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    もちもちクマ

    @Maiasaura_akago

    使い方も碌にわかっていないのに、ただひたすら妄想を垂れ流しています。
    主に🔥🎴ですが、雑多です。

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    もちもちクマ

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    💎さん×🔥さん

    社会人同僚現パロです。
    💎さん→→→🔥さん
    片想いが書きたくて、初めて書いてみましたが…
    難しいですね。
    やっぱり💎🔥は、読み専が一番だわ!!

    #宇煉
    uRefinery
    #現パロ
    parodyingTheReality
    #片想い
    unrequitedLove

    一心[一心]


    「ねぇ、ちょっとアレ…」ねぇねぇ…!
    スマホを見ていた友人の腕をつつく。
    「えー、何? うわ、…やばっ」
    あまりの光景に、その二人は口元に手を遣り、言葉を失った。

    かっこよすぎない?

    この女性たちを始め、周囲の一切の熱視線と興奮を一手に集め、噂話の標的となっている当人たちは、全く意に介さない様子だ。
    一人は腕を組み、大きな双眼を見開き、前だけを向いている。金髪というだけでもかなり目立つ毛色なのに、その毛先は炎のように真っ赤に染まり上がっている。
    そして、その隣にいるもう一人の男性は、頭一つ抜き出る大柄の長身で、銀髪がこれまた人目を引くが、少し気怠そうにポケットに手を突っ込んでいる。
    とにかくこの2人が並ぶと、あまりの美丈夫さに見惚れた行き交う人々全員が、もれなく振り返る程である。『ここまできたら、もはや美の暴力である』と揶揄した友人も居たとか居ないとか。


    「…やべぇな」

    「…だな!」

    「どうする?店変える?」こんなに混んでるなんて、ぶっちゃけ想定外だわ。

    「何を言う!言い出しっぺは君だろう!」

    「まぁそうなんだけどよぉ。めんどくさくね?並ぶの」

    「君に誘われた時点で、口がもうそうなってしまっているから、他の店ではもう無理だ!だから君こそ責任を果たすべきだと思うが、どうだろうか!」
    真っ直ぐすぎる瞳がこちらを見据える。いつも正論をかましてくるが、殊更食事のことになると、一切の冗談と妥協が通じなくなるのが、コイツの少々厄介なところでもある。

    「どうだろうかって…。へーへー、そうですね。んじゃあ、待ちますか」

    「それに、待ってる間に何を注文するか決めればいいのではないか?」

    「あれ、言ってなかったっけ?ここ食い放題なんだよ。安くて美味い。だから人気なんだよな」まぁほんと、ここまで混んでるとは思わなかったけど。

    「なに!?そうなのか!?何を頼んでもいいのか!?」
    興奮気味に、宝石のようにキラキラした瞳をこちらに向けてきて、宇髄は思わず吹き出しそうになった。

    「そうそう。何をどれだけ頼んでもいいです、ハイ」

    純粋で無防備すぎんだろ。俺以外の前で、そんな顔すんなよー。
    という言葉と、思わず出そうになった手は、片思いの相手である、この煉獄の前では飲み込んだ。



    煉獄とは会社の同僚として知り合った。入社当時からかなり仕事が出来る奴と周囲から一目置かれていた。俺は技術部で煉獄は営業部。配属部署が違ったので仕事上の絡みは少なかったが、新商品の社内説明会のために駆り出された先で、同じく準備にあたっていた煉獄と久々に顔を合わせた。

    「よぉ、入社以来か?」

    「おぉ、宇髄か。久しぶりだな」

    「俺は久々って感じもしないけど。お前の噂、よく聞くから」

    「? そうなのか?」

    「あぁ、すごい出来る新人営業マンがいるって、技術の奴らの間でもちきりだぞ」

    「なんだそれは。大袈裟だ」

    「謙遜しないの。そこは素直に、ありがとうでいいんだよ」

    「しかし、それを言うならこちらにだって、君の噂は届いているぞ。技術にどえらい新人がいると」

    「なにそれ、褒めてるの?貶してるの?」

    「褒めている」

    「はは、そりゃどうも」

    仕事をこなしていくうちに、否が応でも技術が身につき、そのうち様々な案件を任されるようになった。煉獄とは同期入社ということもあり、同じタイミングで主任になり、営業に同行する技術者として、一緒に仕事をする機会も増えていった。
    そんな奴の働きぶりを間近でずっと見ていて、実直なところや素直すぎるところ、しっかりしていると見せかけて、実はかなり天然な一面もあるところが可笑しかった。コイツのことをもっと知りたいと一緒に飯を食ったり、飲みに行ったり、気が付いたら休日に色々な場所へと遊びに行く仲になっていた。


