唐揚げ ぐぅ、冬星にとって聞きなれた音で目が覚めた。今日は高月の方の仕事は休みで、普段なら仕事で起きている時間帯である夜に寝れるのはいいのだが、こうして腹の虫で目が覚めるのだ。ムクリ、と起きて時計を見る。時間は丁度日付が変わっており、普通ならみんな寝ている時間だ。
ぐぅ、ぐぅ……。冬星の腹の虫が鳴き止まない。ふと、唐突に唐揚げが食べたい、と冬星は思った。唐揚げ、冬星の双子の兄である渚月が作ってくれる唐揚げが好きなのだ。サクッとした衣に、ジューシーな肉質、味は醤油と、あと生姜が多めだと聞いたことがある。そのまま食べても美味しいし、さっぱりとレモンをかけて食べるのもよし、マヨネーズを少しつけて食べるのも美味しいのだ。
そして、唐揚げの事を考えたからか、さらに腹の虫が鳴り響く。我慢しようか思ったが、数秒で諦めた。冬星は物音を立てないように部屋を出て、渚月の部屋へと向かう。そっと扉を開けると、渚月は起きておらず寝ていた。足音を立てないように近づき、冬星は渚月を起こすように体を揺らした。
揺らしたからか、渚月が眠たそうに起きて、冬星が居ることに口を開く。
「……冬星? なに……? どうしたの?」
「渚月兄さん、唐揚げが食べたい」
冬星の言葉に、理解しようとしてるからか沈黙が続く。そして、渚月は寝直すようにまた横になった。
「冬星、寝ぼけてる? おやすみ」
「……からあげ……」
無茶を言っているのは分かるのだが、渚月も聞こえているはずなのに、冬星の腹の虫が止まらないのだ。からあげ、と何度か呟くように、渚月の背中に頭をくっつけ、ぐりぐりとするのだが、渚月は起きない。そうしているうちに、うとうと、と冬星は眠気が襲ってきた。
「……から、あげ……ん……」
部屋に戻って寝ようとしたのだが、からあげ、と呟きながらそのまま寝てしまった冬星であった。