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    インド映画のファイブスター物語パロシリーズ。こちら(https://poipiku.com/1310801/9484083.html)の続きで、ランガスタラムのカシクマです

    初陣 大インドサーカス傭兵団はくさび型に陣形を組んだ。
     カーシたち味方側のGTMは自分、クマール、キキ、アーリアの四騎とサマルが操縦する無人五騎の九騎。それに対し、フィルモア帝国中央騎士団は陣形を組んでいるだけで二十四騎、プラス第二陣に十二騎も控えている。
     自然と、コントローラーを握る手に力が入る。
    「クマール、カーシ、これが君たちの初陣だ。模擬演習だとはいえ、相手はエリートばかりのフィルモア帝国軍。緊張するのも仕方ない」
     耳元から大インドサーカス傭兵団の団長、アーリアの声が聞こえてくる。
     彼女から、初仕事はフィルモアでの演習だと聞いていたが、ここまで大規模な演習だとは思っていなかった。せめて、GTMの数は同等くらいだと普通は考える。
    「ええ、緊張してますよ。相手は本物のフィルモア軍ですからね」
     してやられたカーシは棘のある声で答えた。
    「すまん、すまん。うちの主戦力は西太陽系に向かわなくてはならなくてね。私とキキしかいないのは、諦めてくれ」
     アーリアはエネルギー補給のため、スタバのキャラメルクリームのミルクをブレべミルクに変更、シロップとソースを増量、その上でチョコチップを追加したカロリーの塊を飲みながら答えた。
    「フィルモア軍とはいえ、彼らも新兵ばかりだし、アトール教導学院でもAP騎士団相手に演習してただろう? なら大丈夫さ。それに、キキと無人騎は基本君たちのサポートに徹するから、好きに動くといいよ」
    「ば、僕も精一杯、か、カーシ様とクマール様のお手伝い、し、します!」
     ホストAFのサマルは各GTMの調整に忙しくコンソールを叩きながら新人たちを励ます。サーヒルは西太陽系での任務があるので、今回はサマルだけで九騎のGTMを操縦する。特殊な造りのサマルに複数騎の操縦は無理なことではないが、ひとりですべての状況処理と設定を行わねばならないため、とにかく、忙しい。
     ふたりにそんなことを言われても、とカーシは内心ごちる。好きに動くどころか、相手から逃げ回るだけで精一杯だろう。
     フィルモア軍といえば星団最大の軍事力を有し、保有GTMは八千騎とも言われている。その軍事力を支えるのが苛烈な教練であり、こうして大インドサーカス傭兵団に実践的な演習を依頼しているのだった。
    「カーシ、大丈夫そう?」
     相手の陣形をにらみ付けていると、今度は同じ新人であり恋人のクマールから通信があった。
    「悪態つける程度には。クマールも緊張してるだろ?」
     クマールからの通信は個人回線のため、他の誰にも聞かれることはない。
    「うん、正直怖いよ。演習は何度も経験したけど、こんなに大規模なのは初めてだからね……」
     これは演習、訓練だとクマールは自分にいいきかせる。それでも、星団最強と呼ばれるフィルモア軍のホルダ31ユーレイの群れを間の前にすると恐怖が勝った。
     演習といえど相手とは本気で戦わねばならない。どんな時でも本気で戦うことができる騎士だけが強くなれる。本気の戦いとは殺し合いに他ならない。
    「怖くて当然だ。俺だって、気抜いたら小便漏らしそう」
     クマールの声に恐怖が混じっていることに気づき、カーシは冗談で勇気づけようとした。
    「僕もだよ。だから、目標は大怪我しないことと漏らさないことにしようか」
    「その二つと……生き残ることだな」
    「うん、それが一番大切」
     クマールもカーシもお互いに、そばに恋人がいて欲しいと願った。恐怖に震える手を、体を支え合いたかった。
