鍋パ配信「おじゃましまーす」
ガチャリ、と鍵を開けて部屋に入る夕貴とれいと。ここは二人どちらかの部屋ではなく、同じグループの星哉の部屋だった。夕貴とれいとは星哉の部屋の合鍵を持っており、何かしら用事があるとき部屋に入るのだ。もちろん、家主には事前に連絡はする。因みにだが、星哉は二人の部屋の合鍵は持っていない。
夕貴とれいとの声に反応したのか、奥から星哉がひょっこり、と顔をのぞかせた。
「予定より早いな?」
「買い物スムーズにいったから」
「キッチン借りるねー」
「おう」
今日は星哉の部屋で鍋を食べながら配信をしようと話していた。SNSには告知しており、反応も中々だった。星哉が部屋のセッティングをしている間に、料理の出来る夕貴とれいとが鍋の準備をする、という流れだ。
「相変わらず星哉くんのキッチン、独身男性の一人暮らしよりないよ」
「ぶっ」
エプロンを着けながらそう言ったれいとの言葉に思わず笑ったのか、吹き出す夕貴。仕方ないから、と夕貴は笑いつつ買い物袋から材料を出していた。そして、こっそりと星哉にバレないように、別に包装してもらった紙袋を取り出す。
「星哉にはバレてないな」
「夕貴くんよく見つけたよねー、これ」
カサリ、と袋からそっと出したのは、綺麗な色をした飴だった。宝石の様な形をした飴であり、いちごやオレンジ、ラムネなど味があった。光が当たり、キラキラと光る綺麗な飴。丁度、買い物していた時夕貴が見つけたのだ。
「色合いが俺らみたいじゃん?」
「星哉くん喜ぶかな」
「喜ぶって」
二人顔を見合わせて笑い、星哉にバレないようにそっと見えないところに隠した。配信が終わった時にでも渡そうと思いつつ、早速鍋作りに取り掛かる。
「僕白菜切るよー」
「なら俺調味料混ぜておくわ」
普段から自炊をしているからか、手際よく料理を進めていく。チラリ、と視界の端に星哉がウロウロと二人の様子を見ていた。二人が料理をしている時こうなることを知っていたため、二人は思わず笑う。
「星哉くんもう少しで出来るよ」
「待ってろってー」
「手伝い……」
「ならこのお皿持っていって?」
そう言って取り皿や箸、コップなどを運ぶのを頼んだ。あの反応を見る限り、飴はバレてない、と夕貴とアイコンタクトで伝える。
そうしているうちに、配信の時間が迫っていた。鍋も出来上がっており、テーブルの上に置く。星哉がセッティングしてくれたおかげで難なく進む。そして、星哉が合図を送ると、れいとが笑いながら手を振る。
「どうもー、伊夕星堂の鍋パ配信始まるよー!」
「今日は星哉の部屋でお送りするぞー」
「『タカちゃんとれいちゃんが作ったのなら安心』って打ち込んだコメント、見えてるからな」
まだ自分達が作ったとは言っていないのだが、どうやら自分達のファンは特別な訓練を受けているのか、夕貴とれいとが作ったものとすぐに分かったらしい。その反応に思わず笑いつつ、鍋を取り分ける。すると、見てみて、と星哉が二人に声をかける。
「見て、俺、豆腐箸で掴める」
そこには、一口大に切られている木綿豆腐を箸で掴んでいる星哉がいた。
「豆腐掴めるの凄いねー!」
素直に褒めたれいとに対して、呆れた様子の夕貴が皿を星哉の近くに置く。
「凄いから取り皿を下に置くか食べなさい」
この一連のやりとりを見てか、コメントも賑わっていた。すると、とあるコメントが三人に質問した。
『伊夕星堂の三人はいつも仲良しですが、学校もいつも一緒に登校してるんですか?』
そのコメントが三人とも目に入ったからか、その質問に答えるように口を開く。
「してないよ、俺が起きれないから」
「数十回試したけど諦めた、この前も約束してたんだけど結局置いていったし」
「もっと一生懸命俺を起こして」
「起こしたよ……というかそんなに試してたっけ……」
コメントの方を見ると、三人に質問が沢山来ていた。元々質問に答えるコーナーを作ってはいたのだが、前倒しで答えてもいいか、と思い三人それぞれに届いた質問に対して答えていく。中にはこういった三人の配信も見てみたい、というリクエストもちらほらとあった。
質問に答えたり、告知をしたりとしている間にあっという間に楽しい時間はすぎていく。そろそろ配信が終わる時間が近づいてきたのだ。
「あー、そろそろ時間だね! 皆楽しかった? こんな感じの配信増やしたいし、リクエストも面白いの沢山あったからもしかしたら採用されるかもね!」
「また俺らの配信見に来てくれよなー」
「じゃ、ばいばーい」
そう言ったあと、コメントが勢いよく流れていく。お疲れ様、やまた配信楽しみにしてます、など。そのコメントを見て笑うれいと。もしかしたら誰か切り抜きなど作ってるかもな、と思っていると星哉が配信を切り、二人に向き合う。
「配信お疲れ様」
「おつかれー」
「お疲れ様ー、んふふー、星哉くん!」
「え、なに」
突然笑ったれいとに訝しげな表情をする星哉に対し、夕貴が察したのかキッチンに行き、隠しておいた紙袋を手にして戻ってきた。
「これ、買い物してる時に見つけた」
「星哉くん好きかなーって思って」
そう言って渡し、中身を見た星哉は二人の顔を見比べる。
「え、お前らこれ……」
「星哉くんそんな感じの飴とか琥珀糖好きでしょ」
「部屋しょっちゅう行く俺らは分かってるわけよ」
星哉の部屋には、綺麗な宝石のような飴や、琥珀糖、果物飴があるのを知っていた。今日は配信をする為にどかしたのだろうが、普段は部屋に置いてあるのだ。部屋に来る度に目に映っていたため、好きなのだろうなと夕貴とれいとは思っていた。
「カラーリングが伊夕星堂じゃん……え、食えねぇ……」
「いや食べな?」
「また今度、伊夕星堂っぽいお菓子探そうよ」
「いいなそれ」
「今度は俺が買うからな、二人に」
「分かった、分かったから、目がガチにみえるから」
また今度の休みが合う時に行こう、と話を進めながら後片付けをし始めた。