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    杣おつと

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    杣おつと

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    usgiの門梶です。BKさんをとてもリスペクトしてる梶ですのでよろしくお願いします。

    プライベートアイズ「梶ちゃんはさぁ、一を見せれば十に出来ちゃうじゃん?だからさぁ……」
    「うわうわなんすか急に。あれ、明日は雨かな」
     舞台は超高級ホテル最上階のスイートに備え付けられた、広くて柔らかなベッドの上。貘さんと僕は時折、修学旅行の夜みたいに、パジャマ姿で寝そべってとりとめのない話をする。修学旅行は、貘さんと出会う前の頃の僕にとって、数少ない楽しかった思い出の一つだ。僕に金をかけることをことごとく嫌がった母だけれど、そういう行事に参加する金は渋々ながら出してくれた。それは決して僕の為じゃなく、親としての体面を保つ為だったけれど。
     僕の横に寝転がっている貘さんは、純白の絹の糸のような髪をさらさらと散りばめ、悪戯っぽく目を細めて、僕を見上げている。それこそがこの世の何にも勝る贅沢だと、僕は思う。たとえこの場所が以前住んでいたボロアパートであろうと、あの貘さんがのんびり僕としょうもない話をしていれば、その贅沢さになんら変わりはない。何十万のスイートに泊まっていることなんて、すごく些細なことなのだ。
    「ちょっとその言い草ひどくない?今までけっこう君のことちゃんと褒めてきたし、マジで実力を買ってるワケじゃん?そんな反応されちゃ悲しいな〜」
    「それはそうですね。僕、貘さんに褒められたからここまできましたしね」
    「あっは、そうなの?いやまぁ俺としちゃ当然のこと言ってるだけなんだけどね」
     カラカラと笑う貘さんは、僕の言ったことをどこまで信じてくれたのか、いまいち分からない。でもそれは僕もおあいこさまで、僕の今までの行動には、貘さんにとっての当然褒めるべき価値ってやつが、本当にあるんだろうかと思う。
     僕は貘さんと同じギャンブラーになった。常軌を逸したゲームだって何度もこなしてきた。命を天秤にかけながら、ハッタリで乗り越えた勝負がいくつもある。だからこそ、余計に疑問に思うのだ。
     昔は疑問を持つことも出来なかった。母の奴隷として搾取され続ける人生に現れた彼は、白銀の如く鮮烈で、しかしながら穏やかでもあった。貘さんは無闇に過去を詮索せず、でも誰より僕自身を見てくれた。自分でさえ気付かなかった僕に。それがひたすら嬉しくて、誰かに存在を認められる悦びを知らない僕には麻薬と同じだった。
     今はもう、何もかもを投げ売ってまで褒めて欲しい、とは思わない。でもその分、貘さんの褒める意味を考えて、それが胸の奥底に沁みるようになった。この人が認めてくれているのは、僕に眠っていた博打の才だけでは決して割に合わない。その合わない部分こそ、僕は信じるべきなんだと、そう思うのだ。
    「……あれ、そういえばさっき何か言いかけてましたよね?」
    「そうそう、話を戻してそれなんだけど……ねぇ、梶ちゃん。君にお手本として、一度見て欲しい人がいるんだよね」
     貘さんはポケットのないパジャマなのに、いつのまにかカリ梅の袋を指に挟んでかざしていた。歯磨きしたじゃないですか、とボヤく僕を無視してさっさと開封してしまう。いやそれより。
    「お手本?お手本ってな」
    「門倉さんなんだけど」
     そこでパクリと梅を頬張る。これは普通に食べてるのか?それとも謀略を巡らすサインなのか?その疑問が真っ先に生まれ、貘さんの綺麗な顔をたっぷり眺めてから、やがて上がった名前に疑問が湧いた。「……か、門倉さん?」
    「うん」
    「門倉さんって、立会人の門倉さんですか?」
    「そーだよ、俺らの知り合いの門倉さん他にいないでひょ。あのデカくて笑顔が素敵な門倉ひゃんはよ」
     梅を食べながら行儀悪く喋る貘さんの顔は、それでも端正で美しい。ただポーっと見惚れてしまうのは、門倉さんの名前が上がることの意味が全く分からないせいもある。
     いやちょっとはある。最近立ち会うことが多いな、という心当たり程度だが。でも僕の本来の専属である夜行さんは古参で抱える会員が多くて都合がつきにくいし、そうなるとプロトポロス内の特例処置とは言え、一時的に専属であった門倉さんへ声がかかりやすくなるものなのだろう、と見当をつけていた。だからここで名前が上がる意味はやはりさっぱり閃かない。
     しかし、何のお手本か、という言葉を先ほど貘さんは遮った。恐らくあえて。となると、改めて問うても答えてはくれないだろう。だからこそ、やるべきだと思った。貘さんが敢えて語らないことに必ず意味がある筈だ。この人には穏やかな面もあるけれど、優しいかというと難しい人である。少なくとも甘やかさないタイプだ。僕は物分かりよく「分かりました」と頷いてみせた。
    「ところで見るって、どうすればいいんですか?」
    「見るだけだよ。でもちゃんとしっかり、よーくね」
     両目を人差し指と親指でそれぞれ囲い、まるでとっておきの魔法のコツを教える魔法使いのように言う貘さん。さしずめ僕は未熟な見習い弟子だ。
    「……マジでそれだけですか?門倉さんとなんか話はつけてるんです?」
    「いや全然?ただの思いつきだし」
    「えぇ〜……僕ガンつけてるとか思われませんかね……」
    「梶ちゃんに見つめられてそんなこと考える訳ないじゃん」
     確かに僕が立会人に喧嘩を売る度胸などないことくらい、門倉さんもさすがに分かっているだろう。
    「ねぇねぇ見た結果は教えてよ、絶対」
    「それはもちろん、貘さんから貰ったミッションですから」
    「約束ね」
     貘さんは何故かやたらと嬉しそうに枕を抱き締め、やたらとニヤニヤしていた。さっき抱いた確信が揺らぎそうになる。いやいや、梶隆臣。どんなにふざけて見えても、あの貘さんなんだぞ。僕は門倉さんを見て、一を十に、いや百にしてみせるんだ。



