保ってくれ俺の理性助けてくれ~~~~~~~~!!!!!!!!!
催眠術かけて!!催眠術!!!!俺の自我を奪って!!いっそ殺して!!俺が理性と道徳を捨てたケダモノになる前に!!!!!!うわあああああああ!!!!!!!
……ふう、ちょっと冷静になった。
なぜ俺が開幕からこのような尋常ならざる叫びを上げるほど精神的に追い詰められているのか。その理由は、俺が今働いているビキニ御殿の主人…吸血鬼マイクロビキニ様にある。改めて考えるとすごい名前だ。
俺は最初からこの屋敷で働いていた訳じゃない。以前はいわゆるバックパッカーというものをしていた。ここの主人の名乗りに合わせるなら「我が名は人間バックパッカー!」だろうか。元、という修飾詞をつけるべきかもしれないが。
バイトをして金を貯め、わずかな荷物と資金を持って西へ東へ…という生活を楽しんでいたし、もうしばらく続けているつもりだった。だがある日、新横浜の地に足を踏み入れたのが運の尽き。突如出くわした謎のビキニ集団に「お前もマイクロビキニを着ろ」と言われ、断ったらヤバい!という直感に従ってビキニになったら妙に喜ばれ、あれよあれよという間に大きなお屋敷まで連れていかれて、魔王の玉座みたいな部屋で、そこに座す暫定魔王(ビキニ着用)とご対面。
何故かそのままお屋敷で働くことになってしまい、もう二週間ほど経とうとしている。
思えば、その日のうちにでも逃げてしまえば良かったのかもしれない。たぶんやろうと思えばできたと思う。
だが当時の俺は色んな事が一度に起きすぎたせいで現実感が全く無く、マイクロビキニに付け襟や手袋を合わせて妙にスタイリッシュな雰囲気を醸し出す暫定魔王や、その両脇に控えるマイクロビキニの取り巻きをぼんやり眺めて「わあ、ゲームでよくある手下はデザイン使い回しでボス格だけ装飾が多いやつだ」などと考えていた。今思えば脳が処理落ちしてるな。
しかしながら、この時点ではまだ「隙を見て逃げよう」という考えが俺のなかにあった。なんせ出会い頭にビキニを着せてくるような集団とその親玉だ。シンプルに怖い。仮に着せてくるのがビキニじゃなくてTシャツでも怖いよ。子供泣くよ。
暫定魔王は、そんなふうに(一応)警戒していた俺を品定めでもするようにじっくりと眺めていた。が、やがて納得したように頷いた。
「我が名は吸血鬼マイクロビキニ。お前をビキニを纏う資格があるものとして認め、歓迎しよう」
……ビキニを纏う資格?なにそれ?
突然のトンチキワードに何も言えなくなっている俺に、魔王改め吸血鬼は微笑みを浮かべ、その低く美しい声でこう言った。
「何かアレルギーや持病はあるか?食べられないものは?」
あっ……悪い人じゃなさそう……
そんなわけで、警戒心がゆるっゆるになった俺は逃げるタイミングを失い、そのまま夕食を食べてその美味しさに感動し、自分に割り当てられた部屋でぐっすり眠った。
いや違うこれは旅の疲れが癒えて逃げる算段がつくまでの雌伏の時、なんて言い訳をしながらずるずる日数が延び、もうすぐ二週間というわけ!いやーっ!時間が経つのって早いですねー!
そう、ビキニ御殿はなんというか、居心地が良いのだ。特にごはんがおいしい。なんと主人のマイクロビキニ様が作ってくださる。めちゃくちゃ料理がうまい。
なんでいっぱいいる手下にさせないのか聞いてみたら「料理は高等吸血鬼の嗜み」「心身の健康が保たれた肉体にこそビキニが映える」「健康状態や食生活は血の味に大きく影響する」などの回答が返ってきた。うーん、よくわかんないけど俺そのうち吸血されるんですね!?
いや…でも毎日できたてのおいしい料理食べられるなら血くらい全然いいな。体重的に400ミリリットルまで出せます。
働かされるって言っても主人の身の回りのお世話と御殿の掃除とたまに力仕事……多いっちゃ多いけど、人数も多いから一人辺りの仕事量はそこまで多くないし、制服がマイクロビキニなことに目をつぶればメリットのほうがでかいまである。これはしばらくここで働いているのもアリでは…………?
と、最初は思っていた。思っていたんですよ。
でもね!問題があるんですよ!!たったひとつだけ!!!というか問題なかったら冒頭のイカれた悲鳴あげとらんわい!!!!
何が問題かって、マイクロビキニ様が無防備すぎる事なんですよね!!あんなどこもかしこも際どくて露出面積の多すぎる格好でさあ!!いや前はまだ良いんですよ!少しだけど布あるから!後ろ何!?もうほとんど紐じゃん!!背中とか全部見えてるじゃん!!煩悩が刺激されまくるんですよ!!俺はかわいい女の子が好きだったはずなのに!!どちらかというと小柄で肉付きのいい子がタイプだし、その点でいくとマイクロビキニ様は高身長でスタイルが良くてわりと筋肉があって、つまり肉付きは良いいや待てそういうことではない落ち着け俺!!!!!!その扉を開けたら戻ってこられねえぞ!!まだ開けてない!!まだギリギリ開いてないから!!その扉開けたら連鎖的に取り返しがつかないことが起きそうな気がするから!!!!まだ開けちゃだめ!!!!
一方のマイクロビキニ様は俺の気持ちも知らずに露出度がインフレした格好で平然と歩く!!俺たちに労いの言葉をかける!!あげくの果てに手足がだるいからマッサージをしろなんておっしゃる!!
いや、何もしませんよ!?変なことなんて何もしませんけどね!?でもさあ!多少の警戒心くらいは持ってほしいって話なんですよ!!俺にだって邪悪な心はあるんですよ!?
いやまあ、理屈の上ではあんなに無警戒な理由もわからなくはないんですよ?これはビキニ御殿で過ごすうちにわかってきたことだけど、どうもマイクロビキニ様は噛んだ相手をビキニにして従える催眠術が使えるらしくて、俺以外のビキニは程度の差はあれ全員催眠状態らしいんだよな。だから、催眠術にかかってるビキニたちが自分に逆らったり害したり、まさか自分をえっちな目で見たりするわけないって思ってらっしゃるんだろう。
でもね……俺は催眠術かかってないんですよ……俺は何かされる前に自分からマイクロビキニ着たから……催眠術かかってないんですよ……催眠術かけられた人の精神状態がどんなもんか知りませんけど……バリバリに自我残ってるし、普通にあなたをえっちな目で見れるんですよ……
やめて!!!!俺にそんな無防備な姿を晒さないで!!!!俺は人並みにえっちな事を考えるし性欲だってあるスケベ野郎なんです!!!!そんな無警戒な目で見ないで!!!!俺はそんな、あなたが思ってるような綺麗な人間じゃないんですよ!!!!
何!?いっそ何かやらかして本当に催眠術かけてもらえば良いの!?あなたのことえっちな目で見てますって言ったら催眠術かけてもらえる!?でも自分が楽になるために他人に怖い思いさせるのは……それは駄目じゃん!!相手が誰とか関係なしに駄目じゃん!!!!人としてやってはいけない行いじゃん!!!!
ちくしょう……!誰か!誰かいねえのか!俺の他に催眠術かかってないやつは!!
悩みを共有してくれとまでは言わん!だがせめて……俺の邪な気持ちに釘を刺して押し留めてくれる奴はいないのか!!誰かっ!誰かーーーーっ!!