雨が鳴る。
屋根を滑って決まったテンポで叩きつける雨音は、足音に似ていた。
誰か来たのだろうか。まさか。ここは、こんな時間に誰かが来るような場所じゃない。
「出んの?」
PCのモニターからほんの少しだけ視線を俺に向けてシバケンが問う。
「出るってナニが?」
「やめとけ。これからもっと降るってよ」
さっきザコ看守が言ってた。そう付け加えて完全に視線をモニターに戻したシバケンに、ああそういう事かと合点がいって、イかないよ、今日はね、と言ったあとで、どうして今日に限ってそんなことを、と単純に不思議に思った。
いつもならそう、俺がシバケンに解錠の打診をして、そこでようやく行われるやり取りなのだ。
こんな風に天気の心配をしてくれることだって、ない。基本的には。
1038