僕は『勇者』とある街外れ。多くの戦いを経たのだろう剣を抱えた金髪の青年が、果てが無いように高い空をぼうっと見上げていた。
流行り病の原因を魔物だと突き止めて、犠牲者たちの葬儀も終わって。次の街に旅立つまでのほんの少しの隙間。感謝もしてくれたし、自分たちもできることはやったと思う。でも、けれど。死んでしまった人たちを憔悴しきった顔で埋葬する神父の顔が、親が死んでしまったことが理解できずにそれを見守る子供の顔が。どうしても頭を離れなくて。
「……疲れたなあ」
ぽつりと呟いて、膝に顔をうずめた。重い鎧は宿に置いてきたはずなのに、まるで泥の中にいるみたいだ。
このまま座り込んで空気に溶け込んでしまえたら、もうあんな顔を見なくて済むんだろうか。
もし僕が勇者じゃなかったら、こんなにたくさんの人が死んでしまう前に助けられたんだろうか。
もし僕の代わりに、――
「おーいシラー!なんでこんなとこいんだよ」
「……カ、イ」
ずっと一緒に旅してきた幼馴染が、身軽に塀を飛び越えて隣に立つ。眩しい笑顔が見ていられなくてまた視線を地面に戻した。
「どうしたの?出発は明日ってことになっただろ」
素っ気ない言葉だと自分でも思った。けれどそれを気にも留めずに声は返ってくる。
「ん?どうしたって、立役者の勇者様を呼びに来たに決まってるだろ?」
「っそ、うか」
一瞬揺れた言葉は気付かれなかっただろうか。心配する暇もなく腕を取って引っ張り起こされる。
「名前なんつったっけ……まとめ役のおっさんがさ、街を救ってくれた英雄殿に感謝したいんだって」
「マネ似てないな。ただ変な顔しただけになってるじゃん」
少しだけ笑って、大通りまで並んで歩く。
「ほら、病気が変だって気付いたのもお前だったし、最後なんて一人で決めてただろ?一応俺たちも仲間だけどさ、やっぱ勇者がいないと締まらねえって」
「え……いや、うん」
違うよとは言えない。魔王に助けてもらえたなんて言えるはずもない。
「でも運が良かっただけだよ。いつもみんなに助けてもらってるし」
「またまたあ。んなこと言っていつもカッコいいとこ持っていきやがって」
知ってんだぞとからかうカイに笑って歩いて行く。
大丈夫、気付かれてない。
だってみんなは『勇者』を必要としてる。
だから、『僕』のことはきっと気付かれない。