四半期締の繁忙を過ぎた七月のはじめ、天国獄は休暇を取る。早い夏休みだと言ってはいるが、異国から年に一度戻ってくる恋人と過ごすためなのだと、みな知っていた。なにかあったらすぐ連絡しろと面倒見の鬼だから言い置いてはいくが、だから休暇中獄の携帯は、一度も鳴ることがない。
どこでなにをしているのかは誰も知らない――調べない。はじめて休暇を取った年、ベンゴシが不動産を購入したようだという情報がイケブクロ方面から流れてきたが、誰もそれ以上のことは聞かなかった。どこにいようがなにをしていようが、知る気もなければ調べる気もない。年月が過ぎてもその姿勢は変わらず、元気に帰ってくるのだからそれでいいと、それだけをみな思っている。「みな」というのは、僧侶見習い、ビジュアル系ボーカリスト、獄法律事務所の所員一同であり、おおざっぱに見繕えば、空厳寺の住職あたりまで含まれるだろうか。普段は歯に衣着せずものをいう面子もこの件に関してはぴたりと口を閉ざし、息を潜めるようにして獄を――その向こうに見え隠れする恋人を――見守っている。
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