シンドバッド少年の憂鬱 中編「お前ら、喧嘩でもしたのか?」
「ん?」
港の倉庫に顔を出したヒナホホに尋ねられて、思わず聞き返した。巻物から視線を上げると、ヒナホホの巨体の向こう、ぶあつい窓の外で雪がちらついているのが見える。冷えるはずだ。もう越冬用の燃料に事欠くようなことはないのだけれど、それでも冬は心をざわつかせる。冬を越せなかった顔見知りが冷たくなっているところを、生まれ育ったちいさな漁村で幾度か見てきた。
かじかむ指先で書類の巻きを戻しながらヒナホホの言葉を反芻する。お前ら喧嘩したのか。お前らと言うからには俺と、それに相手もいるのだろう。喧嘩なんか心当たりもない。考えてみると、そもそも自分は喧嘩というものをしたことがない気がする。倉庫番と軽く挨拶を交わし、労いの言葉を掛け、鍵を預けた。ここから商館へは徒歩で三十分ほどだ。
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