    ある日、いつもと変わらない、仕事終わりだった。
    「宇髄。今日、この後どうだ?」

    珍しく煉獄からの誘いに、なぜだか浮き足立っていた俺は、早々に仕事を切り上げ、行きつけの居酒屋で落ち合った。

    「よぉ、お疲れ」

    「あぁ、お疲れ様。すまないな、急な誘いだったのに」

    「いんや、大丈夫。珍しいじゃん、お前から誘ってくるなんて」

    「そうか?」

    「あぁ、いつも俺からじゃん」あ、生ひとつ。
    席に着くなり、慣れた流れで注文をし、胡座をかく。

    「いや、まぁ、そうなのかもしれんな」

    「? なに、どうしたんだよ。歯切れ悪いな。ってか何?なんか元気ない?」
    ビールと一緒に運ばれてきたお通しをつまみながら、煉獄の顔を覗き込む。

    「いや、それが、実は彼女が…」

    「ぶっ!」

    「うわっ、汚いな!何をしているんだ君は」
    勢いよく吐き出した口元に、煉獄が慌てておしぼりを差し出してくれる。

    「ゴホッ、おま、なに!?彼女居たのかよ!」

    「? 言ってなかったか?学生の時から付き合っていた彼女だ」

    「…ふーん」
    目の前の枝豆をつまみつつ、何故だか聞きたいような聞きたくないような、なんとも言えないドス黒い感情が湧き上がってくる。

    「社会人になってから遠距離でな。殆ど会えてなくて、長いこと寂しい思いをさせていたから、つい先日会いに行ったのだが」

    「……」
    先程から、大好きなはずの枝豆を黙々と食べ続けているが、なかなか喉を通らないので、ビールで流し込む。

    「会った途端泣かれてな。寂しかったと。こんな思いをするくらいならもう離れたくない、結婚してほしいと言われて…」

    「ゴホッ、ゴホッ!」
    いきなり流し込み過ぎただろうか、思いっきりむせ返す。

    「君、さっきから変だぞ。大丈夫か?」
    言葉は相変わらずだが、再びおしぼりを手渡してくれる。その顔には少しの心配が滲んでいる。

    「わりー、わりー。んで、お前はなんて言ったの?」
    冷静になれ、俺!コイツの言う通りだ。一体何に動揺してるっていうんだ。
    心音が痛い程バクバク鳴り響く中、何故だか作り笑いをして、平常心を装う。

    「君がそこまで言うなら、しようと、」

    「はぁ!?するの!結婚!!」
    我慢の限界だったのか、思いっきりテーブルに手をついて立ち上がってしまった。あまりの大声に周囲の注目を浴びてしまった。

    「なっ、宇髄!俺が言うのも何だが、声がデカいぞ!」落ち着け。一旦座れ。
    煉獄に促される形で、再び着席する。

    「なんなんだ、君、今日は特別変だぞ。えっと、どこまで話したか…」

    「…けっこん…」
    自分でも驚くほど弱々しい声だった。

    「あぁ、そうだ。では結婚しようという話になったのだが、」

    聞きたくない聞きたくない聞きたくたくない!
    俺はグラスに残っていたビールを一気に飲み干した。そして、ドンッと粗雑にテーブルに押し付けた。
    その様子に少々驚いた様子だったが、彼は気にせず続ける。

    「すると彼女が言ったんだ。『こんな大事な話を即決するなんて、ダメだよ。やっぱり貴方は私なんかの手には負えないね』って」

    半分以上聞き流していた俺は、追加で強い酒を注文しようとタッチパネルを連打していたが、その手がふと止まった。

    「え?どゆこと?」

    すると、煉獄はバツが悪そうに微笑んだ後、残っていたお酒を煽るように飲み干し、

    「つまり、振られたと言うわけだ」

    ため息と一緒にこぼすかのように吐き出した。

    「…えっ、結婚の話になったんだよな?」

    「そうだ」

    「んで、なんで次の瞬間には振られてんの?」

    「…知らん!」
    もう一度お酒を飲もうとして、グラスが空だということに気づき、宇髄、君と同じものを頼んでくれ!と、どこを向いているかわからないまま言われた。

