ラハ光♂で星芒祭(ワンダーラストver) エオルゼアの三国では、星芒祭といえば街中をきらびやかに飾り付け、緋色の外套を身にまとい、子供も大人も皆祭に興じるものだ。しかし、星芒祭発祥の地であるここイシュガルドでは、神聖なものとされているのだろうか。飾り付けや衣装で祭を楽しむのは専らエンピレアムに住まう冒険者たちで、皇都の人々は普段と変わらない生活を営んでいる。
『子供たちに三国での星芒祭の話をしたら、飾り付けをしてみたいと言うので手伝ってきます。遅くなるかもしれないから、夕食は先に食べてください』
石の家からエンピレアムの家へと帰ってくると、家主は不在で、ダイニングテーブルにはいつもどおり、一枚の紙。丁寧な筆致で書かれたその書き置きに、思わず苦笑が漏れる。
戦場を退いても、頼まれ事を断れないのは相変わらず。松葉杖を頼りに歩く身で、さすがにツリーの木を切りに行くような大掛かりなことはしないだろうが、星芒祭にちなんだ菓子や衣装を作るくらいはやっていそうだ。行き先はロランベリー・フィールド孤児院か、それともほかの家だろうか。
「じゃあ、オレはいつもどおり、部屋を暖めて待つか」
独り言ちて、暖炉に薪をくべ、パチパチと少しずつ燃え上がる炎を眺める。
一段と寒さが厳しくなる今の時期は、椅子をふたつ並べた暖炉の前が半ば定位置となっていた。火の前で暖まりながら、本を読んだりうたた寝したりと銘々好きなように過ごすのは、互いの距離が程よく近くて好ましい。
いつも自分が座る左側の椅子に腰掛けて、さて夕食は何にしようかと思案する。この家で暮らすようになって、随分と料理の腕も上がった気はするが、さすがに星芒祭にちなんだ料理を作るほどの技術も知識も持ち合わせていない。ならばせめて、寒空の下を凍えながら帰ってくる待ち人が温まれるようなものにしよう。そんなことをぼんやりと考えていたら、次第に瞼が重くなってきた。
コツ、コツ、と規則的な音と、瞼の隙間から漏れ差す光で目が覚めた。すっかり暗さになれた目が眩む。
「ごめん、起こしちゃった?」
声のした方を振り向くと、冷たい外の匂いをまとった冒険者が、杖をつきながら近づいてきた。外はすっかり日が沈んでいて、随分と寝入ってしまったようだった。
「わるい、寝てた。夕食何も用意してない」
「ああ、大丈夫。今日のお礼にってビーフシチューを貰ったんだ。温め直して、ありがたく頂こう」
指差し示されたダイニングテーブルの上には、厚手の布の包みがひとつ。形からして小鍋か何かだろうか。片手でも持ちやすいようにと、気を利かせて包んでくれたのだろう。
「ただいま。それに、おかえり」
そう言って隣に腰を下ろした彼の出で立ちは、赤地に白い縁取りの外套姿。聖者の従者を模した緋色の外套だ。
「ああ、ただいま。それ、衣装も作ったのか。子供たち喜んでただろ」
「うん。長い間門を閉ざしていた国だからね。異国のお祭りはまだまだ物珍しいみたい。着替えるのも大変だから、そのまま着てきちゃった」
「それで、聖者の従者はどんな贈り物をくれるんだ?」
覗き込んだ頬が赤く見染まっているのは、寒い中を歩いてきたせいか、暖炉の火に照らされているからか。
「っ……貰えるのは、子供だけだよ」
「そっか。残念」
引こうとしたこちらを追いかけるように接近した唇が、触れるだけのキスをして去っていく。慌てて引き止めるように手の平で挟んだ頬は、まだ少し冷たさが残っていた。
「オレは子供じゃないぞ?」
「これは……俺からの、贈り物……」
鼻先が触れるくらいの至近距離に、戸惑うように視線が泳いでいる。
「でも、今のは子供のキスだろ」
もう一度重ねた唇を、今度は舌先で割って、内側まで時間をかけて堪能する。つい先程まで冷たかった頬も次第に熱を帯びて、時折漏れる吐息はしっとりと湿っている。
星からの贈り物は子供たちへ。だけど目の前にいる従者は、今夜くらいは独り占めしていたかった。