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    杣おつと

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    杣おつと

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    門梶で門倉が専属立会人になる小話です。

    屋形超えで見事勝利を納め、頂点に立った斑目貘は死に体で、黒服の賭郎たちに真っ白なその身を抱えられてヘリで連れ去られた。
    それを地上で見送った梶が、再び貘と会えたのは三日後。賭郎本部ビルの最上階、お屋形様用の執務室であった。
     ──マルコ、梶ちゃん、おっつー。
     船での長旅とチャンプたちの見送りを終え、そのままやってきた梶とマルコを前に、貘はすっかり生気を取り戻した姿で笑顔を浮かべていた。細い手をひらひらと振りながら黒革のチェアに腰掛けるその後ろには、夜行立会人もいる。馴染みのある光景を目の当たりにして、梶もようやく相好を崩した。
     ──ごめんね、二人には船で帰らせちゃって。でもさぁ俺、勝負終わったばっかの死にかけなのに、引き継ぎやら事務手続きやらさせられてたんだよぉ?悪魔の巣窟だよここは。
     はぁ、と大仰な溜め息を吐いてみける貘だが、間違いなくそんな組織の親玉に相応しい人間である。マルコだけは「貘兄ちゃん、かわいそう……あとでポテチ持ってきてあげるね!」と殊勝に労ってくれていた。
     少しの間、そんな取り留めのないやり取りを交わしていた。それがひと段落着いた頃、貘が右手の人差し指を一本、すらりと伸ばす。蒼い三日月が梶とマルコを見上げた。
     ──そういう訳で、今まで俺を手伝ってくれた二人に、お屋形様特権のプレゼントを一つずつあげます。
     

