嘘 意識が浮上する。
ひとつまたたいた。まだ、夜のさなかだ。
刻限はわからないが、夜明けは遠いだろう。
身じろぐと、背後から伸びる腕が体にしっかりと絡みついているのに気づいた。
目を覚ましているのかとしばらく様子をうかがってみる。耳元に規則的な寝息が聞こえてくる。では、眠っていてこれか。
身動きも取れそうにない。水を飲みたかったが仕方がない。払暁までもうひと眠りするかと目を閉じた。
この腕の中だけが帰る場所であったなら。
一体それはどんな幸福で、どんな恐怖だろうか。
子供を静かにさせるときにはお決まりの「嘘(シーッ)」という動作だ。
でもそれを、あろうことかその名も高き沢蕪君がやっているというのは、ちょっと見ない光景である。
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