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    elf_ninja_

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    アイアンハートのパーカーとジョンの出会い、捏造。ネタバレが含まれます。

    Für Immer ズレイマは困っていた。彼女の悩みの原因は姉の元配偶者、アーサー・ロビンスのせいだった。
     あの男は姉の葬儀で彼女に頼み事をした。一二の息子、パーカーを預かってほしいと。シカゴでは一番と目される億万長者だというのに、なぜ亡くなった妻の妹を頼るのか。彼女には理解できなかったが、カッとなりやすいズレイマは「母親を亡くしたばかりのてめえの息子を人に押しつけようとするなんて、このクズ野郎! お前のそばにいるのはパーカーのためにもならねえ」と罵り、甥っ子を引き取ったという訳だ。
     問題は、アーサーはビリオネアだというのに、パーカーの養育費を月に五百ドルしか寄越さないことだった。この金額ではズレイマは仕事をしつつ子どもを育てなければならない。それに、彼女の仕事はストリッパーなので夜は家をあける。一二の子どもを放っておく訳にもいかないが、ほぼ毎晩のシッター代もかさんでしまう。
     アーサーには何度も養育費の引きあげを要請していたのに、何の返答もない。あんな男の元で育つより、自分が面倒を見た方がずっとパーカーのためになるとズレイマは言い聞かせているものの、金は現実問題だった。
     なので、彼女は同じ団地に暮らす知り合いの子にシッターを頼むことにした。
    「シッターって、なんで俺がそんなこと」
    「あんたが真夜中にほっつき歩いて困るってアシュリーが言ってたの。だから、夜間のシッターで金を稼ぎつつ、この団地から出さないって寸法」
     ジョンは団地の古ぼけた壁にもたれて文句を言った。
     不満はあるものの、ズレイマの言葉は本当のことで、ジョンはここ最近目的なく友だちと集まったり、いい感じの女友達と遊んだり真夜中に出かけている。一七にもなって親に束縛されたくないジョンだが、最近アルバイトをクビになった――原因はジョンがレジの金を盗んだから――ばかりで金がなかった。
    「いい? 仕事は朝まで子どもを見てるだけ。楽な仕事だと思うけど?」
    「でも二〇ドルは安すぎる。せめて四〇はほしい」
     とにかく金がないジョンは賃上げを交渉する。この仕事は夜から朝まで、時給にすると安すぎるというのが彼の主張だった。
    「二五ドル以上は出せない。別にシッターはあんたじゃなくてもいいんだからね」
     ジョンは不満げな顔をしたものの、最終的にその金額で手を打った。普段から酔客を相手にしているしたたかなズレイマでは相手が悪い。
    「わかったよ!」
    「バイト代は朝払うから、パーカーをよろしく」
     遅刻しそうなズレイマはそう言うとさっさと去っていった。
     残されたジョンは朝まで何をしようかと考えつつ、ずっとダイニングテーブルの椅子に座り、俯いていたパーカーに声をかける。
    「パーカー、俺はジョンだ……そうだな、勝手に遊んでてくれ」
     妹たちがいるとはいえ、子どもの相手は苦手なのでズレイマが帰ってくる直前まで自分の部屋に帰ろうかと考えるジョンに、パーカーはぼそりと愛想なく言葉を返す。
    「金は渡すから帰っていいよ」
     予想外の言葉にジョンはその子どもをまじまじと見つめた。
     短い髪、そばかすが散る顔、珍しいはしばみ色の瞳、笑えば可愛げがありそうなのに、ジョンに負けず劣らず不機嫌そうだった。
     彼は椅子を持って立ちあがり、食器棚のそばに置き足りない身長を補って最上段に手を伸ばしていた。パーカーは食器類の奥からドル紙幣と小銭をいくつか取り出して数える。
    「とんだ悪ガキだな」
    「――帰っていいから、おれに五ドルくれ」
    「それだと二〇ドルしか残らねえじゃないか」
     サボりつつバイト代は全額もらうつもりだったジョンは納得がいかない。とはいえ、年下の子どもから金を奪うのもみっともないと思ったジョンは素直に言われた金額だけ受け取る。
    「帰れよ、おれも帰りたいんだ」
     金を受け取ったものの、どうすべきかと考え立ち尽くしていたジョンにパーカーは不思議なことを言った。
    「帰るって、どこへ帰るんだ?」
     ジョンの質問にパーカーは彼をちらりと見あげ、ほんの少し不安がにじむ表情で街の名前を述べた。その場所はサウスサイドの外、シカゴでも屈指の高級住宅街が広がるエリアだった。
     金を盗むような悪さをしつつも最近越してきたばかりで、シミのない白いシャツを着たパーカーはここら辺の子じゃないとジョンは薄々感じていた。もしかして、本当にその街の出身なのかもしれない。
