◆アイス ある猛暑日。冷房の効いた室内に、カタカタと二種類の無機質なタイピング音が鳴っている。片方はレポート課題に苦戦する僕のもの。もう片方は持ち帰りの仕事に没頭する先生のもの。
「一人だと集中できないから一緒にいてください」なんて僕の言葉に、「仕事しながらでもいいなら」と先生は二つ返事で頷いてくれた。そういうわけで、いま僕は先生の部屋にお邪魔している。
一つの机でお互いに向き合う形でパソコンを開いて、淡々と指を動かす。時々ちらりと視線だけを向けて先生の方をうかがえば、ううん、と唸りながら眉を寄せている顔が見える。きっと大変な仕事なんだろう。それなのに僕の我が儘を聞いて一緒にいてくれる先生の優しさに、申し訳なさと抑え切れない嬉しさが胸を突いた。……かくいう僕も、さっきから文字が全く進まなくて溜息をついてしまっているのだけど。
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