくれたのに……こんなギークみたいな趣味……興味ない、よね……」

    きょとんと目を丸くするビリーは一瞬だけうーん?と不思議そうに首を傾げると、再び真っ直ぐとグレイの方へと向き直る。

    「別にオイラはグレイが高尚な文学を読んでると思って聞いたわけじゃないヨ。グレイが読んでるものが気になったから聞いたんだよ」

    情報屋としてももちろん、友だちとしてもグレイの読んでる本は気になるんだよネ〜♪と茶化しながらも、アカデミーで浴びてきたようなバカにしているような空気は感じない。
    緊張で冷たくなっていた指先に血流が流れ始め、じわじわと温かくなってくる。

    「っていうか、ボクちんもけっこう流行は抑えてる方なんだケド、『ノコギリ男』は聞いた事ないなぁ」
    「ま、まだ連載始まったばかりだからね……ちょっとグロいけど画力も高いしストーリー構成もいいから人気出るんじゃないかなって僕は思ってるけど……ってまままま、また……ッ!ごめんなさい……」
    「NO、NO!謝らないでってば!グレイはどう思ってるかわからないけど、オイラは知らない分野の話聞くの楽しいヨ」
    「ビリーくん……」

    良い子を通り越して神様なんじゃないかと思う程の優しい言葉に、目尻に涙が滲みそうになる。
    ……貸したら読んでくれるかな。いやでも流石に血なまぐさいのは引かれるかな。最初はもっとメジャーでわかりやすいのを……いやいやそもそも楽しいっていうのはリップサービスかもしれないし。
    グレイがうんうんと悩んでいると、ふいにパチリとオレンジ色のレンズ越しにビリーと目が合った。

    「……そういえば、小説読んでるのもそうだけど……ソレも珍しいネ。ゲームの時はかけてなかったよね?」
    「え……っ、あぁ、」

    ビリーがトントン、と自分の目元をノックし、それに釣られるようにグレイも目元……眼鏡へと手を伸ばす。咄嗟に手をあげたせいでぶつかったフレームがかしゃんと控えめに音を立てた。

    「視力悪いの?」
    「日常生活には支障ないよ……ゲームも、掛けてる方が視界遮られるかんじがして邪魔だし…漫画読んでる時も必要ない……かな。文字読む時も……そこまで必須ってわけじゃないけど、目が疲れてる時は補助として使ってるくらい……」

    心地の良い会話のせいか、普段よりスラスラと自分のことを口に出来た。合間合間にうんうん、と相槌を打ってくれるのが嬉しくて、つい喋りすぎてしまって。また夜中にベッドの中で悶えることになるんだろうな、と思っても今はやめようとは思わなかった。

    「へぇ……じゃあ授業中とかも掛けてなかったの?」
    「授業中……」

    きっと、フェイスと共にカーストの上位としてアカデミーを楽しく過ごしてきたビリーには何気ない質問だったのだろう。文字を読むのにたまに使うと言っから、黒板はどうなのかと気になった。それだけ。気にする自分の方が、弱いんだろう。
    『──!』
    何を言っているかわからない。思い出せない。ただ、グレイを酷く傷付ける言葉を言われているのだということだけ覚えている。口元は三日月を描くように笑顔の形を取っているというのに、吐き出される言葉は鈍器にもナイフにも感じた。

    「ぼ、僕……ただでさえこんな見た目で…ギークなのに、眼鏡掛けてたら余計に暗く見えるし……それに、掛けてたら、こ、壊れるかもしれないし……」
    「ふーん?」

    壊される、ではなく壊れる、と言ったのはなけなしのプライドかもしれない。アッシュとの関係を知る彼がその言葉から連想するものはきっと分かるだろう。
    あぁ、せっかく楽しく話せていたと思ったのに。やっぱり僕はダメなんだ。
    ギークだから、暗いからと沈んでいくグレイの顔を掬いあげるように黒手袋に包まれたビリーの手のひらが頬を挟む。

