星空の下で【シギリサンダイン、堂々の復活】
レースが終わったばかりだと言うのに、速報として流れてきた。レース会場に居た者が一番興奮しただろう、怪我で長期療養していたシギリサンダインが変わらない走りを見せ、彼女がターフが居なかった間ずっと勝ち星を上げ続けていたニガメチョコレイトを抜いて一着になったのだ。一時期は復帰は絶望的とまで言われていたサンダインだったが、それらを跳ね除けて見事復活したのだ。インタビューに答えている彼女は堂々としていて、嬉しそうな表情をしていた。そんなサンダインを、遠くに眺めていたニガメは少しだけ笑う。自分の信じていた通り、彼女が復活した事に胸が軽くなる。ずっと見たかった光景が目の前にあるのだ、自分は本気で走った。本気で彼女にぶつかり続け、負けた。負けたのだが、清々しい。隣にいるサンダインのトレーナーはボロボロに泣いていた。トレーナーもずっと彼女を支え続けたのだろう。
「復活してよかったよ」
「ふぐっ……ほんとに良かった……。……貴方もずっと彼女と連絡して、ぐれでぇ……」
途中から言葉にならない声で泣き続けるトレーナーにハンカチを渡すと、お礼を言われ涙を拭いていた。
「僕は彼女が帰ってくるって信じてたからね。それは君もだろう?」
「うぐぅ……そうでず……」
サンダインが戻ってくるまでずっと泣き続けていたトレーナーだったが、戻ってくる頃には何とか泣き止んでおり、サンダインと話していた。
「ニガメ! いい勝負だった! ……ニガメと走れて良かった。勝てて嬉しいし、本気でお前とは知れてすっげー楽しかった! パーティーするんだけどニガメも来るだろ? 夜の七時に寮の大広間な!」
「もちろん」
「やったー! ほらトレーナー! 行くぞ! 目ぇ真っ赤だなぁ!」
サンダインに手を引っ張られ去っていくトレーナーの後ろ姿を見送った後、ニガメも控え室へと戻っていく。控え室に入ると、ニガメのトレーナーがいた、悔しそうな顔をしていたが、ニガメの顔を見た時、少し笑った。
「負けたのに嬉しそうだね」
「楽しかったからね、……高揚感がまだ取れないよ。サンダインからパーティーに誘われたよ、君も来るだろう?」
「今日のお祝いパーティーかな? 行こっか。……今度はニガメが勝つもんね!」
「もちろん、今度は僕が勝つよ」
トレーナーが心做しかやる気を出したかのように笑った後、部屋を出る。パーティーに行くのなら、服装はどうしようかと考えていると、あっ、と思い出す。あの服があったな、と。それを着ていこう、とニガメはどこか笑う。
夜7時、丁度星空が綺麗に見えていた。寮の大広間では、今回のシギリサンダイン一着と、怪我からの復活のパーティーが行われていた。今回の主役であるサンダインは他のウマ娘達に囲まれていた、彼女の格好はまるで風格があった。どこか王様のようにも見えて、スカートのイメージがある彼女にしてはどこか珍しくズボンであった。足のラインが綺麗に見えるズボンであり、とてもよく似合っていた。
丁度ニガメとニガメのトレーナーも大広間に入る、一着と二着が揃っている光景に、他のウマ娘達も声が漏れた。ニガメに気づいたサンダインがぱぁ、と眩しい笑顔になってニガメの所へと行く。そして服装を見ておっ、と反応した。
「ニガメー! そのワンピース……オレが選んだやつじゃね?」
「覚えててくれて嬉しいよ、今回のパーティーに合うなって思ってね」
サンダインが怪我をする前の話になるが、度々彼女と街に出かけてはお互い似合うであろうコーデを選んで買っていたのだ。普段ズボンを好むニガメではあったが、サンダインが選んでくれた服は自分の好みに合っていて嬉しかったのだ。
「今日の主役は君だから、ほら、まだ話したいって思ってる子たちが沢山いるよ」
サンダインはまた後で話そう、と言って向こうへと行く。ニガメは飲み物を飲みつつ、パーティーを楽しむ。本当に人が多いな、と周りを見つつ彼女の人望ゆえの事だろうと自分の事のように嬉しかった。時間がどれくらい過ぎたか分からなかったが、サンダインがニガメの所へ来ると、大広間をこっそりと出て寮を出たかと思うと、三女神のある石像の前まで連れ出された。外は大広間と違って静かだった、少し虫の鳴き声が聞こえ、風も心地よかった。サンダインはニカッと笑うと口を開く。
「レース、すげー楽しかった。興奮もしたし……何よりまたニガメの背中追いかけられたってのが、オレにとっては嬉しかった。ニガメとの本気のレースがまた出来るって事だからさ、ニガメだって同じだろ?」
そう言って笑うサンダインの目は真っ直ぐとニガメを見る。ニガメはフッ、と笑って同じように笑った。
「もちろん、君が僕を追い越そうと走ってくる気迫は変わらなかったよ。……ずっと待ち続けたからね、僕は」
「それでこそニガメだな!」
その時、強い風が吹く。ニガメとサンダインは目を瞑り、手で髪や服を押さえた。風は一瞬でやんだが、お互い目を合わせた。
「……なんだか三女神が応援してるみたいだねぇ」
「そうか? これからも二人走れよ! って事か?」
「そうかもね、お互いの事をここまで意識して……競い合ったり、かといえば一緒に出かけたり……そういう存在は大事にしたいね」
「生涯現役だな!」
「そうだね。……お互いトレセンの教師になっても面白いね。後の世代を見守るのも、いいかもねぇ。まぁ教師になったとしても、君とは走り続けるんだろうね」
「どの道を選んだってそうなるだろうな! オレらずっと走ってそうだし」
お互い顔を見て笑う、まだ話し足りないのか、療養でいなかった期間を埋めるかのように星空の下で話を続けた。そんな二人の様子にどこか三女神の表情が柔らかく見えた。