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    tyaetyae_57

    HL、夢を中心に置いています。
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    tyaetyae_57

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    弾丸論破/左右田×ソニア(左右ソニ)
    イベントで頒布したもののweb再録です。
    色んな軸の左右田→ソニアさんの話です。3絶望編、絶望時代、本編後、3希望編後、ハピダン時空の話があります。

    放課後ループエンカウント 左右田和一にとっての希望は、ロケットを作ることだ。
     しっかりとクラスで授業を受けるようになってから、以前よりロケットの制作が遅れていることは否定できない。そのため、左右田は放課後をめいっぱい才能を伸ばす時間に使うことにした。元より鉄の塊相手ならいくらでもいじっていられるのだ。夜までかかっても、才能を伸ばしているなら怒られる事はない。
     コツ、コツと足音が聞こえてきたのはその時だった。作業の手を止めてそちらへ視線を向ければ、作業場へ入ってきたその人は周囲を見回しながら入ってくる。
    「ソニアさん!?」
    「あら、左右田さん! そこにいらっしゃったのですね!」
     ソニアさんが笑顔になるだけで場が華やいで見える。左右田はデレデレになりながら、彼女がこちらに駆けてくるのを見ていた。
    「よいしょっと……」
    「えっ、ソニアさん!?」
     まさか登ろうとしていらっしゃる? 左右田は慌てて高いところから滑り降り、ソニアに向かって手を伸ばした。
    「褒めて遣わします!」
     ソニアは左右田の手をガシッと掴む。すべすべの肌触りを感じながら、左右田はソニアを引き上げた。
    「すみません、オイルでベタベタかもしれないっすけど……」
    「オイルよりも左右田さんのしつこさの方が臭いです!」
    「あっ、はい、そっすか……」
    「でもですね」
     ソニアはしっかりと左右田を見つめる。そのキラキラと輝く大きな眼差しに、左右田は見惚れてしまった。
    「雪染先生が、一度しっかり話してみたらどうかとおっしゃってくださったので……小泉さん達には止められましたが、これも青春です!」
     ナイス、先生! 左右田は内心ガッツポーズをする。そしてソニアを立たせたままではいけないと思い、慌てて工具箱に突っ込んである物を漁った。
    「ハンカチ……は持ってないので、タオルですが敷きますんで、ここに座ってもらって……いや、これも汚れてるか……」
    「いいえ、大丈夫です。良きに計らってください」
     そう微笑んで、ソニアはスカートを直しながらちょこんと座る。美しい所作に目を奪われた左右田は、恥ずかしくなって咄嗟に頭を掻いた。
    「いやぁ〜、でも、ソニアさんが来てくださるなんて、嬉しいなぁ!」
    「左右田さんは、いつまでもわたくしを王女様扱いするのですね」
     どこか突き放すようにソニアは言う。冷たくも美しい眼差しに、左右田は言葉を失った。
    「それは、そのー……オレにとって、ソニアさんはソニアさんっつーか……」
    「左右田さんは、意外に強情さんです」
    「ええ? 強情……ですかね?」
     先ほどとは表情が変わって、ソニアは穏やかな視線で左右田を見つめる。膝を抱えるとこてんと首を傾げて、その所作はとても可愛らしかった。
    「だって、わたくしがやめてくださいと言っても、王女扱いをやめてくださらないではないですか」
    「そりゃあ、だってソニアさんはソニアさんだし……ってさっきも言ったか」
    「それだけじゃありませんわ。左右田さんはどこか、わたくし達と距離を取っているところがありますわよね」
     最後の一歩、踏み出してこないような。その心を見透かされていたことに驚いて、左右田はぎくりと身をこわばらせた。
    「それは……」
    「何か理由があるんですよね?」
     左右田は、膝を抱えた手にキュッと力を込める。
    「誰も悪くないんです。クラスメイトのヤツらは大切な仲間で、友達で……それは本当で。だからこれは、オレの気持ちの問題ですから」
    「わたくしにも話せませんか?」
    「はは……。ソニアさんの存在に比べれば、ちっぽけな事ですよ」
     力なく笑いながら、左右田はショックを受けていた。自分でも無意識だったのだ。誰かと距離を取ってしまうことは。オレは、ソニアさんにも心を開いていないのか?
     落ち込む左右田の手の甲に、ソニアがそっと手のひらを重ねる。
    「ちっぽけなことなんてありません。国民の痛みは、わたくしの痛みですから」
     金髪で美女だからってだけじゃない。その瞬間、やっぱりオレはこの人が好きだ、と思った。この出会いを何度やり直しても、オレはきっと、ソニアさんを好きになる。