     好奇心がジョンを包んだ。面白そう、という気持ちだけで質問を重ねる。
    「五ドルじゃそこへは行けないな。そもそも、道はわかるのか?」
    「――わかんない」
     強がっていたパーカーだが、帰り道がわからない不安で眉をさげた。
     その子はは望んで叔母のところにきたわけじゃない。本当は父親と一緒にいたかったし、あの家から離れたくなかった。パーカーは父親に捨てられたという現実がまだ受け止められていない。
     寂しくて、不安で、本当はただ怖がっているだけ。言葉にしなくても、ジョンにパーカーの気持ちがなんとなく伝わった。ジョンは別に優しい人間じゃない。現にアルバイトをサボって給料だけ受け取ってしまおうと考えていた。
    「連れてく。ここらは物騒だから、迷子になって事件に巻き込まれても俺の目覚めが悪いしな」
     なのに、自分でも不可解。頼まれたわけじゃない、ジョンは道案内を買ってでた。
    「頼む。おれはただ、帰りたいんだ……」
    「うん、帰ろう」
     ジョンの言葉に対し、パーカーはくしゃりと破顔する。その表情は子どもらしく、無邪気な喜びがあった。
     家に帰るため、パーカーは自分の少ない荷物をリュックサックにまとめ、ふたりで団地をでた。
     パークウェイガーデンホームズからロビンス邸まで電車で三〇分と少し。道案内しつつ、ジョンは何を話せばいいのかと困った。パーカーは五つ年下で、出会ったばかり。自分の妹たちですらそう仲が良くないため、年下の子どもと何を話したらいいのかわからなかった。
     ふたりとも無言で電車を乗り継ぎ、駅から数分歩いたところで目的地に到着する。
     目の前に広がるのは、個人が住むには大きすぎると思ってしまうほどの大邸宅。暗くて見えにくいが庭木はきれいに手入れされているはずだろう。同じシカゴといえど、ジョンには一生縁のない場所に思えた。
     戸惑っているジョンとは反対に、パーカーは躊躇いなく門の呼び鈴を押す。
     ザザっというノイズの後に、「どなた様ですか?」というかしこまった声が闇夜に響く。
    「おれだ、パーカ、パーカー・ロビンス。帰ってきたんだ。父さんはいる?」
     インターホンのマイクは身長より高い位置にあり、パーカーは背伸びをしながら言った。そばかすが散る顔には期待と、一抹の不安が浮かんでいた。
    「――その……お父上はあなたに会わないと言っており……申し訳ございませんが、お引き取りください」
     数秒の沈黙後、インターホンの声は言いにくそうに伝えた。
     アーサー・ロビンスはもう息子に興味がない。母親を亡くしてからというものの、父親の愛を求めて問題行動ばかり起こすパーカーはアーサーにとって疎ましかった。父親はビジネス上のトラブルと同じように実の息子を追いやり、排除した。数日経って後悔することもなく、むしろ息子の問題と関わらなくて済むことにほっとしているほどだった。
    「本当に? 父さんが会いたくないって、本当なの、マイケル?」
     かすれ気味の声は震え、パーカーはぎゅっと拳を握りこんで泣かないよう気を張った。
    「お帰りください。あなたの家まで送りますから、どうか帰ってください」
    「もういい!」
     困っているような声にパーカーは怒鳴り返し、足元に落ちていた小石を拾い、一向にあかない門へ向かって投げた。投げられた石は数メートル先に落ちただけだった。
    「戻ろう、ジョン」
     落ち込んだ声で足元を見たままパーカーは決めた。ぐずぐずと駄々をこねても父親の気が変わることはないだろう。それはアーサーと過ごした一二年間で叩きこまれた。
     自分の決定事項を覆すのは弱い男のすることだ、言い訳をするな、めそめそするな、男は泣くんじゃない。アーサーから受け取った悪しき教えはパーカーの根幹にある。
     だから、父親からの拒絶を前にパーカーは涙を流さず、歯を食いしばって耐えるしかなかった。悲しみへの対処法はそれしか知らなかった。
     自分の感情を振り切るようにパーカーは早足できた道を戻り、ジョンも無言でついていく。
     地元と違って閑静な住宅街に響くのはふたり分の足音だけ。
     ジョンも何と声をかければいいのかわからない。一二歳の子は父親に拒絶されたばかりで傷ついているが、それを押し込めて表そうとしない。いっそ泣きわめいていた方が声をかけやすいだろう。
     石畳の私道から地下鉄へ、数駅をぼんやりとやり過ごしてジョンは思いついた。
    「ここで降りるぞ」
    「ここ?」
     ジョンの突然の行動にパーカーはついていくしかなかった。このままひとりで帰れるかわからないし、家まで送ってくれたジョンを信頼し始めていたため、彼に倣って電車を降りた。
    「どこ行くんだ?」
    「映画館。ちょうどトランスフォーマーが見たかったんだ」
