ウサギは浮気に入りますか おまけその夜不寝番をお役御免になった明石は、静かな足取りで審神者の住まうはなれへとやってきた。
ゆっくりと寝室の襖を開けると、昨夜と同じくうさぎのぬいぐるみを抱いた主が、穏やかに寝息を立てている。
彼女の眠りが健やかなのは喜ばしいが、自分以外を抱いて眠るのは少々いただけないと明石は思う。
明石が無言のまま、そっと手の甲を主の頬に寄せると、眠る彼女はひどく幸せそうな表情を浮かべた。
おそらく今、自分は人には見せられない顔になっているという自覚があるが、誰もいないので問題はないと明石は割り切ることにする。
そのまま彼女の唇をなぞると、くすぐったいのか主は軽く眉間に皺を寄せた。
「………。」
一度主屋へ戻って風呂でも浴びてくるかと明石が顔を逸らした途端、主が「ん…」と小さな声を漏らしたのでそちらに視線が戻る。
「…あかし……」
「…!」
起こてしまったかと明石は軽く焦るが、審神者の目は変わらず閉じられている。
寝言かと安堵したのも束の間、彼女は再びゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「…さびしいのです。…そばにいて…」
「…………………」
頼むから、涙を浮かべてそういう事を言わないでほしいと思いながら、彼は無言で天井を仰いだ。
このままここに居た場合、色々とまずいことになると判断したため、とりあえず風呂で水を浴びてくることにする。
彼女が目を覚ましたら、どんな言葉をかけようか。
まだ暗い空を窓越しに眺めながら、明石は深くため息をついた。
了