     ◆

     世界は絶望に包まれた。オレたち絶望の残党は、世界に絶望を伝染させていく。
     仲間たちとはバラバラになってしまったけれど、生きて会えれば上々。死んでしまっていても絶望的だろう。
     そんな世界の中でも左右田は、ロケットを作り続けていた。最高のロケットで人々を絶望に陥れるためだ。その瞬間の事を思うだけで愉悦の感情が湧き、手元が狂いそうになる。
    「左右田さん!」
     パタパタと駆けてくる足音に左右田は振り返る。ボロボロに切り裂かれたドレスを着たソニアが駆けてきたのだった。
    「ソニアさん! ご無事だったんですね!」
    「ええ! わたくしの才能にかかれば、下民を盾に生き延びることなんてたやすいですわ!」
    「ひぇ〜っ。絶望的ですねぇ!」
     パチパチと拍手をすると、ソニアはドレスを摘んで深々とお辞儀をしてみせる。
    「それで、今日はどうしたんスか? もしかして、オレを殺しに来てくれたとか!?」
    「いいえ! 左右田さんにはまだまだ役に立ってもらわないといけないので!」
    「生殺しっすか! それもまた絶望的〜!」
     ケラケラと笑う左右田の前でソニアは上品にふふっと笑うと、ポンと手を叩いた。
    「お願いしたいのはですね、次の演説の為に、ぶっとび〜! な舞台装置を作ってほしいのです!」
    「良いっすね! マシンガンでズガガガガ! とかしますか?」
     マシンガンを撃つ仕草をし、左右田は提案してみせる。ソニアは悩む素振りをしたが、びしりと手を構えた。
    「左右田さんの意見は聞いてません! と言いたいところですが、それはナイスなアイデアです!」
    「よっしゃあ! 任せてください!」
     袖を捲り、ロケット制作を放棄してソニアからの依頼に取り掛かる。江ノ島への崇拝の気持ちもあるが、ソニアへの恋慕の方が強いのだ。
     嗚呼、こんな絶望的な世界で、好きな人に貢献できる希望を持ってしまう事を許してください。恍惚の表情を浮かべながら、左右田は嬉しそうに笑った。
    「オレ達、きっと地獄に落ちますね」
     笑いかけると、ソニアは目を輝かせる。
    「まあ、地獄だなんて! とっても絶望的な響きですわ!」
    「でも、地獄に落ちたら、次生まれ変わっても人間になれないかもしれませんね」
    「そうですわね。左右田さんはきっと、哀れな蟻んこさんです」
    「んで、西園寺にプチっと潰されるってオチですか? うわー、絶望……」
     生まれ変わってソニアさんを好きになる事ができないなんて……なんて、絶望的なのだろう。そう思うと笑みが溢れて、左右田は口元を歪ませた。

     ◆

     記憶を失う前のオレも、きっとソニアさんが好きだった。学生時代も、絶望時代も。その中でも絶対、今のオレが一番ソニアさんの事が好きだから。だからオレは、目覚めてもソニアさんを覚えてる。そのはずなんだ。

     瞼が重い。暗闇の中で、意識が浮上する感覚がありながら、目が覚めるに至らない。
    「……さん…、左右田さん……!」
     誰かが、オレの名前を呼んでいる。手のひらに温かな感覚があり、その温もりに導かれるように、ゆっくりと目を開けた。
    「左右田さん! 左右田さん……!」
    「ソ、ニア、さん……?」
     ずっと寝かされていたからか、声が掠れて上手く出ない。ゆっくりと首を動かしてソニアの顔を見れば、彼女が手を握ってくれているのが見えた。嗚呼、嬉しい。思わず笑みを浮かべてしまう。
    「ソニアさん、オレ……。ソニアさんの事、覚えてますよ……」
    「ええ、ええ。褒めて遣わします!」
     ソニアは両手でしっかりと左右田の手を握り締めたまま、笑顔を見せた。
    「テメーが最後だぞ、さっさと起きろや」
    「日向〜! 左右田が起きたぞ!」
     ソニアの隣に座っていた九頭龍が肩を貸してくれる。二人の後ろに立っていた終里が叫んで日向を呼び出した。
    「良かった。目が覚めたんだな」
     現れた日向は、片目が赤く光っていた。その光は妖しく絶望的なものにも見えたが、そこに立つ人物は確かに左右田の知る日向その人なのだった。
    「左右田さんも、日向さんの診察を受けてくださいね」
    「診察? 日向が?」
     ソニアの言葉に左右田が目を丸くすると、日向は自嘲気味に笑ってトントンと頭を指で叩く。
    「医者の才能ぐらい持ってるんだよ、なんてな」
     そう言って、日向は事務椅子に座ると左右田にも椅子に座るよう勧める。そしてコンピュータを見ながら左右田に問診していった。その結果、他のメンバーと同様、健康になんら問題なく、コロシアイ修学旅行の記憶を所持している状態だという結論に至った。
    「俺達は絶望の残党じゃなくなったけど……」
    「生き残ったオレ達以外は目覚めねぇっつーわけだな……」
     仲間たちが寝かされたポッドを見て、左右田は呟く。脳死状態の仲間たちを起こす術はあるのだろうか。弱気になった左右田の肩を、日向がポンと叩いた。
    「左右田の力も借りるつもりだからな!」
    「オレ、メカ弄るぐらいしか出来ねぇぞ?」
    「それでいいんだよ。俺の才能だけじゃきっと未来は作れない。生き残った俺たちで力を合わせていこう」
     真っ直ぐな眼差しで言う日向を見つめる。左右田はソニアがいる方を振り返って、駆け出した。
    「ソニアさん!」
    「はい?」
     突然呼びかけられたソニアは大きな目をぱちくりさせる。構わず、左右田は言葉を続けた。
    「オレ達で、アイツらを……田中のヤローを、起こしてやりましょうね!」
     その言葉に、ソニアは瞳を輝かせる。
    「はい! モチのロンです!」
     泣きそうになりながらも、二人は笑い合っていた。

