彼が彼女を選んだ理由。 例えば彼女は花屋の店先に立ち並ぶ、鮮やかで艶やかな花ではない。通り掛かる者すべての目を奪う美しさや、心を魅了する華やかさを持っているわけではない。
例えるなら、目を見張る美しい緑に包まれた丘の、その美しさの一端を担う小さな野花のように、慎ましく咲いている。
マリカのそんな控えめさを、ジークフリートは好いていた。見る者すべてを虜にするわけではない、控えめな笑顔が。
鈴のように軽やかに高く転がるわけではない、耳に心地好い声音が。
目眩がするほど遠く澄み渡る青空を悠々と流れる雲のように、穏やかな話し方が、仕草が。
しかし、それがこの世界の特別かと問われれば、そうではないのだろう。彼女はやはり野に咲く一輪の花でしかなく、目にしなければ気が付くこともない。
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