ナタンポオレグに呼ばれていたナターシャは、少し診療所を空けていた。今後の物資の対策と、リベットタウンについての所管を互いに交換し、少しの世間話の後、診療所へと戻る。昼間は鉱夫等で働く親が預けている子供が多く居る診療所で、後暗い話を聞かせたくは無いナターシャのワガママだった。
診療所を空ける際は、ゼーレに留守番を頼んでいる。ボルダータウンも騒がしくないし、何も無かったのだろうと安堵を抱えて、扉を開けた。
「おかえりナタお姉ちゃん!」
「……それは?」
出迎える子供たちの手に握られる犬の形を模した風船に、ナターシャは目を丸くする。ゼーレを探せば、彼女よりも先に目立つ赤いジャケットと紺色に襟元が白い髪が目に入った。その手に空気ポンプと、膨らませる前の風船が握られている。
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