    強めの酒を追加注文し、2人でまた乾杯してから飲む。先程から結構なペースだとは思うが、どちらも止めないのでそのまま飲み続ける。

    「…昔からそうだ」
    大分アルコールが回ってきたのだろうか。煉獄は項垂れたまま、下を向きながら呟いた。

    「俺はどうやら、人の心の機微といったものに疎いらしい。現に、何故彼女があんな風に言ったのか未だに理解できんし、どう声をかけてあげれば良かったのか、恥ずかしながらよくわかっていない」

    「…なんて言ったの?」

    「…そうか…」と、だけ…。

    「くっ、はは。煉獄らしいねぇ」

    すると、ガバッと頭が上がり、心底驚いたような顔でこちらを凝視してくる。
    その瞳に見つめられた瞬間、捕らえられた感覚に陥り、俺は思わず生唾を飲みこんだ。

    「な、なんだよ」

    「…れた」

    「え?」

    「同じことを言われたんだ。彼女にも」今君に言われたことと、同じことだ。

    「あー、なるほどねぇ。うんうん、多分彼女は寂しかったんだよ。それでお前を試した。結婚なんて、男が1番ビビるワードじゃねぇか。それを持ち出した時の反応が見たかったんじゃねーの?そりゃずっと一緒にいたら、即決でも問題なかっただろうけど、ずっと会えてなかったんだろ?じゃあそれなりのリハビリは必要だったわけだよ。迷ってもいいから、一緒に悩んで欲しかったんじゃねぇの?2人で歩む未来を想像して欲しかったんじゃねぇのかな」と、まぁ俺も勝手な想像をしてるけど。

    「2人で…そうか。確かに俺は彼女の話を最後まで聞かなかったな」

    「まぁ、そんなところもひっくるめて、お前のこと好きだったんだろうよ。お前らしいって言ったのも、きっとそういう愚直で真っ直ぐなところだろ。お前のことよく見てくれてた、いい彼女だったんじゃない?」

    「…そうだな。俺には勿体無い、いい彼女だった。至らないばかりに、最後は寂しい思いしかさせていなかったが…」

    「大丈夫だよ。彼女、笑ってたんだろ?きっと最初からその腹づもりだったんだよ。新たな一歩を踏み出すきっかけができて、お互いによかったんじゃない?それに女って、こっちが思ってる以上に逞しいから」
    手のひらをヒラヒラと泳がせると、この日、初めて煉獄が笑った。

    「はは、そうか。逞しいのか。なら良かった」
    その安心しきった、蕩けた笑顔を見た瞬間、俺は胸ぐらを掴まれ、心臓を暴かれ、直接鷲掴みにされたかと思った。
    言うなれば、その衝撃が雷となって全身を貫き、呼吸が止まった気さえした。

    『君、さっきから変だぞ。大丈夫か?』
    心配そうにこちらを覗き込む、少し困った顔が瞼の裏に焼き付いている。

    あぁ、煉獄。お前の言う通り、全然大丈夫じゃなかったわ。そりゃそうだ。誰だってド派手に恋に落ちた瞬間なんて、冷静でいられるわけがない。
    彼女がいると聞いて動揺したのも、結婚の二文字にあれほど落ち込んだのも、全ては恋愛感情のせいだったのだ。
    …それにしても、この俺様がねぇ。
    宇髄は両手を後ろに突き、天井を眺めて長いため息を吐いた。
    そのまま眼球だけを器用に動かし、横目で彼を盗み見る。
    悩み事から解放されたからだろうか。店に到着した時とはまるで違い、憑き物が取れたかのように、生き生きと目の前のご飯とお酒を煽っている。

    はぁーーー。
    今度は頭を抱えながら、再び長いため息を吐いた。

    「宇髄!さっきからなんだ!暗いな!折角の飯が不味くなるだろう」

    既にはち切れんばかりに頬張るその顔にすら愛おしさを感じるので、始末に負えない。

    「お前、さっきからどんだけ頬張るんだよ。…というか、誰のせいだと思ってんだ」
    最後の方は、消え入るような声だった。居た堪れなくて、わかりやすく顔を逸らす。これ以上は、不自然に見つめてしまうと思ったからだ。

    「なんだ!よく聞こえなかったが!」どうした!何があった!俺で良ければ、話を聞くぞ!

