それが自分のやるべき事 あの天下の創務省が起こした会見が始まる一週間ほど前、凪と八重が営んでいる【何でも屋】に一人の女性がやってきた。白い髪をボブショートにして、水色の目をした女性だった、どこかで見たような、なんて凪が首を傾げていると、その女性はファイルを差し出した。
「貴方達に届けて欲しいと言われました」
「……これ、もしかして」
八重が何かを察したのか、ファイルを受け取り中身を読み始める。凪もなんだろうか、と覗き込むとそこに書かれていたのは【第四次大規模検閲】と書かれた文字が目に映る。それを見た時、思わず凪と八重は顔を見合わせて、女性を見る。
「あんたこれ……創務省の機密書類のはずじゃ……」
「……羽紅くんかな、これを届けてって君に頼んだのは。……幽さん」
「え、八重さん知り合い?」
「凪くん知ってると思ってたけど……」
凪はピンと来ていなかったが、幽と呼ばれた女性は否定する様子はない。かつての仕事仲間で相棒であった羽紅と知り合いなのか、と見ていると幽はさらに言い始める。
「何でも屋が何でも知らなくてどうなさるおつもりですか、って先輩は言ってました」
「はぁー? アイツ相変わらず……っ!」
凪の脳内ですました顔で言ったのだろうなと安易に予測ができ、思わず不機嫌そうな顔をしてしまうが、機密情報が書かれているこの書類を、外にだすなど危険な行為をしたという事実に、凪はなんとも言えない顔をした。羽紅の連絡先は、残してある。自分達を頼ってくれるのでは、と少しの希望を持ちつつ。今こうして、幽を通じて届けた意味を凪は考えていた。
「……まぁ、あんがとよ。あんたもわざわざ……」
「あまり無闇矢鱈に関わらないように。特に側近の貴方、すぐすっ飛んでいくのでともおっしゃってましたよ」
「やっぱアイツの顔面殴りたいわ」
「まぁまぁ……」
「……では、失礼します」
そう言って幽は扉を開けてそのまま帰って行く。シン、と少しばかりの沈黙の後、凪は八重に聞いた。
「……八重さん、これ……。……八重さんはどうします?」
「……完全に創務の事を敵視出来ないけど……助けを求める人達を助けようかな」
「……八重さんらしい! 羽紅ならなんか考えるだろうけど、俺は俺らしくします!」
頑張ろう、八重さん。と凪は笑って言う。そしてスマートフォンを取り出し、連絡先を開いた。【炎珠 羽紅】の文字が見え、連絡を取ろうか迷い、そのまま閉じた。アイツはアイツなりにすることがあるのだろう、と察したのだ。
第四次大規模検閲が始まった、チラリ、と外を見ると創務職員が色んなニジゲン、ツクリテを拘束しているのが見えた。暴力ダメ、絶対と言っている割には、どちらが暴力なのだろうな、と思ってしまった。つい最近、自分もあの立場だったんだな、と遠く思いながら、ボールペンを手にした。前もってニジゲンから想像力を貰っていたため、マキナは使える。既に八重は別行動で先に行った。
創務職員に見つかれないように、路地裏という路地裏を歩いていると、悲鳴が聞こえた。声のする方へ行くと、どうやら創務職員がツクリテとニジゲンを追い詰めていた。出番だな、と凪はボールペンのペン先を出した。
「どうも! 何でも屋です!」
そう言ってボールペンからマキナである刀に変化させ、職員のマキナを受け止めた。突然現れた凪に職員は驚き、そして追い詰められていたツクリテとニジゲンも驚いていた。凪のことを知っていた職員は声を荒らげる。
「お前、希水だな!? 何をしている!? 私らに対する反逆行為だぞ!」
「はー? 俺は、助けを求める者の味方ですぅ! お前らみたいな暴力人間の味方はしませーん! ……おい、あんた早く逃げろ。大事なニジゲンなんだろ? 守れ、絶対に」
「……! ありがとうございます……!」
そう言ってツクリテはニジゲンを連れて逃げていく。あの二人が逃げれるまで時間を稼ぐか、と凪は刀を振るった。
「俺、もう創務の人間じゃねぇし。……俺は俺の判断で、あんたらに刃を向けるよ」
───自分のマキナで、守れるものがあるのなら、それを守りたい。