Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    sgmy_koko

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 11

    sgmy_koko

    ☆quiet follow

    10月31日までには書き上げる……ぞ

    「いつまでもここにいたいです!」
     感動に震えた古論が波打ち際へ走り寄る。その後をのんびり追っていった北村が「しばらくここにいようかー」と声をかけた。足下の流木やら石やらを避けて、ふらふらと揺れる影が遠ざかっていく。
     なんてきれいな光景だろう、と思う。
     バラエティ番組で紹介されていた、青天下の紺碧に白砂が映える海岸を知っている。ハガキやカレンダーに刷られた、完璧な比率で横たわる砂洲と深緑の松が並ぶ名所を知っている。いつか借りた写真集で見た、エメラルドの海中に揺らめく色とりどりの珊瑚礁を知っている。
    (まあ、清浄……とは言えないが)
     見渡す空には大きな雲がぼろぼろと浮いて、夕陽が延びる海面は底知れぬ青鼠色をしている。ふと傍らの草叢に目を遣ると、潰れたペットボトルが砂を被っていた。
    (それでも)
     今この瞬間、ここは世界で一番美しい海だった。
     二人が波の動きに合わせてステップを踏む。
     古論が両手を広げて語る。
     北村が微笑みを返す。
     一歩踏み出して、口を開きかけて、立ち止まった。





     信号が赤に変わった。
     物の輪郭も不明瞭な逢魔時、都心から随分離れた交差点に車や通行人の影は少ない。静寂の中、エンジン音が大人しくリズムを刻んでいる。
     ハンドルを握りっぱなしだった腕を休めつつ、事務所への道が合っていたか訊ねようと左に顔を向ける。助手席に陣取る北村が、スマートフォンをこちらに見せながら口を開いた。
    「この交差点を右ねー」
    「……うん? ここは左じゃないのか」
    「何言ってんの、地図見てよー」
     結局自分で見るのか、と画面を確認すると、なるほど道順を示す長い矢印が右方向へ折れている。ただ、この道順なら自分はよく知っている。何故なら、数時間前に辿ったばかりだからだ。
    「今から事務所へ行くんだろう」
     北村が眉をひそめた。後部座席から「事務所へ向かっているのですか? ならば私が外を見ても問題ないのでは」と声が飛んできた。
     ゆっくりと顔を正面に戻して、気付けば明るすぎる空を、フロントガラス越しに覗く。太陽は傾いているものの、空を焼くにはまだ時間が早そうだ。これは。
    「雨彦さん、信号ー」
     まさか運転しながらうたた寝していたとは思えないが、浜辺のあれは夢だったのだろうか。それとも、何かに化かされているのか。
     アクセルを踏みながらそっと周囲の気配を窺うも、特に変わったところは無い。北村は暇そうに地図アプリを拡げたり縮めたりしているし、バックミラー越しの古論は目隠しのまま大人しく紙袋の山に挟まれて座っている。袋の中身は仕事先で彼が受け取った誕生日祝いの数々で、自分もその場に居たから贈り主達が何か仕掛けたりするような——できるような人々ではないことはよく知っている。
     また、昨晩念入りに「点検」したこの車内におかしなものが入り込むことは、無いはずだ。
    「北村、今何時だ」
    「そこに時計付いてるでしょー。えっとー」
     読み上げられた時刻は、もう予想はついていたが、仕事先を出る時に確認した時刻からそう経っていなかった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works