    …天下の色男が、まさかの煉獄かよ。しかも今更の自覚かよ。
    色々振り返ってみても、コイツのこと意識しまくってた自分の行動が、思い当たることばっかで余計恥ずいわ。
    無自覚で食事やら飲みやら遊びに誘いまくってたの、だっせぇ。

    「宇髄」
    今までのおちゃらけた感じとは違う、凛とした声色に、逸らしていた顔が自然と向き直る。

    「君には本当に感謝しているんだ。現にこうして、今も話を聞いてもらって、助けてもらった。だから、君が困っているときは君の力になりたいと常々思っている」
    俺たちの間に遠慮はなしだ!

    大の大人が気恥ずかしかったのだろうか。
    素直に伝えたその顔は、満足そうに、そしてどこか誇らしげに、少しだけ紅潮していた。
    俺はその頬に、まるで壊れ物に触れるかのように、繊細に、無意識のうちに指を添わせていた。
    触れた言い訳すらまだ頭に浮かんでないのに、勝手に身体が反応する。
    参ったな。
    その陶器のような滑らかな頬に触れ、人肌の熱が直に伝わってくる。
    そういえばコイツの体温って人より高いよなぁ。ったく、ガキかよ。

    「…宇髄?」
    不思議そうな声が聞こえてきて、自分が悠長に触りまくっていたことにハッとする。
    だが、いきなり手を引っ込めて、怪訝な顔をされるのは嫌だ。
    俺は頭を最大気にフル回転させた結果、

    「かっ、髪食ってたぞ。どんくせぇなぁ」
    ややあって、パッとその熱を手放した。

    いやいや待て待て、どんくせぇのは俺だろ!なんだよ、その苦し紛れの言い訳は!ダサい、派手にダサすぎるわ!

    思わず頭を抱えそうになる俺に向かって、目の前の奴は疑うことを一切知らない、信頼し切った視線を投げかける。
    「そうか、それは手間をかけさせたな」
    それはまるで赤子のような、なんともまろやかな笑顔で微笑む。それを見ているだけで、柔らかく、暖かな光に包まれたような感覚に陥る。

    あーあ、なんて居心地がいいんだ。なんでこんな簡単なことに気が付かなかったんだろ。間抜けすぎない?俺。
    願わくば。コイツのこの笑顔、ずっと近くで見ていたいな。
    そしてあわよくば。もう一歩と、踏み込んだ欲が顔を覗かせる。
    ー誰にも渡したくない。

    さぁ、この気持ちに気付いた俺は、どんなモーションをかければよろしいんでしょうかねぇ。
    俺も大概だけど、目の前の奴は、恐らく超がつく鈍感だ。ハッキリ言っても、伝わらない可能性すらある。

    「まぁ、俺なりにぼちぼちやりますか」
    ため息と共に、口角が上がる。そして再び、そのリスのようにご飯を沢山詰め込んだ幸せそのものの頬に触れた。
    しかし、今度はわかりやすく、煉獄の身体がビクッと反応した。

    「ごめん。ご飯、ついてた」…今度はホント。
    そう聞こえるか聞こえないかの言い訳をしながら、指先で絡め取ったご飯を口に運ぶ。

    「……そうか。それは手間をかけさせたな!」

    「何回目だよ、ったく」

    2人は笑い合いながら、残りの料理を平らげた。




    それからというもの、俺は煉獄をバッティングセンターやボーリング、映画にショッピングにと、ありとあらゆる口実で誘い出し、休日を共に過ごした。

    「今日も楽しかった!誘ってくれてありがとう!ではまた明日!」

    「おう、こっちも楽しかったわ。じゃーなぁ」

    現地集合に現地解散。
    終電なんか遠い先の、なんならまだ明るい時間に、互いに手を振って別れる。
    笑顔で彼を見送りながら上機嫌で踵を返し、自分も帰路に着く何度目かの休日の際、ふと気付いた。
    あれ?これって好きを自覚する前と後で、あんま変わってなくね?
    なんだよ、この流れ解散!今時の中学生でももう少し色気のあるデートしてるわ!馬鹿なの!?俺馬鹿なの!?何、アイツといるだけで満たされちゃってんだよ!
    宇髄は五月蝿い心の声を抑え込むように駅のホームで蹲り、頭を抱え、かきむしった。
    あーもう、やっべぇな。どうすっかなぁ。この俺様がプラトニックなんて…ベタ惚れじゃん。
    やっぱり煉獄の好きな事優先でやらしてやんねぇと気がつかねぇか。
    アイツの好きなことと言ったら、そりゃあー…。


