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    まろんじ

    主に作業進捗を上げるところ 今は典鬼が多い

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    まろんじ

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    星の声12

    ##宇奈七

    目が覚めた後、医師や看護師たち、コーキノとマヴロから聞かされた話を統合すると、こうだ。
     俺は、アスプロが死んだと聞いた途端、何も言わずにナイフを取り出した。最初は胸を、そして腹や脚や、顔や首、とにかく体中をナイフで刺して傷つけたという。
     途中から何事かの言葉を泣き叫んでいたが、コーキノとマヴロは俺を抑え込むのに必死で、よく聞き取れなかったと言っていた。「オル──何とか、と言っていたが」とコーキノが何か聞きたげにこちらを見ていたが、俺はただ俯いていた。
     この自殺未遂により、俺は視野の半分ほどを失っている。見えている部分にも負担がかかり、何十年か後には見えない部分の方が多くなる可能性が高い。
     それから──。
    「子宮の損傷が激しく、手術を行いましたが……」
     腹の子は死んだ。いや、俺が殺した。
     俺は黙って話を聞き、それから感謝の言葉を述べた。医師たちが、俺の病室を出て行った。
     ──どうして、生き残ってしまったのかな。
     そう思わないではいられなかった。
     自分だけ──一人だけ生き残って、何の意味があるというのだろう。四騎士はあの任務を最後に解散が決まっていた。俺の、本来ならば俺と奴の国外での身分も用意されていた。国外に小さな住まいを持って、子が生まれるのを待って、生まれた赤ん坊と一緒に奴を毎朝見送って、毎夕出迎える。そのような暮らしは、もう望むべくもない。突然、一人で取り残されたように感じられて、俺は病室で一言も発さないまま、看護師たちの言う通りに日々の生活を送った。包帯だらけの人形か、もはや屍のようだった。
     数日して、コーキノとマヴロが病室を訪ねてきた。
    「今までの仕事からは足を洗う。クロロスも来ないか。当面の生活には困らないだけの金が、組織からは一人一人に用意されている。お前も、退院した後のことが決まっていた方が安心だろう」
     コーキノは言った。マヴロも、頷いていた。だが、俺は視線をベッドに起こした上半身から自分の膝に向けたまま、「考えておく」とだけ答えた。
     本当は、何も考えるつもりなどなかった。隙あらば、死のうと思っていた。
     病院側も自殺のリスクの高い患者と見抜いたのか、そういったことに使えそうなものは一切、身の周りに置かれていなかった。食事のフォークでさえついて来ないのだ。
     俺が病院で暮らすうちに、あの任務に出かけた日から一ヶ月が経過した。そして、奴が死んでからひと月を迎えた。
     奴が死んでから。いや──俺が奴を死なせ、俺が腹の子を殺してから。
     そう思ったとき、俺は自分が生き残ってしまった理由を悟った。
     俺は人殺しとしてしか、生きられないのだ。逆に言えば、人殺しである限りは、生きていられる。俺は、夫になるはずだった男を死なせ、生まれて愛されるはずだった子をこの手で殺した。自分をも殺そうとした。だから、生き残ってしまった。
     全ては俺が勝手に結論づけたに過ぎないが──こんな皮肉があるだろうか? 自分を殺そうとした行為が、自分を生かすことになるなんて。
     それから間もなく、俺は決めた。
     一生を人殺しとしてのみ生き、アスプロと生まれた子を死なせたことを償う。
     罪ではないことは分かっていた。だが、俺の命はこの先、彼らへの贖罪のためにしかあってはならないと──そのときは思っていた。
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