輪廻の蛇妖怪私には生まれつき、家族がいなかった。
お父さん、お母さん、お姉ちゃんお兄ちゃん。
誰もいなかった。
自分の名前もわからない。
だけど一人ではなかった。
私にはマメヤカがいた。
マメヤカは男の人で、ほっそりとして背が高く、動作には品の良さが香ってくるようだった。
髪の毛は黒く、目は薄い茶色ともオレンジ色ともとれる。
顔もすごく綺麗で、私はマメヤカのことが好きだった。
マメヤカは私のことを「あなた」と呼んだ。
まるで昔の奥さんみたいな口調だった。
「マメヤカ、あのね」
私はそれっきりうまく言葉にできず口ごもった。
その様子を見て、少し不安そうにマメヤカは尋ねる。
「あなた、どうしましたか。
お腹がすきましたか、それともどこか・・・」
「ううん。違う。違うよ。大丈夫。」
「私、マメヤカのことが好き。だから大きくなったら結婚してね。」
意を決していざ言ってみると、心臓が大きく動いてうるさい。
マメヤカのことをそっと見る。
何とも美しいほほえみを浮かべていた。
それから私が結婚できる歳になると、マメヤカと結婚した。
子どもができた。
頑張って育てた。
やがて皆自立して、後に残るのは夫婦だけ。
マメヤカは老いがないかのようだった。
いつまでも若くて美しい。
美魔女のようなものだろうか?
一方私はどんどん老いていった。
マメヤカを置いて死んでしまうのではと心配になった。
だから私はこう言った。
「マメヤカ、あなたは私が死んでしまったらどうするの?」
マメヤカは少しキョトンとした。
しかしその後、またいつものほほえみを見せて言った。
「死にませんよ、僕の伴侶ですので。」
「マメヤカ・・・?」
そこに彼の姿はなかった。
いや、本当の彼の姿がそこにあったのかもしれない。
ただ、ヒトより大きいヘビがいた。
鱗は黒く、目は薄い茶色ともオレンジ色ともとれる。
「思い出せないあなたも愛らしい。」
「数えきれないほど聞きましたよ。」
「あなたは毎回、僕に告白をしました。」
「あなたは毎回、僕を置いて死ぬ心配をしました。」
「ですが大丈夫。」
「僕の腹に収まり、ドロドロに溶けるのです。」
「しばらくしたら卵が出てきます・・・ええ、あなたですよ。」
「赤子になって、もう一度僕に育てられてください。」
「そしてまた続けましょう。」
「僕とあなたの営みを。」
「輪廻の蛇が伴侶となるというのは、そういうことです。」
マメナシは言い終わると、頭から私を呑みこんだ。
痛みはない。
ただ、少しずつ体が溶けていく感覚がする。
なんだか懐かしい。
暖かい。
戻ろう。
・・・・。