    ◆◇
    といった具合で、今日のこのデートに至る。
    まぁ、毎度のこと、デートだと思っているのは俺だけだけど。

    「それにしても、相変わらず君といると、女性の視線が痛いな」

    「あ?何の話?」

    「君、無自覚なのか?あれだけの女性陣の視線を掻っ攫っておいて」

    「? いやいや、見られてんのはお前だろ。どう考えてもお前だわ」

    「いやいや、君だ。君は絶世の男前だからな」世の女性は放っておかないだろう。

    「…揶揄うなよ」

    「揶揄ってないぞ。いつも思っている。君は男前だ。外見も、もちろんその中身も」

    「…またまた、ご謙遜を」
    恥ずかしさのあまり、咄嗟に顔を逸らす。照れて赤くなったのがバレていないか心配だ。

    「こういうときは、素直にありがとうと言うんだろう?」君が言ったんだぞ。

    「…そりゃどーも。ありがとね」

    「はは!何事も素直が一番だな!」

    その周りにいた女性陣は、耳をそば立てながら、皆一様に心の中で合唱していた。
    “尊いのはもれなく貴方達二人です”とー。


    ◆◇

    「宇髄…まさか、これ…」
    長蛇の列を待ち、やっとの思いで席に着席した煉獄は、そのテーブルの様子を見て息を呑んでいた。
    そんな様子も可愛くて思わず吹き出しそうになる。

    「っそ。自分で揚げるシステムです。他にもサラダや惣菜やらデザートも山ほどあるから、好きなだけ取ってこい。なんなら全部取ってきて全部揚げてもいいぞ」

    「全く君って奴は。だが、そうと聞けば話は早いな!早速取ってくるとしよう!」
    煉獄は意気揚々とビュッフェの方へと向かって行った。
    その後ろ姿を、頬杖をつきながら見送る。
    やれやれ、はしゃいじゃって。全く可愛いねぇ。
    連れてきて良かった。
    素直にそう思った。

    「…前言撤回。お前、もう少し遠慮しろよ。一応名家、煉獄家の跡取りだろうが」

    「なんだ、君が全部揚げればいいって言ったんじゃないか」
    店で1番でかい大皿の上に、今にもこぼれ落ちそうな程の量の食べ物を載せて、一つもこぼさず器用に帰ってきたのは褒めてやろう。

    「限度ってもんがあんだろうが!」
    あまりの量に、周りからの視線も痛く、思わず声に怒気が含まれてしまう。

    「…すまない。あれこれ見ていたらついつい全部食べたくなってしまった」…はしたなかっただろうか。

    何で今、そんな怒られた犬みたいな態度取るんだよ。…反則だろ!

    「はぁー。まぁいいや。俺も食うから、揚げていこ」ってか恥ずいからいい加減早く座れ。

    それを聞くなり、パァッと顔が明るくなり、すぐさま着席した。
    忠犬かよ。
    笑いを堪えつつ、彼が選んできた串の山から目ぼしい物を目の前の熱された油の中に投入し、揚げていく。

    「おぉ…」上がっているな。

    「おもしれーよなぁ。自分ちじゃ、まずやらねぇし」

    「だな。生まれて初めてだ」ついでに串カツも初めてだ。
    そのいつも見開かれた目が更に開かれた状態で、ジュワジュワといい音を立てている油に釘付けだ。

    「はは。だと思ったから連れてきてやったんだよ。いーからそんなに見つめてないで、お前も食いたいもん揚げな」

    「あいわかった!」
    ドボン!

    「ちょ、おま、それ正気!?」

    「ああ!これを目にした瞬間、絶対に一番最初に食べようと決めていた!」

    「…それ、どっからどう見ても鯛焼きなんですけど」

    「だな!珍しいものがあるものだ!早速頂くとしよう!うまい!!」
    あまりの電光石火のスピード感と、圧力に、とうとう腹を抱えて笑ってしまった。

    「あはは!おっかしいよ、お前!串カツ食いに来てんのに、一番最初に鯛焼き食う奴、どこにいんだよ!」あー、腹痛い。

    「? ここにいるが?」
    本当に不思議そうな表情を投げつけてくるから、余計に笑いを誘う。

    「ほんと、飽きねーわ。お前といると。楽しくて仕方ない」

    「そうか?俺も宇髄といると楽しいぞ」

    「…っそ。あんがと」
    なんだか照れ臭くて、手持ち無沙汰に串カツの串をくるくる回す。

    「こんな風に自分を曝け出せるのも、宇髄の前だけだ」

    「え?どの辺が?」

    「家族の前でも鯛焼きから食うことはまずない!」父上に叱られるからな!