     ◆

     未来機関がコロシアイを起こした罪を背負った後、77期生は全員でジャバウォック島に戻ってきた。絶望の残党である彼らに希望へ進んでいく世界への居場所はなく、この島で永久に暮らすことを選んだのだ。ひっそりと、隔離されたこの場所で息を引き取るのがオレ達の償いだから。

     世界は希望を取り戻したのだろうか。超高校級の希望、苗木が新たな希望を生み出してくれたのを願うしかない。
     この島からは何も分からない。ここにいるのはオレ達だけ。そしてその時が来れば、一人、また一人と死んでいく。そうして、絶望の残党は真の意味で殲滅されるのだ。
    「絶望を背負って、希望のある未来を苗木さん達に託すことができた。それがきっと、わたくしの天命なのですわ」
     ある時、ソニアがぽつりと言った。王女として自分の命がどう世界に影響をもたらすか、自身が何を成せるのか、ずっと考えている人なのだ。それが、超高校級の王女という彼女の才能なのだろう。
    「それじゃあ、オレもそうなんですかね」
     左右田はソニアの隣で海を見つめながら言った。そしてソニアの横顔を見つめ、キュッと拳を握る。
    「オレ、ソニアさんの元で死ねて幸せかもしれません。絶望の残党なのに、幸せに逝けるなんて贅沢かもしれませんけど」
     左右田は更に言葉を続ける。
    「死ぬのは正直、怖いです。こんな場所で、もしかしたら孤独に死ぬのかもしれない……。でもきっと生まれ変わっても、またソニアさんを好きになるんだろうなって思ったら、なんか、どうにかなる気がしてきました」
     その世界は希望に満ちていて、オレ達は今度こそ普通の学園生活を送るのだ。左右田がソニアに笑いかけると、彼女もにこりと微笑んだ。
    「左右田さんは、わたくしのストーカーですからね!」
    「その呼び方は勘弁してくださいっ!」
     クスクスと笑うソニアに釣られて、左右田も腹の底からケラケラと笑った。

     ◆

     ◆

     ◆

    「色々あったけど、成功に終わって良かったねぇ」
    「おうよ! これでソニアさんからの株も大上がりってモンだぜ」
    「左右田のヤローはソニアに股のモン振って媚び売ってたもんな!」
    「だーっ! テメェ! ソニアさんの話する時に下ネタ言うんじゃねぇ!」
     不二咲と入間と話しながら、左右田は最終チェックを終えて外に出る。自分たちより先にプログラム世界から抜け出ていた生徒たちが、各々クラスメイトやクラスの垣根を越えて仲良くなった仲間たちと話をしていた。
     不二咲と入間もクラスメイトの元へ向かっていく。それぞれ仲の良い相手がいるのは良いことだと思う。
     オレが向かうのは、誰の元かは決まっていた。
    「ソニアさん」
     クラスメイトと話をしていたソニアは左右田の声に振り返る。そして、彼の疲れを労わるように微笑んだ。
     もう少しで、オレ達は卒業する。そうしたらソニアさんは自分の国に帰って、王女の座に就くのだ。そうなったら、学園生活の中のように普通に話せる存在ではなくなってしまう。
     けれど、この数ヶ月で分かったんだ。自分がソニアさんに出来ること。それは……。
    「オレ、ソニアさんの元までブッ飛んで行ける飛行機を作ってみせます! それでソニアさんのいるところまで会いに行きますから! だから……」
     だから、待っていてください。そう言っても良いのだろうか。迷惑ではないだろうか。不安に思う左右田に、ソニアは微笑んだ。
    「ええ、待ってますわ」
     その笑顔は希望に満ち溢れていて、左右田は目を輝かせた。
    「左右田お兄ちゃん、僕にも手伝わせてくれるんだよね」
    「うお、蛇太郎! いつからいたんだよ!」
     背後から現れた蛇太郎に、左右田は驚いて飛び上がる。
    「最初から見てたよ……」
    「ふふ、優秀な助っ人さんもいらっしゃるのですね」
    「助っ人っつーか、まぁ……確かにそうか」
     左右田はくすりと笑った。後輩もソニアさんも仲間たちもいて、希望に溢れる未来で。オレは、これからも生きていく。
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