    「グレイ、グレイ!目瞑って!」
    「え!?う、うん……」
    「じゃあいくよ〜!ワン、ツー、スリー!……さぁ、目を開けて」

    突然の事に驚きながらも言われた通りに強く目を瞑り、そして開ける。
    目の前には、空が見えた。否、空のように広がる澄んだ青い瞳。キラキラと輝くそれは、グレイが思っていたよりも大きくて丸い。
    普段の黒と橙で彩られた彼の色彩の中では見ない色なのに、どうしてかしっくりと馴染んでいた。

    「…………っ」
    「やっぱりあんまり度強くないんだ」

    その言葉でようやく、ビリーがゴーグルを外し、尚且つグレイの目元から眼鏡を抜き取って自分にかけているということを認識した。
    陽気な彼と大人しい印象を与える眼鏡は異物としてすぐに分かりそうなものだが、それよりも素顔のインパクトが強すぎて眼鏡にまで思考が追いつかないのだ。
    蒼穹を思わせる青色と猫のようにツンとつり上がった目尻に、それを覆う長い睫毛。パーツ自体は強気に見えるが、瞳そのものが大きいせいかむしろ幼ささえ感じる。そんな瞳に見つめられるだけで、他意は無いと分かっていても、目を逸らしたくなるような熱が肌の奥からじんわりと湧き上がってくる。

    「…………、」
    「……ありゃ、勝手に眼鏡取っちゃったの怒ってる?レンズとかには触れてないけど……」
    「あっ、違っ!その、ビリーくんの……ゴーグル取った姿、初めて見た…から……」
    「そうだっけ?まぁ別に隠してないし、顔洗う時とかお風呂上がりとかは普通に外してるヨ」
    「でもビリーくん朝起きてすぐに洗面所行くから滅多に会わないし、脱衣所から出る頃にはもう着けてるよ……?」
    「……よく見てるんだネ」
    「そ、そうかな……」

    ビリーのことはつい目で追ってしまう。自分と違うタイプの人間だからとか、情報屋だなんて漫画みたいな職業をしているからというのもあるけど、それだけじゃなくて……どうしてか目を離せない。理由は分からないけれど。
    そんなことを考えていると、「じー」という声が聞こえてきそうなくらい前方から強く視線を感じた。ゴーグルから眼鏡へ、色が減るだけで随分と見られているのが分かりやすくなる。

    「び、ビリー……くん?」
    「グレイってよく見ると綺麗な顔してるよネ」
    「え……、ええええっ!?」
    「たしかにそう考えると眼鏡で隠れちゃうのはもったいないカモ?」
    「あああ、あのあの、あの…っ」
    「でも眼鏡掛けた姿も格好良かったヨ!ギーク…っていうよりインテリ!ってかんじ?」
    「そ、そんな……!ギーク臭いって言われたことはあっても、そんな風に言われたことも思ったことも無いよ…ッ」
    「じゃあその人たちの見る目がなかったんだ」
    「〜〜〜ッ!」

    次々と降ってける爆弾にキャパオーバーになりながら、太陽のようにキラキラとした笑顔を向けられて、蹲ってゴロゴロと身悶えたくなる。
    ビリーくんの方が、僕なんかよりもっと……かっこよくて可愛くて。でも自分なんかがそんなことを言ったら困らせてしまうだろうかと考えると、どうしても口に出せなくなってしまう。

    「ってことでお返ししマース!」
    「は、はわわ……っ!」

    パチンとビリーが指を鳴らすも、いつの間にか畳まれた状態の眼鏡がグレイの手のひらへと移動していた。目の前で起きた小さなショーに慌てていると、どうやらジェイが帰宅したらしい物音と、「ドーナツを買ってきたが二人もどうだ?」と扉越しに声が聞こえてきた。

    「ジェイがドーナツ買ってきてくれたって!行こ、グレイ!」
    「う、うん…ッ!」

    眼鏡をケースに入れてコトリと机の上に置く。前まで何も思わなかったそれを、次掛ける時が少しだけ楽しみに思える気がした。


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