建物、部屋の描写など(小説から抜粋)【ルカくんの家】
・ヒーローとして与えられたルカの部屋は、彼らしさと生活感に溢れているのだが、ルカが一人で暮らしている借り物の部屋は驚くほどに物がない。生活するのに困ることはないが、どこか物足りなさを感じる部屋だった。しかし、寝室の雰囲気は他の部屋とは違ったものがある。掃き出しの窓の前に、一人暮らしのはずなのにダブルベッドが置いてあり、全身鏡の中にもう一つベッドが映っている。サイドテーブルの上に置かれたアロマディフューザーが甘い匂いを部屋全体に広げている。
【レグルスの楽園】
・そこにはおとぎ話にでも出てきそうな、城のような外観の建物があった。
・扉に鍵はかかっておらず、重そうな見た目に反してほんの少しの力で簡単に開いた。作り物の高級感を漂わせた建物内は、甘ったるい香りがしている。
・俺は大袈裟に構えられている扉を開ける。クラシックの名曲と楽園の子たちが優しく穏やかに俺たちを迎え、
・上品な装飾が施された廊下。柔らかなカーペットが足音一つ響かせない。
・背後には、それなりに高そうなベッドが置いてある、ということが前方に置かれている姿見で確認出来た。
・薔薇の生けてある花瓶を倒して割ったりしながら、ルカは扉の前にたどり着いた。重そうな見た目に反して、簡単に開いてしまう、鍵のかかっていない扉。
【ユーエンさんの部屋】
・フィルターに口紅のついた細長い煙草が、中華風の装飾が施された銅製の灰皿に置かれて、そしてその中で燃え尽きた。
・中華風の気品のある装飾がなされ、赤と黒で統一されたレイアウトの室内には流石のルカも萎縮してしまう。明るすぎない照明は落ち着いた雰囲気を醸し出し、壁には書画や扇子のオブジェ、中国格子に天蓋付きの中国古典様式のベッド。リトルチャイナの高級ホテルに勝るとも劣らない——
・三人用の黒の革張りソファの中央に腰掛けている
・何が収納されているのかも分からない棚をただ見つめている。
・大抵の人間は、この部屋に入りたがらないし、入ったとしても警戒を怠らない。ユーエンはそうした人間達を好ましく思うし、我が物顔で部屋に入ってくる変わり者も好ましく思う。
・ユーエンの部屋に、呼ばれてもないのに入ってくる物好きなどそういない。それでもいつ誰が訪ねてきてもいいように、“困っている人の助けになるため”に。基本、ユーエンが部屋にいる間は部屋に鍵がかかっていない。
・煙草の甘い香の匂い。
【シュウさんの漢方薬局】
・リトルチャイナの喧騒から少し離れた場所にて、中華風の見応えのある建物を拠点として構え、漢方薬局『雛菊堂』を新しくオープンしたばかり。
・——VIP対応、とでも言おうか。ユーエンは通常入ることが許されない雛菊堂の二階に、足を踏み入れることができる人間だった。
・透かしの丸型テーブルの上に2人分の料理が、
・—— リトルチャイナの喧騒から少し離れた場所にある、漢方薬局『雛菊堂』。少し入りにくい雰囲気を醸し出す、中国式の中空木彫りの扉を開ければ、別世界に迷いこんだかのように静かな店内、落ち着いた暖かな照明と、独特な匂いが人々を出迎える。
・目に入るのは一定の間隔でディスプレイされた、甘草、麻黄、大黄などの生薬が詰められた透明な瓶や、中華風の装飾がなされた薬壺など。堂主が立つであろうカウンターの背後にはずらっと、引き出しの数を数えるのも億劫なほどの薬棚が壮大に並んでいる。
・雛菊堂の二階は、一般の客が立ち入ることのできない堂主の部屋である。中国独特の空気感をそのままに一階とそう様変わりした様子はなく、薬棚は並び、ベッドの上に吊り下げられた薬草があり——
・格子窓を破壊して外に飛び出す。
【アルデバランのカフェ】
・レッドサウスストリートの、人が集まる居住区からはやや離れた倉庫街。
・「クランベリーのパンケーキが美味しい」と紹介されたその店は、場所を知っていないと少し分かりにくいところにあった。というのも、そのカフェは倉庫の外壁をそのままに、廃墟のようにも見えたから。倉庫を解体したのであろう骨組みが残る空間には真新しいテーブルと椅子が置いてある。
・よくよくみれば所々に人の手が入ったそれは、レトロな雰囲気を醸し出し、星が散りばめられたブラックボードには白い丁寧な文字で「ようこそ」「本日のおすすめ」「クランベリーと苺のパンケーキ」と書かれていた。
・迷子のように廃された貨物列車の引き込み線跡を追いかけて、やっと辿り着いた店の名前は『プレアデス』。建物と比べれば鮮やかな色をした木製の扉を開いて、エラリーは思わず「わぁ」と声を上げたのだった。
・天井に、星々が煌めいている。サブスタンスを使った投影機なのだろう。室内の照明は星の光を喰らうことなく、冬の夜空のように星が輝いていた。