     ジョンが降りた駅には友だちがアルバイトしている映画館があり、つい先週からマイケル・ベイ監督の『トランスフォーマー』が公開し、いつか見に行こうと考えていたところだった。今がそのタイミングだ。慰めたり励ますのは苦手だが、トランスフォーマーなら子どもも喜ぶだろう。
    「トランスフォーマーなんてガキっぽい」
    「うるさい、一二はガキなんだから、ガキらしく変身する車でわくわくしてろ」
     反抗的な態度のパーカーも本心では映画が見たい。それに、このままみじめな気分で叔母の家に帰るより、映画で気晴らしする方がよさそうだった。
     六フィートはありそうな背の高いジョンを追いかけるように真夜中のサウスサイドを歩く。最初はやる気のないシッターで好都合だと思っていた。金を渡せばパーカーを放って遊びに行きそうなタイプだと思っていた。
     なのに彼は知り合ったばかりのガキを道案内してくれた。傷ついてめそめそしているパーカーを映画に誘ってくれた。
     第一印象はいい方へ大きく裏切られた。叔母が選んだシッターが彼でよかったとパーカーは心から思う。
    「よう、ジョン。お前に弟っていたんだ」
    「ちげーよ、こいつはいとこみたいなもんだ。トランスフォーマー二枚、タダで頼む」
     映画館の窓口にはジョンの友だちは、やる気皆無でガムを嚙みながら、携帯をいじりながら勤務していた。パーカーは明らかにワルそうな青年に気圧され、ジョンの後ろに隠れる。
    「はいよ。オーナーに見つかった時は俺の名前を出すなよ」
    「わかってるって。パーカー、ポップコーン食うか?」
     ジョンからチケットを受けとり、パーカーは意地を張らずに頷く。夕食は食べていたけれど、映画にポップコーンはもちろん必要だ。
     コンセッションの店員からバターのかかったポップコーンを受けとり、パーカーはこの夜二度目の笑顔を浮かべた。
     稼いだバイト代は切符とポップコーン代で消えた。とはいえ、ジョンは特にもったいないとは感じない。刹那的な消費行動はいつものこと。それに、なんとなくパーカーを放っておけなかった。
     父親に捨てられるのは辛い経験だ。ジョンの父親は現在服役中。彼の父親は家族を養うために窃盗、強盗、その他多くの犯罪を行っていた。メキシコからアメリカへ密入国し、英語が不得手な中、懸命に生きようとして犯罪に手を染めた。
     ただ、彼はジョンや家族を愛していたし、ジョンも父親を愛している。愛情なく捨てられるというパーカーの気持ちを完全に理解できるとは言えないが、映画とポップコーンをおごってやるべきだとは感じた。
     映画を見いている最中、パーカーはポップコーンをほおばり、ソーダを飲んで、面白いシーンには声をあげて笑い、アクションシーンには息をのんで子どもらしい反応をしていた。
     父親から会いたくないと伝えられ、泣きそうになっても泣かずに我慢してた姿よりずっといいとジョンは思った。自分は彼の一晩だけのシッターで、本物のいとこではない。でも、父親から捨てられた子を放置しておくほど冷酷でもない。
     映画が終わり、劇場からの帰り道はふたりとも笑顔で、笑い声をあげていた。パーカーとジョンはオプティマスプライムのセリフ「オートボット出動」をどっちが上手く真似れるか競い、どちらも似てはいなかった。
     七月の暑い夜にふたりの笑い声、喧嘩の怒声、クラブから漏れる大音量の音楽、タクシーのクラクションが響く。
     ただ、時刻は真夜中を過ぎ、日付を跨いでいた。
     地下鉄に乗り、シートに座るとパーカーはうつらうつらし始めた。眠くなるのも仕方ない、いつもなら寝ている時間だ。
    「起こすから寝てていいよ」
     ジョンの言葉にパーカーは反抗せず頷き、目を閉じる。すぐに眠り始めた彼の体が隣のいびきをかいている酔っ払いの方へ傾いたため、ジョンは自分にもたれるよう引き寄せた。
     彼の体温を感じながら、弟がいたらこんな感じだったのだろうかとふと思った。妹たちはまじめで、ハイスクールをほぼドロップアウトしかけている兄を反面教師に勉強に打ち込んでいる。勉強熱心な妹たちをジョンなりに愛しているが、気安い会話をしたのはかなり前のこと。
     その温かさは妹たちとぎゅうぎゅう詰めで電車のシートに座り、家族でインディアナデューンズへ遊びに行ったことを思いだす。
     数駅電車に揺られ、結局ジョンはパーカーを起こさずに背負って降りた。背中に一二歳の子ども、左手にリュックサック。ジョンが嫌うダサい行為の究極系のようなものだったが、地元のパークウェイガーデンホームズ をそのまま歩く。
     七月に子どもを背負って歩くのは汗がふき出すほど暑かったが、ジョンはパーカーを起こさなかった。穏やかな寝息を聞きながらふたりが暮らす団地へと帰った。
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