モンブラン「ダミア、お誕生日おめでとうございます」
「おー! ありがとな!」
レイフが借りている拠点と言っていい住まいにダミアを呼び、目の前にケーキを出す。ダミアと前もって連絡を取っていたため、こうして呼べたのだ。ケーキはレイフの手作りだ。本当なら、料理も出そうかと言ったのだが、間髪入れずに断られてしまった。今度こそ上手く作れるような気がしたのにな、とレイフは残念そうに思いながらも、ダミアを見た。
「このケーキ……モンブランか?」
「そうです、アマロンを使ってます」
「へー! 王様って呼ばれてるやつじゃん!」
ダミアは感心したようにケーキを眺めた。アマロン、様々な栗の中で特段に甘い栗の事だ。身も大きいのだが、育てるのが難しく、しかも、大きく育てようと魔力を使うと、すぐに枯れるという性質を持っていた。なので、完全な手作業、時間をかけてゆっくりと育てる。そのため、栗の中の王様、という意味で【アマロン】と呼ばれるのだ。一粒だけでも驚くほどの高額で取引される。その高額さに、一時期偽物のアマロンが出回るほどだった。偽物のアマロンと区別を測るための道具すら開発されるほどに。
「すっげー……俺初めて見た。匂いも既に甘いな」
ケーキを一口食べたダミアは、その甘さにフォークの進む手が早くなる。
「……母さんが送ってきたんです」
「そうなの?」
食べながら返事をすると、レイフは気まずそうに小声になる。
「……この前、うっかりダミアの誕生日の事を言ったんです。……そしたら送られてきました」
「レイフのかーちゃん太っ腹だな!」
「……そうですね」
一粒だけで高額なアマロンだ。もちろん、モンブランにもふんだんに使っている。ダミアには言うつもりはないが、恐らくモンブランの分だけでも相当な金額だ。まぁ、オルグレン家にとっては、そんな大差ない金額なのだが。
「それで、母さんの伝言なんですけど【今度家にいらっしゃい。ダミアくんの誕生日会しましょう】って書いてありました。ダミアがいいなら返事しますけど……」
「いいぜ!」
「即答ですね……分かりました、返事しておきます」
ダミアの即答に笑いつつ、レイフは少し考え込む。一応確認した方がいいかもしれない、とダミアに聞いた。
「一応聞くんですけど、誕生日会ってケーキと料理を食べて、プレゼントを貰う、ですよね?」
「それ以外あるのか?」
「いえ、確認したかったので」
祝い方は一緒なのか、とレイフは安心した。
「なら母さんに連絡しますね、忙しくなりますね……料理もプレゼントも沢山準備しなければならないので。早めに連絡しないと……」
レイフはそう言った。自分も一度実家に帰らないと行けないかもしれない、もしかしたら暫くここを留守にするかもしれない。そんなレイフの様子にダミアが首を傾げながら聞く。
「え? 俺一人だろ? そんな大掛かりにしなくても……」
「え? 普通では?」
「普通じゃないな!」
「えっ」
「まぁレイフだしなー」
ダミアはそう笑いながらモンブランを食べる。レイフは、ダミアの先程の一言に衝撃を受けつつも、いつ頃なら行けれるか、などの話をすることにした。