    「それでマルコ様は強くなる修行のために山へヰ近立会人と芝刈り(素手で伐採)に、梶様は川へ私と洗濯に、という訳ですか」
    「洗濯じゃないですよ」
     だいたい川と言っても、ここ、暗渠ですし。梶が見下ろした視界には、門倉の磨き上げられた黒革靴が、溶岩が冷えて固まったかのように隆起するコンクリートを踏みしめていた。その脇に、地下を通る水路の蓋が雑然と並んでいる。
     繁華街から少し離れた、小汚い住宅街の路地だった。真昼の陽気を避けるように二人は、空き家の影に佇んでいる。
     ついさっきまで、この空き家の中で賭郎勝負を行っていた。いわゆる七並べをアレンジしたゲームで、手持ちの札とは別に立会人から並べたいカードを得ることが出来たが、それはもちろん高いリスク無しに選べなかったし、特定の箇所で本来並べられるカードとは別のカードがお互いに設定されていて、その探り合いも案の定命懸けのものだった。しかも自分のターン中は血を抜かれるという時間制限つき。お陰で梶は実に活き活きとした門倉に1Lもの血を抜かれた。
     もっとも相手は、すべての金と血を奪われて果てたのだが。抜かれた血液の量以上に顔色を悪くして、止血のための絆創膏を抑えたまま言う梶に、門倉はニヤリと笑う。
    「貴方は悪徳者たちの一つ、ダウロギアクラブが差し向けた手先を葬ったのですよ?これは善なる世界へのお洗濯です」
     おせんたく、と梶は間抜けな顔で反芻する。童話の老婆ならここで大きな桃がどんぶらこと流れてくる訳だが、梶が青褪めながら待ち侘びているものは、既に目の前にあった。
    「門倉さん、あの」
    「はい」
    「こんな時に言うのもなんなんですけど、どういう時に言えばいいかも分からないから今言います。僕の専属立会人になってくれないでしょうか」
     途端に特徴的な笑みを引っ込めた門倉を、梶は一切怯むことなく見つめる。コンクリートで蓋をされた地底から、川のせせらぎが聞こえてくる気がするほど、完全な沈黙がこの場を覆った。
    「それは本来選べるものではない筈ですが」
    「貘さんが屋形超えを手伝ったご褒美として、僕に専属を選べる権利をくれたんですよ」
    「ほう?それはまた、お屋形様特権をひけらかすような素晴らしいご褒美ですね〜」
     まるで初耳という体のいやみだが、知らなかった訳はないだろう。梶は一ミリも視線をズラさず、門倉を見続ける。それにわざとらしく溜め息を吐いて門倉は、一転ニコリと満面の笑みを浮かべた。長い背を折って、梶の真正面に顔を突き合わせる。とても柔和な表情だが、隻眼から滲み出る漆黒の深淵に心臓が逸った。もちろん顔には出さない。
    「私に断れる権利はあるのでしょうか?」
    「はい。これは特例なので、双方の同意であることが条件だと貘さんに言われています」
    「……けったいなことしよるのぉ」
     こんなモン強制と同じじゃろ、と目の前の門倉は珍しく眉を顰め、小声でごちていた。視線は微動だにさせないまま、梶は少し目を見開く。
    「断っていいんですよ?」
    「断れるかァ!こんなおもろい誘いを」
    「でも、いやですか?」
    「いやじゃよ専属なんてあがなやりにくいモン。〜ブチたいぎいわ〜」 
    「……だから断ってもい「やる言うとるじゃろが!?」
     若干地団駄を踏むようになっている門倉に、ようやく梶は全身の力を抜いて、笑った。
    「すみません、門倉さんただでさえ弐號の號数を狙われて大変だろうに、フリーから僕の専属になったらたぶんもっと狙われて、すごく大変ですよね……」
    「あほか」
     門倉は曲げていた背筋を伸ばし、なんでもないように乱れた髪を軽くはらう。美しい所作だった。
    「そんなことは今までと変わらないのですから、面倒などではありません」
     それきり口を閉ざした門倉に、梶は、じゃあ何が面倒なんですか?なんて野暮なことは、聞けそうになかった。
    「あの、じゃあ貘さんに電話しますね」
     と、梶がポケットに手を突っ込もうとした刹那、スマートフォンが振動する。慌てて取り出すと、案の定貘からの着信だった。
    「も、もしもし」
    『梶ちゃん、そろそろ決まった〜?』
    「あ、えと、はい」
     ──斑目貘!きさま!見ているなッ!
     門倉が目線だけを動かして見回したところ、道路を挟んだ向かいのビルの入り口にある防犯カメラが、不自然にこちらを向いていた。おもむろに足元の小石を拾い、思いっきり振りかぶって渾身の豪速球を投げる。精密なコントロールで放たれたそれは見事命中し、カメラはその衝撃で二、三回転すると、椿の花のごとくボトリと地面に落ちた。
    『やだなぁ門倉さん、そんな照れないでよ〜』
    「照れてません」
    「貘さん、同意も得たので、門倉さんが僕の専属ってことでよろしくお願いします」
    『うん。だけどちゃあんと確認したいから、門倉さんからも聞きたいなぁ』
    「は?」
     門倉の絶対零度の声音にも動じず、ニヤニヤとした声が梶の手元から流れてくる。
    『こういうのは第三者の人間がしっかり確認しないとさぁ〜当人たちの間で言った言わないの話になって揉めたくないしぃ』
    「あ、あのー貘さん、あまり門倉さんを弄らないでくださいよぉ……」
     そこで梶がやっと、眉をハの字にしながら貘を諌めた。しかしその次に放たれた言葉に、門倉は目を見開くことになる。
    「門倉さんが機嫌を損ねて、やっぱり専属はやめるって言ったらどうするんですか。せっかく気が向いてくれたのに……」
     
     ──はぁあ?
     口にはしなかった。しかし、梶は確かに門倉の異変に気付いた。ひゅぱん!と空を裂く音とともに、自分の顔すれすれを、門倉の腕が神槍と化して壁を穿ち、壁際に追い詰められたからだ。それはまさしく、暴を極めし壁ドンであった。
    「梶様」
     声に一切乱れがないことが心底恐ろしい。表情も真顔だが、目が据わっている。梶は、はひ、と答えたのか息を吐いたのかよく分からない声を出すことしか出来なかった。
    「私、門倉雄大は今から、貴方の立会人です」 
     吐息が、頬に触れる。
    「貴方が会員である限り、全身全霊を懸けて、梶様の勝負に立ち会うことを誓います」
     梶はただ、力の入らない身体を壁に預けて、その顔を見上げることしか出来なかった。智も暴も、人として何もかも圧倒的に上回っているに違いない男が、自分に全てを懸けると宣言する光景を、ただただ見ることしか出来なかった。
    『ねぇ梶ちゃん、梶ちゃんこそ門倉さんをいじめ過ぎたらダメだよ』
     朗らかな笑い声を残して、貘は通話を切った。
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