     そうして一週間後に行われたゲームで立会いを終えた門倉さんは、つつがなく取り立てを行うと、部下の黒服たちに声もかけず真っ先に僕の元へ来た。このパターンは珍しいなぁとビビりつつ尚も見つめる先には、僕を見下ろすお馴染みの素敵な笑顔が。
    「梶様……私、何か至らない点がありましたでしょうか?」
    「え、はい?」
    「非常に視線を感じましたので、立会に何か不備でもあったのかと心配になりまして」
     しかしそんなしおらしいことを言う顔には「完璧な立会でしたけど?」とありありと書かれている。これは訳すると「何ガンつけとんじゃワレ」だ。当然である。それくらいには門倉さんを見ていた。貘さんの指示だから。
     だが僕だってこのような事態は想定内。まずは、大変申し訳なさそうな顔をしてみせた(というか実際、門倉さんにはとばっちりなので本当に申し訳ない)。
    「門倉さんの立会いは相変わらずめちゃくちゃ完璧ですもちろんハイ。ただ僕が、今後は立会人の方もちゃんと見ておかないとなぁと思い立ちまして意識して門倉さんを見るようにしていただけなんですすみませんご不快でしたでしょうか」
     とにかくへりくだり素直に非礼を詫びると、門倉さんの素敵な笑顔がやや緩和された。門倉さんは生来の強者だ。そしてそう振る舞うことをとても大切にしている。故に、弱い者に対しては無闇に強さを振りかざすことはしないし、その誠意を疎かにしない。借りはなあなあにせず必ず返すし、弱くても未熟でも本人なりに本気で頑張っていればそれを認めて手を貸すこともある。それが門倉さんにとっての強者の在り方なのだ。
    「……まぁ、それは良い心掛けでしょう」
     渾身の誠意が通じたのか、門倉さんの笑顔はだいぶ引っ込み、僅かに口元に浮かぶ程になった。が、その一見優しげな笑みの方が、先ほどの何ガンつけとんじゃワレスマイルよりも何故だかまともに見れなくて、反射で目を逸らしてしまった。怖い。訳じゃない、と思う。門倉さんに不機嫌さはなかった、はず。あれはたぶん、力を抜いた自然な笑み、に見えた。でもそれを真正面で見ることが、どうしてだか躊躇してしまう。
     いやだめだろ、ちゃんと見なきゃ。貘さんの指示だし、門倉さんは怒ってないんだし。自分自身に?マークを浮かべながら改めて向き合った僕に、門倉さんは不愉快そうな素振りを見せなかった。
    「もっとも私には勝負に活かせるような癖などありませんがね」
    「あっそれは思いました。カード捌きとか全然ブレないし……やっぱり立会人は凄いですね」
    「お褒め頂き恐悦至極です。しかし梶様もこれくらいはこなせるようにならなければ」
    「そうですね。それは本当に、頑張ります」
     わぁ、すごい。口の中がカラカラになるくらい緊張してるけど、あの門倉さんと普通に談笑してる。これが門倉さんを見ていたことによる結果なのか?元々門倉さんは僕みたいな弱っちい奴も無碍にしない人だから、というのは大きいだろうけど、案外こういう人付き合いをしてくれる。あの島の頃から。
    「ですが少しずつマシにはなってきていますよ」
    「あ、へへ、ありがとうございます。そういうところまで見てくださってるんですね」
    「ここ数ゲームはこの私が立ち会っておりますでしょう。分かります」
    「そんな、その、こちらこそいつも立ち会ってもらって、本当に」
    「見ていますよ、梶様」
     え、と喉から変な音が溢れたのは、門倉さんのせいだった。門倉さんが、先に奇妙な声音を出してきたから。それはさっきのまともに見れない笑顔と同じ感覚で、僕は一人で混乱する。
     そんな姿を門倉さんがじっと見下ろす。その眼差しにあるものは、恐怖にとても似ているが、何かが違う。頭の奥がジリジリと焼けつく。僕の知らない奥深くが、燃えようとしている。
    「梶様も今回でよく分かったでしょう」
     分からない。僕は何にも知らないから、気付かない。
     ゲームの間、僕の傍にまるで定位置のようにこの人が立っていることだとか、僕へかける言葉にだけある声の温度とか、何度も何度も目が合ってしまったことだとか。
     そういうことを全部、僕は知らないのに。
    「その調子でどうぞ、これからも私を見てください」
     いやに丁寧な口調だったけれど、その眼差しも声も仕草も、全部が僕を何処かへと追い詰め、決して逃がさない。そこは、僕みたいな奴がいられるところじゃない。人並みに求めるフリをして、その実ずっと諦める用意をしてきた。それを今更突きつけられてどうしろっていうんだ。僕はやっと、やっと一人で進み続ける勇気を持ったんだぞ。
     ただただ恐ろしくて、目の前にそびえる黒く大きな影を見上げるしかない脳裏に、貘さんの陽気な笑顔が浮かぶ。貘さん、アンタ、やっぱり僕に優しくない。
     
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