「あーー、肩イテェ……」
鍛錬に熱中するあまり、少々酷使しすぎた腕を労わるように強めに揉む。
いつもなら誰よりも早く鍛錬場に来て剣を振っているハズの同僚でもいてくれたら、程々のところで止めてくれたかもしれないが、今日はまだ一度もソイツの姿は見ていない。
チラリと時計を見てみると、朝の集合時間はとっくに過ぎていた。
……コレはまたいつものアレだろうか。また上のヤツらから雷が落ちてくるだろうなぁ、と憐れんでいたら。
「どいてくださーーーい!!」
聞き覚えのある声に続いて、誰かが盛大に転んだ音が響いた。
……間違いない。クリックのヤツだ。
「いたた……」
「大丈夫ですかクリック君?ほら、私の手をとってください」
「うぅ……、すみません」
「だから、もういっそ開き直って落ち着きなさいと言ったでしょう。どんなに急いだところで遅刻は決定だったんですから」
「僕は貴方のように図太……いえ、自分の失態を開き直るつもりはないんです!」
「よーぅクリック。また寝坊か?」
何やら誰かと騒いでるクリックに、ニヤニヤ笑いながら軽く挨拶する。
「うっ……」
「おや、クリック君のお友達ですか?」
あれ?この人どっかで……、……あ、確かフレイムチャーチのテメロス審問官だっけ?
でもこの人、俺たち聖堂騎士団の人間とあんま折り合い良くないんじゃなかったっけ?カラス呼ばわりまでしてるクセに、そんなヤツらの本拠地に何しに来たんだ。
「お前さ、その寝坊癖どうにかしろよ。そろそろ空気のいい僻地に異動させられても知らねーぞ」
返す言葉も無いクリックにテメノス審問官はクスクスと笑いながら、
「クリック君は一度寝ついたら、全然起きませんからねぇ」
「んなっそ、そんなことココで暴露しないでくださいよ」
「毎回毎回、君を起こす私の苦労も考えてほしいものです」
「ハハッ、言われたなークリック」
キャンキャン吠えるクリックをスルーしながら本部の建物へと入っていく二人。
……なんかあの二人、飼い主と子犬みたいだな。
「……ま、これでクリックの寝坊癖が治るんなら、まぁいっか」
──その夜。
「…………そういや、なんでテメノス審問官がそんなこと知ってんだろ」
END