    「何じゃそら。…ふーん、でも気を許してくれてんだね」それってさぁ…

    ー俺の前でだけ?

    本当に聞きたい言葉が、喉の奥につかえてすっと出てこない。

    すると、こちらを見ていた煉獄が、ニッコリと微笑む。

    「無論、宇髄。この世で君の前だけだぞ」

    その言葉を聞き、またあの時の、この恋を自覚した時と同じような、ぶん殴られるような感覚に陥る。

    「あー、もう!こっちは必死なのにさぁ」
    整っていたはずの銀髪が、ガシガシと音を立てて掻きむしられる。

    「? 何に対して必死なんだ?」

    「お・ま・え!お前を落とすのに必死なの!どうやったらこっち向いてくれるか、一心不乱なわけ!わかる!?」
    そんな無防備で安心しきった、自分にしかくれない言葉をもらってしまったら、こんな今にも溢れ出てしまうような気持ちなんて、すぐにだって爆ぜてしまう。
    伝わらなくていい、そう思って半ばヤケクソに吐き散らかした言葉だったのに。

    「…そ、そうか。そ、それは手間をかけさせたな…」
    串に手をかけたまま、顔を真っ赤にして固まっている煉獄がいる。

    「…焦げるぞ」

    「えっ、あっ!これはいけない!熱い!うまいっ!!」
    顔を真っ赤にしながら頬張るその姿を目の当たりにして、思わず呟かずにはいられない。

    「え?もしかして、脈アリ?…だったりする?」

    口を大きく開けたままフリーズしている彼が可笑しくって、俺はテーブルの上に置かれていたその手に触れてみた。
    すると、まるであの時と同じように、わかりやすく身体が跳ねた。
    抵抗する様子もないので、そのままスルスルと指を絡めると、それに呼応するように、多少のぎこちなさはあるが、その指先は解けずに絡まっていく。

    「…しょ、正直、自分の気持ちは現時点でははっきりとはわからん。言葉にする自信もない。だが、君とこうしてるのも嫌じゃないし、何より君といるのは…。その、とても心地がいい…」
    伏し目がちにそっと伝えられるその動きに合わせるように、睫毛が震える。それが異常に艶っぽくて綺麗だから、頭を抱えそうになる。

    「あー、やっべぇ。今すぐ押し倒してキスしたい。ダメ?」

    「っ、何を言っている!ダメに決まっているだろう!それにまだ俺は、」

    「いやいや、お前も俺が好きだって。さっきのはもう立派な愛の告白だから。認めなさい、楽になるぞ。観念して俺と二人で幸せになろう、な?」

    「ははは!何を言っているんだ」全く君は、おかしなことを言うなぁ。

    さっきまで照れっぱなしだったのに、予想外の反応に呆気に取られた。

    「…そんな笑い飛ばして否定しなくても」…さすがの俺も傷付くぞ。
    膨れっ面の頬の空気を抜くように、煉獄の指がプスッと刺さる。

    「もう俺は、君といるだけで充分すぎるほど幸せだぞ。と、いう意味なんだが?」

    頬杖をつきながら微笑む彼を前に、バンッとテーブルに手をつき、勢いよく立ち上がった。

    「俺、めっちゃ頑張るから。お前にめちゃくちゃ好きだって伝えまくるから。んで、それがぜーんぶ伝わりきったそのときは、ちょうだい?」

    「な、何を…?」
    呆気に取られ、座椅子の背もたれにもたれ掛かっている煉獄の顔に思いっきり自分の顔を寄せる。
    あと数センチで触れ合ってしまえそうな距離だ。

    「もちろん、お前の全部に決まってるだろ?」

    至近距離でニコッと微笑みかけて、畳みかける。
    大概の人間はこれでイチコロだが、煉獄に効くかはわからないけど、まぁやるに越したことはないだろ。やれることはなんだって、全部やってやるさ。

    お前を手に入れるために必死なんだよ、こっちは。

    「さぁ、冷めないうちに食べちまおうぜ」

    気が済んだ俺は、上機嫌で口笛を吹きながら、再び串を揚げていく。
    目の前の煉獄の大きな双眼が揺れに揺れていたことに気付きもせず、それはそれは呑気に。
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