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    msyesterday_029

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    匋依新刊プロローグ

     ガラクタ置き場と化している翠石邸敷地内の古い蔵、その地下にそれは在った。依織に伴われて隠された階段をくだり、埃っぽい蔵から温湿度の管理された空間に入るその瞬間、善はいつも空気の質の変化に少しだけ怯む。
    「どないしようか」
     依織の声は静かだった。
    「なあ、善」
    「……若の、お心の通りに。私は、あなたについていきます」
     そこは武器庫だった。入手経路も資金も限られている中依織が苦心して集め、保管している銃火器が整然と並べられている。
     依織は善の言葉で笑ったようだった。静かではあるが穏やかではない、虚しげに冷えた低い笑い声が、喉の奥から音のない武器庫に響いた。
    「ほな、派手に散ってみるか?」
     いっそのこと、と言って振り返った依織の表情はやはり冷えたものだったが、善が笑い声から想像していたほど硬くはない。
     眉を寄せて微笑むのはたしかに善がその若き日に全身全霊をかけて守ると誓った男だ。
     善は拳を握りしめ、搾り出すように「お供します」と答えた。
    「どこまでも、この命のある限り」
     依織は苦く微笑んだまま瞳の色を和らげた。
    「アホやなあ……」
     善の目に、赦す笑みにも、赦された笑みにも見えた。
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