フレイムチャーチに着いた途端、大きな障害物が崩れたような、もしくは倒れたような、とにかく何か雪崩のような轟音が響いた。
音の発生源は…………。
「……テメノスさんの家からだ」
***
「テメノスさん!?どうしました!!?」
ドアを壊す勢いでこじ開けて、テメノスさんの家の中を覗けば、アイテムやら武器や防具やら……とにかくあちこちに物が散乱した部屋でテメノスさんが倒れていた。
「テ、テメノスさん!しっかりしてください!僕の声が聞こえますか!?僕のことわかりますか!?ていうか生きてますか!?」
「う、うぅ……」
「テメノスさん!大丈夫ですか!?今誰か呼びますから!!」
「う……、うるさいです……」
「へ?」
「……つまり、旅をしている最中に手に入った要らないものを自宅に置いていって……、それをその都度繰り返してるうちに、家がちょっとした倉庫状態になっていた、と」
「……はい、さすがにこのままじゃ家の床が抜けそうなので、大掃除しようかと」
「で、つまづいた拍子に道具箱をひっくり返して連鎖反応のように雪崩が起こってしまったわけですか……」
誤魔化すように苦笑いしながら片付けに奮闘するテメノスさん。ちなみに僕も強制的に手伝わされている。
「ところで、クリック君はフレイムチャーチに何か用事でも?」
「えぇ……、この村の近辺で異教徒の集団が大量の武器を買収したという情報が入ったんです。それで僕とテメノスさんで調査に向かってほしいとのことです」
「……やれやれ、一介の聖職者によくもまぁそんな危険な仕事を任せられますね……。クリック君もご苦労様でした、片付けはもういいので、どうぞその辺に座って休んでください」
……いや、座れって言われても。
見た限り座れる場所どころか足の踏み場もないんだけど。
「……ん?」
「どうしましたか?」
物に埋もれてるベッドの中に、白く透き通った織物を見つけた。
よく見るとそれはレースのカーテンだった。
「……キレイなカーテンですね」
「あぁ、それですか?前にパルテティオから貰ったんですよ。でも私には特に使い道がありませんからねぇ、仕舞ったままにしていて」
「へぇ……。でも、いくら使い道が無いとはいえ、こんなキレイな物を使わずに眠らせておくには勿体ないですよ」
「欲しいなら差し上げますよ。持っていってください」
「いえ、僕も宿舎住まいだから特に使わな……」
あ。
どうせ使わないなら……。
「テメノスさん」
「なんですか?」
振り向いたテメノスさんの頭に。
フワリと、レースのカーテンをかぶせた。
「えっと……、クリック君?」
何が何だかわからないのか、さすがにテメノスさんも困惑の表情を浮かべている。
「ん、思った通りだ」
「えぇと……、何がですか?」
「こうして見ると花嫁のベールみたいだな、って」
「……ふふっ、それじゃ私はクリック君のお嫁さんになるんでしょうか?」
「えぇ、そうなりますね…………………え?」
……今、僕は何を言ったっけ?
そして目の前のテメノスさんも、ようやく自分が発した言葉の意味に気づいたのか、みるみる顔が真っ赤になっていった。
「うぉーいテメノスー!!近くまで来たから顔見に来たぞー!!……ってクリックの兄ちゃん?え?おい!二人ともどうしたぁぁー!?」
たまたま商談で近くまで通りがかったパルテティオが見たものは、物が散乱する部屋の中で身体中真っ赤になって蹲る二人の姿だった。