    「さて、フィルモア軍から展開完了の合図が来たよ。間もなく戦闘開始だが、今のうちに聞いておきたいことは?」
     お喋りに夢中になっていると、全体回線からアーリアの声が届いた。ふたりが励まし合っているうちに、刻一刻と訓練の始まりに近づいてきた。
    「大切なことを教えてもらってないんですが、まず、どう動くんですか?」
     忘れっぽい団長にカーシは聞く。
    「あれ? 作戦を伝え忘れてたか。まずはね、向こう側に二十四騎いるがまとめて相手しようとしちゃ駄目だ。右翼側六騎に向けてソニック・ラッシュを仕掛けるよ。数で負けてる時は防戦になりがちだし、地の利も向こうにあるけど、新兵たちは予想外の動きに弱いもんさ。いいね?」
     団長とはまだ短い付き合いだが、よくない、と言っても無駄だとふたりは悟っていた。たった九騎で突撃せよ、など無茶な作戦__どころか作戦とも呼べるものではない。
     なのに、アーリアの言葉は不思議と説得力があった。無茶な作戦でも、完遂できる気がしてくる。
    「ソニック・ラッシュはサマルが動かしてくれるから、君たちは戦闘に集中するといい。さあ、突撃!」
     九騎が塊で動く。アーリアの言葉通り、傭兵団は防戦に徹するとと予想していたフィルモア軍の動きが崩れた。
     アーリアは的確に小隊長騎に目を付けた。相手からの情報によれば今回の相手は指揮官を含め、全員が新兵か士官学校卒業間もない騎士たちばかりだった。
     まったく、フィルモア軍は性格の悪い奴らばかりだと、ソニックブームで邪魔なユーレイを弾き飛ばし、旗騎GTMを潰しながら団長は嘆息した。今回の本当の演習目的は恐怖の克服だった。
     騎士の存在理由は戦争の代理人。一般人に代わり、戦場で戦い死んでゆくのが騎士の役目だ。しかし、誰だって死を恐れる。若い頃から何十もの戦場で戦いを経験し、指揮官として傭兵団を導いてきたアーリアにとっても死ほど恐ろしいものはない。その恐怖をコントロールできるかどうかが、強い騎士と弱い騎士の分かれ目だった。
     だから、アーリアは手加減しない。殺さない程度に、しかし、バックラッシュ(GTMが強力な衝撃を受けた場合、操縦者もダメージを受ける)を感じるようGTMの腕や肩を的確に破壊してゆく。この戦闘を経験しても立ち続けることができる騎士だけがフィルモアの騎士、いや、すべての騎士にこの条件が当てはまる。恐怖の教育、これが今回のアーリアの仕事だった。
    「クマール、カーシ! 無理に踏み込まず、味方と離れすぎるな! 離れれば狙われるぞ!」
    「は、はい!」
    「はい、団長!」
    「うちの無人騎なら盾にしたっていい! 打ち込む際は間合いに気をつけろ!」
     予想外の攻撃に、フィルモア軍は慌てて陣形を変え、第二陣をも投入した。
     焦った第二陣の投下にアーリアは心の中で舌打ちした。新人指揮官らしい数で押す作戦のようだ。アーリアは目の前で体勢を崩したユーレイのフライヤーに付属するガードスパイクを掴み、後方にぶん投げた。
    「そいつを頼むキキ! 相手はろくに陣形も組まず囲んできている!」
     飛んできたユーレイをキキは驚愕しながらも切り伏せた。この団長と一緒に仕事をしていると、心臓が何個あっても足りない。
    「ま、ますたー! ユーレイぶ、ぶん投げるなんて無茶しないでください! ホーザイロのパワーだから、な、なんとかなったんですよ!」
    「はは、これ結構楽しいな。ユーレイのガードスパイクって掴んでぶん投げるためのもんじゃないのかと思えてきたぞ!」
    「ふ、ふつうガードスパイクを掴むの無理なのに、ますたー! も、もう一回やろうとしてるでしょう! やめてー!」
     戦闘開始から一時間が経とうとしていた。
     GTMがぶん投げられるところを見て、クマールとカーシの緊張が急速に解けてゆくのを感じた。教導院で習わなかったどころか、こんな戦い方をするのはアーリアくらいのものだ。
