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    にょたレオンリー2開催おめでとうございます~!
    新刊予約開始ミスしたのでお詫びに慌てて書いた小話です💦

    かつてお伽噺に憧れていたレオナ♀️は、ユニ魔を理由に婚約を破棄されたことをきっかけに理想の『王子様』になることを決める。学園でもその名を轟かせていたレオナ♀️だったが……。

    王子様なんていない 小さな頃、繰り返し読んだお伽噺。生まれたときから強い魔法力を持っていたレオナはすでに使用人たちから恐れられていて、彼女に読み聞かせをしてくれる者はいなかった。
     だから、多忙な兄が贈ってくれた何冊かの絵本を、幼いレオナはきれいな絵を見るために捲っていた。
     いつでも愛を享受できる立場にいた兄は、レオナの処遇を知らなかったのである。それから少しずつ教育を受けることを許され、文字を読めるようになったレオナは、お伽噺の世界に憧れるようになった。
     お姫様がピンチになると颯爽と現れる格好いい王子様。夕焼けの草原第一王女である彼女もまた、正真正銘のお姫様であったから、いつか自分にもそんな王子様が現れると信じていた。
     そんなレオナが自身に二つ年上の婚約者がいると知ったときは、うっとりとしたものであった。
    「れおなにもおうじさまがいるんだ!」
     レオナは隣国の王子てあるらしいそのひとは、どんなひとだろうと夢を見た。同じライオンの獣人と聞いていたから、きっと勇猛果敢に違いないと思っていた。
     レオナのことを大好きな兄も彼のことを褒めていたのだ。ファレナのことは育った境遇の違いや立場、能天気な性格な割に過保護であるところが少し鬱陶しいとは思っていたが、嫌いなわけではない。
     兄は少し情けないところもあるが、基本的にライオン獣人としては優秀だ。そんな兄のお墨付きなら、お伽噺の王子様になり得るだろう。レオナはぼろぼろになった絵本を繰り返し捲って、婚約者と会える日を楽しみにしていた。
     それなのに、レオナが家庭教師に襲われかけて無我夢中で砂のユニーク魔法を発現させた翌日、彼との婚約はあっさりと破棄されてしまった。
     理由はレオナの婚約者が、砂の魔法をひどく怖がったからだった。そんな者と結婚はできないと怯えているらしい。
     レオナはそれを聞いてがっかりした。お姫様になれなかった自分にではない。情けなさすぎる元婚約者に、だ。その日からレオナは絵本を読むことをやめた。
    「おひめさまになれないなら、おうじさまになる!」
     お伽噺の王子様なんか現実にはいないのだ。身をもってそれを知ったレオナは、その日から男物の服を身にまとい、勉学や魔法はもちろんのこと、剣術や馬術にも励むようになった。
     一国の姫がすることではないと頭の固い家臣たちはレオナを止めたが、彼女がそれを気に留めることはなかった。今時そんな考えはナンセンスだ。そもそもレオナはいわゆるお姫様のような扱いを受けたことがない。
     腫物にさわるみたいにして接しておいて、今更口出しをする連中の言うことを聞くと思っているほうがおかしいのだ。
     レオナはずっと、自分のために努力を続けたのだった。
     
       ♡   ♡   ♡
     
     婚約者から婚約を破棄されて数年、ナイトレイブンカレッジに入学したレオナ・キングスカラーは、すぐに学園の『王子様』となっていた。
     決して素性を隠しているわけではない。選択した制服はスラックスであるが、無理をしてその豊満な体形を隠すようなこともしない。ただ彼女の所作は完璧なる『王子様』そのものであった。
     学園で習う勉強はすでに王宮で履修していることもあり、少々怠惰なところが玉に瑕だが、成績は座学も実践もすべて優秀なものである。はじめこそ反発していた男子も、陰口を叩いていた女子も今では彼女の虜だ。
     二年生になる直前、レオナは寮で同室の生徒から懇願をされ、トラ獣人の三年生の先輩から決闘でサバナクロー寮長の座を奪い取った。
     そもそも権力を笠に着るような男だったので、サバナクロー寮生たちはレオナが寮長になることを喜んだ。
     ちなみに誰もがうらやむ立場であるレオナと同室の女子生徒が、彼女に寮長になるように懇願したのは、毎日あのうつくしいひとと生活するのが限界になったからである。寝ぼけ眼の彼女に「おはよう」と言われる度に寿命が縮む思いであったのだ。勿体ない気もするが、ナイトレイブンカレッジの『王子様』との同室は一般人の彼女には荷が重すぎたのである。
     
