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    杣おつと

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    杣おつと

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    usgi門梶の短い話です。

    差し入れ万歳 立会いを執り行った門倉が、血生臭い取り立てにより昨晩入院した、という情報をさる筋から仕入れた次の日の梶の朝は早い。
     とりわけ今日は早かった。なにせ今回の狙いの品を手に入れるには、電車を乗り継いで遠方の店へ行かねばならない。そこは超人気店で、今日は日曜。開店前から行列が出来ているだろう。
     パーカーにデニムと身軽な装いで身支度をしている梶を、シルクのパジャマに身を包んだ貘が欠伸をして見守っていた。
    「ふぁ〜あ…………気合い入ってんねぇ梶ちゃん」
    「はい、けっこう並ぶんで」
    「がんばれぇ〜」
    「うす、いってきます!貘さんはおやすみなさい」
    「うんおやすみぃ〜むにゃむにゃ」 
     眠気で意識が朦朧としている貘と、キングサイズのベッドで爆睡するマルコをホテルに置いて、梶は端末で電車の乗り換えを調べながら駅まで歩いた。

     今日はなんとしても、郊外にこじんまりと佇む老舗人気店のフルーツパーラー名物、絶品アップルパイを手に入れる。


     きっかけはプロトポロスだった。門倉が矛盾遊戯で負傷した自分を看病してくれた上、なんとりんごを自腹のビオスで差し入れてくれた。それはどう考えても完全に立会人の業務外、門倉なりに戦い抜いた梶への労いだろう。やたらと数を用意されていたので後半はほんの少し飽きていたが、それでも梶は、人生の中で美味しかった食べ物TOP10に入れた。
     なので後日、門倉が立会いで入院したと風の噂で聞いた時、お返しをしようと思い立った。デパ地下というスイーツの迷宮に囚われながら、悩みに悩んだ挙句選んだりんごゼリーを差し入れた。怪我人だからと胃を気遣ったつもりのチョイスである。しかし当の門倉は患者服以外、怪我人らしからぬピンピンとした姿で、ゼリーじゃあっさりし過ぎじゃろと不服そうにしながら、きちんと食べてくれた。どころか最終的に、美味いなこれ、どこの店で買うたん?と普通に聞かれた。
     梶も、門倉があまりにもピンピンしてるのでなぜ入院したか聞いてみると、取り立ての最中に頭を殴られ、部下の黒服たちが古傷を心配して頼み込まれて受けた検査入院だったらしい。それではあの時のお返しには、あんまりならなかったかな。そう思いつつ、ついでに矛盾遊戯後の看病の礼を言うと、そもそもワシらが命がけのゲーム選んでやらせたんじゃけど、と変な顔をしていた。だが、梶はそのあと終日気分がよかった。
     それからしばらく経ち、勝負に勝ったものの相手のルール無用の襲撃でボコボコにされ(しかし勝ち取った報酬は死守して)入院した梶に、今度は門倉がりんごのムースを差し入れにやってきた。その律儀さに梶は驚いた。たった48人の賭郎会員の一人とは言え、門倉が自分にそこまでする義理があるものだろうか。
     しかしその時はまだスイーツを食べられる体調ではなく、すみません無理そうですと謝ると、門倉はそりゃ普通はそうじゃな、と気を害した様子もなく自分で食べた。センスの良い紙箱に仕舞われていたりんごのムースはとても美味しそうで、強くなりたい、身体的に……と内心決意した梶である。
     しかし門倉は食べたくても食べられない怪我人の前でスイーツを貪るだけで終わるような、非道な性格ではなかった。病院内の売店でわざわざりんごを買って剥いて、差し出されたりんごはうさぎを模した飾り切りがされていて。あの時よりかわいらしい差し入れのおかげで、身体はまだまだ痛かったのに、梶の気分はまたしても、とてもよくなった。
     それからお互い、怪我をして入院したと聞くと、必ずりんごを使ったものを差し入れるようになった。そこそこの頻度で見舞いをしている現実に、ギャンブラーも立会人も、やばいな……と、ふと我にかえることはある。けれどもそんな、抱いてもどうしようもない不安を一旦思考の外に置くことが、梶は少し上手くなった。

     ところどころ軽度の腫れや痣はあれど、相変わらずピンピンしていた門倉が、梶が持参したパン切りナイフで、絶品アップルパイの7号ホールを器用に四等分にしてくれた。さすがは立会人、刃物の扱いはなんでも上手い。その代わり梶は、病院の売店で買った紙皿とプラスチックのフォークを準備する。無機質な病室に広がる甘い香りを吸って、梶は知らずこわばっていた身体の力を抜いた。
    「門梶さん、三個食べます?」
    「食う食う」
     門倉は一口で、切り分けたカットの三分の一強を頬張っていた。梶も口をつける。サクサクに焼き上げられたパイ生地の食感と香ばしさに、上品な甘さで煮詰められたりんごのフィリングが絶妙に口の中で合わさって、なんとも奥深い味わい。目の覚めるような、ガツンとした衝撃ではなく、食べ進めるほどにじわじわと心を幸せに満たしていく美味しさだ。
    「これも美味いなぁ」
    「前から狙ってたんですよ、ここの」
    「ふぅん。ワシは選び甲斐がないけぇのぉ」
    「それは、いつもボロボロですみません……でも毎回品種を変えてくれるじゃないですか」
    「なんじゃ、気付いとったか」
     そう話しながら門倉は既に二個目に手をつけていた。一方まだ残り半分の梶である。
    「次買うやつも、もう決めてるんすよ。楽しみだな」
    「見舞いを楽しみにしんさんな」
    「門倉さんは決めてないんですか?」
    「まぁ目星はつけとるが、時期次第じゃな。秋がええのぉ。旬じゃけぇ」
    「そ、そう言われても」
     とは言いつつ、今行なっている仕込みを使う大きな勝負は、ちょうど秋頃になりそうだな、と梶は思った。
     
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