イタズラ れいとが教室に入ると、丁度席を外していた同じグループメンバーの星哉の机に、ひなたが何かしら鉛筆を大量に出し、削っていた。ただの鉛筆を削っていた訳ではなく、女児が喜びそうなデザインがされた鉛筆だった。
「え、えーと。ひなたくん……? なにやってるの……?」
「んー? せーやくんの筆箱の中身を全部これにするの! れーとくんも手伝って!」
星哉の筆箱は、そこまで大きいものでは無いことをれいとは知っていた。知ってはいたが、軽く十本以上はあるであろう鉛筆と鉛筆削りを渡される。
「星哉君に怒られない!? 大丈夫!?」
「そういう日だったって事で」
「それで誤魔化せれるの……?」
「今日がそういう日だったもん、しょうがないよ」
「しょうがないかぁ……」
最初は止めていたれいとだったが、ひなたのペースに段々とハマってしまったからか、はたまた、たまに同じグループメンバーと共に星哉に対するドッキリを仕掛けてきたからか、最終的に、ひなたと一緒に鉛筆を削り始める。
「ねぇ、こんな鉛筆入れると消しゴムはいるの?」
「え? 鉛筆だけだよ入れるの。鉛筆の先はこのキャップつけるの」
そう言ってひなたが鞄から取り出したのは、ピンクや緑色で、動物のデザインが入っており、小さい子が好んで使いそうな鉛筆のキャップだった。それを見て、それを使う星哉をイメージしていまい、思わずれいとは吹き出した。
「ぶっふふっ……ふっ……! あっはは! 無理……それ使う星哉くん……ふふっ……!」
「れーとくんもなにか入れる? 結構持ってきたんだぁ」
「えー…………。……え、これ懐かしい」
ひなたが持ってきた袋に入っている文房具を見ていると、青い容器に小さいカラーの芯が入っているペンを見つけた。確か、小さい頃に流行った文房具だ、と思い出す。まだ売っていたのかと思いつつ、それを取りだした。すると、それを見ていたひなたが思いつくいたように声を出す。
「その芯の中身を全部白にしよ?」
「え……まってそれノート何も書けないじゃん……ぶふっ」
「なら慈悲で一個だけ赤の芯いれよっか、他は全部白!」
「うん、分かった」
さっきから笑いが止まらなかったが、鉛筆を削り終わった後、れいとは先程のペンの中身の芯を全部取り出すと、白い芯を沢山入れ、赤い芯を一つだけ入れた。
いざ筆箱に入れようとしたのだが、既に鉛筆を入れており、入るか不安だったが、押し込むようにして何とかチャックを締めた。小さい筆箱が、破れそうなほど膨らんでおり、試しに持ってみると、ずっしりと重たかった。
「星哉くんどんな反応するんだろ……」
「楽しい反応してくれたら嬉しいな!」
ちょうどその頃、星哉が教室に入ってきた。机を見て一瞬固まったように見えた。恐る恐る自分の筆箱を持ってみると、重さで驚いたのか、また机に置いた。
「は、え? なに? 俺の筆箱……は?」
中身を見た星哉は固まる。出せど出せど、鉛筆しか出てこないのだ。しかも、先程も言ったように、女児が喜びそうな鉛筆に鉛筆キャップ。ペンが出てきたかと思えば、真っ白な芯が沢山と赤い芯が入ってるだけ。消しゴムも何も無かったのだ。
「消しゴムも無いとかなに!? てか誰だよこんなことしたの! チャック中々開かなくて壊れたかと思ったわ!」
「消しゴムないの? 困ったねぇ。消しゴム貸してあげるねぇ」
ひなたが星哉に対してそう言うと、自分の筆箱から……ではなく、鞄から大きめの袋を取りだした。
「はい! フランスパン!」
「ぶふっ!」
フランスパンを取り出したひなたに、我慢ができなかったれいとは吹き出して、大笑いしてしまった。一度笑ってしまうと中々止まらず、呼吸が苦しくなり落ち着こうとしていると、いつの間にか星哉が怖い笑顔でれいとの前に立つ。
「れいちゃん、お前か?」
「ひなたくんと一緒にしたもん……」
「なんで止めないんだ!」
「だってひなたくんが『手伝って?』って言ったんだもん! 手伝わないのはダメでしょ!」
「なに? 反省してない? お前今日の練習メニュー二倍な」
「そんなこと言っていいの? 今度星哉くんのお弁当に人参さん入れてやる!」
「斬新な脅しやめろ! 反省しろ! 人の筆箱するな! 後でノート貸せよ!」
「ノート貸すのはいいよ!」
喧嘩してるのかしていないのか、星哉とれいとの言い合いにニコニコと笑っているひなた。ひなたはれいとに近づくと、口を開く。
「また一緒にイタズラしようね、れーとくん」
「うん! またしよう!」
「俺の目の前でよく約束できたなれいちゃん?」
顔をひきつらせた星哉を横目に、今度イタズラの内容を話し合おうと約束をする二人だった。