     レオナが二年の秋、そんなナイトレイブンカレッジに本物の王子様が入学してきた。
     茨の谷の次期国王、マレウス・ドラコニア。
     しかし、レオナは知っている。本物の『王子サマ』とやらはレオナのユニーク魔法に怖気づいてしまうほど臆病で軟弱な男なのだ。だから、期待なんてしていない。
     入学式に遅れても平然とするその姿を遠目に見て、レオナはやっぱりと息を吐く。
     昔憧れたお伽噺の王子様なんてどこにもいない。むしろ今いちばんこのナイトレイブンカレッジで『王子様』なのはレオナ・キングスカラーなのだ。
     窮屈な式典服のフードを脱ぐように前髪をかき上げれば、至る所で小さな悲鳴があがった。
     新入生も早速レオナに釘付けのようである。うっとりと見上げてくるひとりの女子生徒にふっと笑みをサービスしてやれば、彼女は真っ赤になり、周囲も被弾して倒れそうだ。そんな彼・彼女らをエスコートしてこの学園の『王子様』を、あの『王子サマ』に分からせてやるのもいいかもしれない。
     そうしているうちに新入生の魂の選別が終わり、各寮への案内がはじまる。
     鏡舎の混雑や誤った鏡に入ることを避けるため、ここからは一寮ずつの移動となる。ハーツラビュル寮生たちが皆鏡に向かったことを確認して、レオナはサバナクロー寮生たちを引き連れて歩き出した。
     その最中、嗅いだことのない香りがふわりと漂っていることに気が付いた。深い森のなか、ひんやりとした夜露のような香り、同時に周囲がざわつくほどの威圧感。背後の寮生たちが怯えているような空気をレオナは敏感に感じ取る。
     その根源へと視線を投げれば、そこにいたのはかのマレウス・ドラコニアであった。
     遠目で見るよりも背が高いが、その体格は豊かとは言い難い。夕焼けの草原の女性兵士にも劣るかもしれない。一国の王となるものがそんな貧弱でいいのか、とレオナは彼を鼻で笑った。
     ライムグリーンの瞳がこちらへと向けられる。そしてその傍の真紅の瞳がまるで品定めでもするかのように向けられた。
     レオナはぞっとするようなそれを振り払い、周囲から怯えられ一歩引かれてもなお顔色を変えないマレウスへ、一歩また一歩と近づいていく。
     そして、レオナは敢えてヒールの音を立て一歩踏み込むと、彼の顔を少し下から覗き込んだ。
    「茨の谷の王子様ってのは随分と陰気臭いなァ? しかもそんなヒョロっちくて国が守れるのか?」
     レオナはそうマレウスを揶揄するような声色で煽り、さらには笑い飛ばした。
     挨拶もなしに無礼な真似をするのは王族としてのマナーに反するが、ここはナイトレイブンカレッジ。ここではマレウスもレオナもひとりの学生にすぎない。
     その上、レオナはサバナクロー寮長であり二年生である。国交もない妖精の国の王族に礼儀を見せて媚びを売る必要などかけらもない。むしろここで上下をはっきりさせてやるべきなのだ。
     しかし、マレウスはレオナの煽りに少し目を瞬いたあと、彼女の手をそっと取った。
    「おやおや、これはうつくしい夕焼けの草原の姫君。妖精たちの噂に違わぬ美貌だな」
     そして、咄嗟に反応できなかったレオナにそんな台詞を吐き、端正な顔をレオナのやわらかな手に寄せていく。ちゅ、と彼の唇がレオナの手の甲に触れた。
     レオナの心臓がどくんと跳ね上がる。
    「……っテメェ、何しやがる⁉」
     驚いたレオナが彼から自身の手を引いて殴りかかろうとするが、その際につんのめるようにバランスを崩してしまった。それを咄嗟に受け止めたのは他の誰でもない、マレウス・ドラコニアであった。
    「おっと……その、挨拶だが。僕は何か間違っていただろうか?」
     獣人であるうえに女子のなかでは背の高いレオナだが、マレウスの胸にすっぽりと抱き留められてしまう。
     しかも、マレウスに殴りかかろうとしていたレオナの勢いはそれなりにあったはずなのに、彼はよろめきもせずにレオナを抱えている。
     その腕も胸も、触れてしまった身体が決して貧弱ではないことを物語っていた。痩躯に見えるのに、そこに詰まっている質量が祖国の屈強なものたちの比ではない。
    「……は、離せ……っ。……はあ、構って損したぜ」
     レオナはマレウスの胸板を慌てて突き飛ばし、いつものように少し気だるげなため息を吐いた。
     高鳴る鼓動には知らんぷりをして、背後の新サバナクロー寮生たちをこっそりと窺う。どうやら先ほどまで尻尾を股に挟んでいた彼らは「あのマレウス・ドラコニアに向かっても堂々としているなんて」と相変わらずレオナを褒め称えていた。
     レオナは失望されていないことにほっと胸を撫でおろして、まだ何か言いたげなマレウスへと背を向ける。そして、寮生たちを引き連れて颯爽と鏡をくぐっていったのだった。
     マレウスは彼女の背中を隣の従者に咎められるまで、ずっと見つめ続けていた。
     
       ♡   ♡   ♡

     その日の晩、レオナは寮長室のベッドの上で、クッションを力いっぱい抱きしめて唇を噛み締めていた。
    (マレウス・ドラコニア……絶対ゆるさねえ。俺にあんなことしやがって……あんな、あんな……こっぱずかしいこと!)
     レオナは今まで他生徒を陥落させてきた自身の王子様然とした行動をすべて棚にあげて、マレウスを恨んだ。少し冷たい彼の手が自身の手を取って、あろうことかキスをしたのだ。
     レオナはそのことを思い出して、鼓動が早足になって顔が熱くなるのを感じた。これは怒りからくるものであって、決してあの男に圧倒されたからではない。
     必死に自身に言い訳を並べながら、レオナは強く目を閉じて、クッションを更に強く抱き締める。千切れて綿が飛び出したって構わない。
    「こんなの、しらない……」
     だって、レオナがあんな風に『お姫様』みたいな扱いを受けたのは、生まれて初めてだったのだ。
     
     
     
     
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