誘われ 当てつけなんて馬鹿げている。だがこの鬱憤を酒だけでは晴らせそうにない。
手元の酒は緩くなるばかりだ。そういう目的の為の酒場に来ているが、悲しいことに誰からも声がかからない。余計に惨めさを感じるが、自分から声をかける気にもならなかった。
「あら」
その声が自分に向けられていると気付いたのは、隣に座った誰かの長い髪が腕に触れたからだ。
「お久しぶりじゃない?」
髪の長い女が言った。赤いドレスが目につく。誰だったかと思って顔を見れば、何十年前か前に会ったことのある女だった。
「よく覚えてたな」
「あなただって覚えていたでしょ」
その何十年か前、マトリフは同じようにこの宿で飲んでいた。その時にどんなきっかけだったか声を掛けて、彼女と一夜を過ごした。
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