フィオンと兄 自分は場違いだと思って違いない軍の定期会議が終わり、じくじく痛む胃を服の上からさする。何気なく口にした一言にお偉いさんが目をかっぴらいて採用を叫び、自分を置いてけぼりにして白熱していく議論の空気はどうも気まずく感じてしまうのだ。だったら会議中黙っていればいいじゃないか、と考えたこともあるが、困っている人を前にしたらそうもいかないのがフィオンの質であった。
日は一番高い位置にある。冬の日差しは角度があって眩しいな、と、雪がうすら積もった庭に目を細くする。城の渡り廊下から見下ろすそこは、勤務する使用人がちらほらと行きかっていた。
昼食は、食堂の料理は会議後の自分には重いだろうと見越して用意してもらったリィリィの薬膳弁当だ。少し肌寒いが、解放されている庭のベンチで外の空気を感じながら食べるのもいいかもしれない。そう算段していると、ふと、その庭の一角に見慣れた人物が見えて、フィオンは珍しく表情をぱっと明るくすると、胃の痛みも忘れて城の廊下を駆けだしていた。
すれ違う役人や使用人にぶつからないようにしながら、飛ぶように階段を駆け下り、ガラスがはめ込まれた扉を開いて庭へと飛び出す。
「兄さん!」
追いつくことができるルートを選んだためか、声をかければすぐに気づく距離に彼はいた。
フィオンの二倍ほどの体積があるであろう男がはたと振り返る。短くしても誤魔化せない癖がある金髪が、冬の光にきらめいて、フィオンよりも深い緑の瞳が嬉しそうに弧を描いた。
「フィー! ちょうどお前に会いに行こうと思ってたんだ!!」
駆け寄る弟を軽く抱擁して、彼は太陽のような表情を浮かべる。
ベルヌ・オーエン・ディアミッド。似ているような似ていないような、フィオンの兄であった。