     緊張はほぐれてきたが、団長の指示通りに戦う。アーリアやキキと離れない、踏み込むときは間合いを慎重に測る。クマールとカーシは基礎に忠実で堅実な戦い方をし、本能と天才的な剣技でどうにかするアーリアとは対照的だった。
     相手もフィルモア軍ということで、そう簡単に撃破することはできないが、ふたりとも着実に戦闘という形に慣れていった。
    「戦闘終了! 戦闘やめ!」
     何時間か戦い、残るユーレイが半分を下回った時点で戦闘終了の合図がフィルモア軍から発せられた。
     明らかに強そうなGTMはアーリアが優先して相手をしてくれたので、クマールもカーシも大きな損傷と怪我なく終わった。

    「いきなりすごい経験しちゃったね」
     戦闘が終わり、宿舎の居室に備え付けられたシャワーを浴びてさっぱりしたクマールはミネラルウォーターを飲みながら恋人に話しかけた。
    「初陣がフィルモア軍だってだけですごいのに、まさかユーレイがぶん投げられるなんてな」
    「本当にびっくりしたよね! でも、あれなら敵を殺さずに損傷を与えることができるって、団長もわかってやったんだろうね」
    「おい、あんな奇戦法ができるのは団長くらいだからな。お前、試してみたいと思ってるな」
    「だってさ、あれなら相手も怪我せずに済みそうじゃないかな?」
    「だーかーらー!」
     本当の意味での騎士となっても相変わらず平和主義の幼馴染に呆れつつ、カーシはクマールのミネラルウォーターを奪って飲み干した。
    「あ、酷い。勝手に全部飲むなんて」
    「はいはい、俺は酷い男ですよ」
     カーシはクマールの生き方を否定したくない。できることならすべてサポートしたかった。
     故郷でいくら虐げられても荒むことなく、気高さを貫いた幼馴染。誰もが諦めたように生きるランガスタラム村で自分を保ち、共に逃げようと誘ってくれたクマール・バーブ。ずっと眩しく想い、ずっと愛しく想っている。そんな彼が曲がることなく今まで進み、戦場を経験しても相変わらずの平和主義者。これがカーシの愛する人だった。
     やいの、やいのと喧嘩ごっこをしていると、アーリアからモバイルに連絡があった。
    『食事の準備が整ったようだ、食堂の場所はわかるね?』
    「はい、大丈夫です」
    『ならよし。フィルモアの飯はうまいからな、たんと食べるといい』
     内容は食事の連絡だった。
    「飯だとよ」
    「そうそう、フィルモア料理楽しみ――それにしても……ランガスタラム村からずっと遠いところまで来たんだね……」
     クマールは家族のことを思った。第一子に騎士血が発生し、つま弾きされたバーブ家のことを。血の発生はクマールのせいではない。完全なランダムにも関わらず、村の長であるプレジデントは彼らを恐れた。
     そして今、プレジデントが恐れたものすべてをクマールは持っている。一般人の数百倍の力、最強の兵器であるGTM。望んだものではない。望んではいないが、一般人には決して手に入れられないものをクマールは持っている。
    「俺は、クマールと一緒に旅ができて楽しいけどな」
     恋人の顔に浮かんだ憂いの表情をカーシは見逃さなかった。楽観的に見える彼だが、いつも悩んでいることをカーシは知っている。だから、素直に気持ちを伝えた。
    「――僕もカーシと一緒で楽しいよ。そうだ、この仕事が終わったら一ヶ月の休暇だったよね。フィルモアを観光したら、久しぶりに帰郷しない?」
    「それもいいな。弟たちにたっぷり土産を買ってかなきゃな」
    「うん、妹には菓子で、父さんと母さんには何がいいかな……」
     ふたりはそんなことを話し合いながら食堂へと向かった。
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