無題 涙が頬を滑り落ちていくのを、どうにかして止めたかった。
悲しくはない。辛くもない。見慣れた光景。自分の愛しい人が他者を向いてる事なんて、慣れている。なのにどうしてこの涙は止まってくれないのか。
ユーリが、好き。今にも壊れそうな華奢な腰や、物憂げな瞳、細くて透明な髪の毛。全てがボクをおかしくさせる。幸せそうだネ、と言いたげな貼り付けの笑顔で城を出る。死にたくなってしまうなぁ。毎回毎回見せつけられてしまうんだもの。彼等にそのつもりは無いのだけれど。
寂しさを埋める為に来るのはいつも同じ場所。でもボクは勇気が出なくて、扉の前で連絡をする。
『開けて』
ただその一言の文章を送り付けるだけで喜んでくれる。
『おいで』
そう返信してくる癖に、あっちから扉を開けてくれるんだから、たぶんこいつは日本語が出来ないんじゃないかと思う。ゴツゴツした長い指の手がボクを掴んで引き寄せた。泣いてもいないのに泣くなよと言うし、こいつに会うと言葉があまり出なくなる。
泣いてない、泣いてない筈なんだ。きっと。
でもボクは嗚咽する自分を止められなかった。