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    ちょこ

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    言葉足らず 自室で、左腕に包帯を巻き直していた楝がいた。仕事で実験をしていた時、楝が計算していた火薬の量がほんの少しだけ多かったらしく、思っていた以上に爆発が大きかったのだ。爆発で飛んできた破片が、左腕に直撃してしまったのだ。すぐに手当をされたのだが、完全に傷が消えるのかは微妙だと言われてしまった。残ったとしても、あまり目立たないといいが、と楝は思いつつ、游樂の所へ行くために出かけた。
     游樂の所に着き、玄関の戸を開ける。声をかけると奥から入ってもいい、と游樂の声が聞こえた。靴を脱ごうとすると、游樂の幼馴染である守優の靴が置かれているのが見えた。彼も来てるのか、と思いつつ靴を脱いであがり、部屋へと行く。
     部屋に入ると、そこには守優の姿があった。
    「守優」
    「楝、元気やった?」
    「うん」
     守優の隣に座ると、丁度游樂が部屋に入ってきた。すると、一瞬だけ眉を顰め、声を出す。
    「楝、怪我してるの?」
    「……えっ」
    「消毒の匂いがしたけど……」
     游樂がじっと楝を見つめくる。楝は誤魔化せるような状況ではない、と思いそっと左腕をまくった。巻かれている包帯を見た瞬間、游樂の眉間のシワが深くなった気がした。楝の左腕を触りながら、游樂は口を開く。
    「これ、誰にやられたん?」
     言い方は優しいはずなのに、声は全く優しくなく、むしろ怖かった。誰もなにも、自分の不注意で怪我したのだが、と思いつつ楝は言い淀んだ後、ボソボソと言う。
    「……僕……」
    「……ん? え、楝……? ん?」
     楝の僕という意味がわからなかったのか、はたまた自分の想像していた返答ではなかったからか、戸惑ったような様子になってしまう。そんな時、守優が楝に話しかけた。
    「どんなこと試したん?」
    「……その……火薬……」
     守優は他軍だ、ペラペラと話してもいいのか迷ってしまう。守優が誰かに話すと疑っている訳では無いが、あまり深く話さないようにすればいいか、と思いそう返答した。
    「さよかぁ、今度から気い付けた方がええよ、誰か監修してくれるよう頼むのもええし」
    「……」
     楝はその言葉に黙り込んでしまった。実験の時、誰かを巻き込んでその相手が怪我したら、と思うと監修を頼んでいいのか迷ってしまった。現に今回失敗して楝が怪我してしまったから、なおさら迷ってしまった。
    「巻き込まないか心配? 楝は優しいね」
    「ねぇなんで会話成立してるの?」
     すると、先程から黙っていた游樂が苦笑いをしながら口を開く。昔から楝はあまり多くを喋る訳では無かったが、たまに会話が成立しているか分からない時があり、だからこそ守優と会話が成立している事に、游樂は苦笑いをしていたのだ。
    「ほら、游樂兄さん。誰かにされたわけじゃないから手を離した方がいいよ、楝が戸惑ってるから」
    「……」
    「あ、ごめんね楝。……あのねぇ楝、ちょっとさっきのは言葉足らずかなぁ……」
    「……うん」
    「いや、うんじゃなくてね……」
     本当に分かっているのか、と游樂が思っている横で笑っている守優。後で游樂が怪我によく効く塗り薬を楝に渡すのだった。
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