渚の乙女 暗い昏い闇の中にいた私を連れ出した光。
それは優しく揺らめきながら、闇の中を優しく照らした。
時には眩しくて、時には柔らかくて、輝く強さを変えながら絶え間なく揺れる光。とてもあたたかくて、でもどこか寂しくて、それでも惹き付けてやまない光。
それを何に例えていいのか、当初は分からなかったけれど。
アスバルを追ってアストルティアへ向かった時、ほんの少しだけ見たもの。
魔界とは違う色彩のものが、彼女らしいと思ったの。
○●○
「ナディアはなんだか、海、みたいね」
アスバルの計画に従って、明日のために泊まった宿屋のお部屋。湯浴みをして、ナディアに髪を解いて貰いながら、私はそう告げていた。
当の彼女は驚いたのかしら、小首を傾げたのがわかったわ。
「海……?確かに好きな服の色が海っぽいって、アストルティアだとよく言われてたけど、魔界は赤だよね?」
「ううん、そうじゃないの。アストルティアのヴェリナード……だったかしら?そこで少しだけ見えた景色が……青い海が、ナディアだと思ったの」
本当はしっかりと近づいて、見たくて、スケッチもしたかったけれど、遠くから眺めるだけでも印象に残った、晴れた青い空と、青い海。優しくこの世界を満たす、生命の水。
アスバルと王子様を追って訪れた、あの水が満ちる遺跡でも見ることができた、水から溢れる不思議な光の輝き。
それがあなたなのだと、私はそう言ったの。
「闇の中で私を照らした光も、あの遺跡の中で揺らめく光のようだったわ。ナディアはきっと、水の光なのよ」
「そ、そうかな?……でもね、その光は誰かが照らしてくれなきゃ見えないものだよ」
はにかんで笑っていたナディアの声が、ふと落ち込んだわ。
不思議に思って振り返れば、ナディアは少しだけ元気がなかったの。
「海……つまり水はね、照らされた光を受けて輝くの。水の中でとても綺麗に見えた光も、本当は太陽とか、ほかの光を浴びて輝くんだよ。だから、私の持ってる光がイルーシャを照らしたと言うより、きっと私の隣にいた人の光が私の中にあって、イルーシャを導いたと思うの。……あの人は、それだけ強いから」
話すナディアの目は揺らいでいたわ。その人のことを本当に思いやっていて、でも切なく思っているのが、とてもわかる。
でも、あの時……。
「私を導いてくれた光は、間違いなくナディアだったわ」
ナディアは緩く顔を上げ、目を瞬かせていた。その手を取り、私は微笑んでみせる。
「ナディア、あなたは強いの。とても、とても強くて、とても優しいの。私を照らしたその光は、紛れもなくあなた自身のもの。海の輝きのように、私を照らしてくれたのよ」
「イルーシャ……」
「だから、自信を持って。あなたは、あなたのままでいいの」
きっと、あなたの隣にいるはずの、強い光の人も、あなたの光に何度も助けられているのだから。
私は不思議と、確信を持ってそう思ったの。
「……ありがとう、イルーシャ」
涙を浮かべて、くしゃりと笑ったナディア。
水の輝きのように、少し不安定だけどしっかりと届く優しい光。
やっぱり私は、あなたの光が……あなたが好きよ。