名前をなくした君と亡くしたと思った大切な存在が帰って来たと喜んだのは束の間の事だった。
今はどうしていいのか、何を伝えたら良いのか分からないまま、私は力の抜けた彼の身体を抱えている。
再会を祝って開かれた小さな宴もお開きになった後、部屋へと戻る彼の様子に違和感を感じて後を追った。部屋の扉が閉じる寸前に崩れるように床に膝をついた彼の姿が見えて反射的に目の前で閉じた扉へ手を伸ばした。
「ラオ!大丈夫か!?」
「…リュウか」
「体調が優れないなら…ッ!?」
開いた扉の先に居た彼は膝から崩れ落ちたまま床に座り込んでいて、此方へと向けた顔には涙が流れていた。そんな風に泣く彼の姿なんて幼い頃に見たきりだ。彼はずっと私の前を歩いていて、その背中は常に真っ直ぐ伸びていた。
「……なぁ、リュウ…マークのなくなった私に何の価値がある?」
「マークがなくなっても君は君に変わりはない。君の強さに変わりなんてない」
「そんな訳ないだろう。きっともう奥義も使えない」
「それでも!」
それでも、何だ?私は彼に何が言える?彼の血筋は過去のチャンピオンのもので、彼の持っていたマークは勝者になるべきと定める様に有ったものだ。
子供の頃に出会って、それから常に傍らに居て同じように育って来ても、私と彼は違う。
「マークを失った時にクン・ラオという存在も死んだんだ」
「じゃあ、クン・ラオとしてだけ生きてきた私は誰だ」
「私は誰なんだろうな…」
彼の口からぽつりぽつりとこぼれる言葉に対して返すべき言葉が浮かびもせず、床へ座り込んで大きな体を丸めるように静かに泣く彼を抱え込むしか私には出来なかった。