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    raibou

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    raibou

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    10/09炎ホーwebオンリー掲載作品。
    パスワードは会場内キャプションに記載。眠れないエンデヴァーさんを介抱するホークスだったが……的な話です。
    原作後の時間軸想定ですが、36巻の情報を反映していないなど、色々ふんわり軸です。

    #炎ホ
    flameHoop
    #炎ホー
    blessingOfHeaven

    タイトル未定 眠れば業火の夢を見る。皮膚の上を炎が走り、全身が高温に晒される。喉が焼ける熱さに叫び出しそうになる頃、目が覚める。汗だくの身体はマットレスを湿らせて、長いこと肩で呼吸をしてようやく収まる、そのまま朝まで眠れるはずもなく、ただ目を閉じて動かないでいる。

    「エンデヴァーさん」
     その夜は違った。聞き慣れた男の声が耳に届き、驚いて目を開いたところ、まず始めに天井が低い、と感じた。
     反射的に身体を起こし周囲を見て、ようやくここが自宅で無いことを思い出した。大丈夫ですか、と再び声がかかった。声の主は、傍らで膝を付いてこちらを伺っている男、ホークスだった。
     返事もせず黙っていると、ホークスは濡れた布を広げてべちりと俺の顔に押し当てた。冷たい水で絞ったタオルであるようだった。
     とん、とんとタオル越しに指先が当てられる。額から前髪の生え際、鼻筋から口元。果ては耳の裏まで汗を拭われ、冷たい風がすぅと通る。全身に感じていた熱が落ち着き、俺は溜めていた息を吐いた。

    「水、飲みます?」
     俺が落ち着いたのを見てか、ホークスが持ち込みであろうカップに入れた水を差し出してくる。一拍置いてそれを受け取り、一息でそれを飲み干した。カップが空になるとすぐにとくとくと冷えた水のお代わりが注がれて、次はそれを一口だけ飲んだ。
    「……起こしてしまったか」
    「熱い熱いってウンウン唸ってましたしね。熱、測ります?」
    「発熱は無い。……怪我の影響で、たまに、夜中に寝付けずこうなるだけだ」
    「へぇ。寝る前に飲んでた薬は、前から飲んでるやつですか?」
    「いや、最近処方されたものだ。しばらくここに詰めると言ったら、多めに持たされた」
     相変わらず目敏い男だ、と内心で付け足した。服薬するところなどわざわざ見せた覚えは無いが、しっかり察知していたらしい。
    「けっこう体質と喧嘩しますよね、薬って。エンデヴァーさんに合ってないんじゃないですか」
    「以前の薬では眠れもしなかった。悪夢を見るだけマシになっている」
     なら良いんですけど、と呟いたホークスはしゃがむ姿勢を崩し、胡座をかいた。口元をむずむずとさせ、欠伸を噛み殺している様子だった。
    「……俺に付き合ってないで、寝ろ。明日からミッションだ」
    「ミッションったって、半分休みみたいなもんじゃないですか。まぁ、こんな合宿所みたいな部屋だと、あんまり休暇っぽい気持ちになれないですけどね」
     そう言いながらホークスはぐるりと部屋を見渡した。がらんとした和室の大部屋に、新品らしい寝具と手回り品が運び込まれている以外は何も無く、殺風景な場所だった。
     ホークスは羽にもう一つコップを運ばせ、自分の分の水を飲みながらへらっとしており、自分の寝床に戻る気配が無い。俺が寝直すまで見ているつもりだろうか、と俺は心中で溜め息を吐いた。


     都内から新幹線と在来線を乗り継いで数時間の山奥に、放棄された連合の研究施設が見つかった。
     それだけならば近隣の機関が調査をするくらいで良かったが、施設内部で脳無の死体が見つかったと言う。
     研究施設の情報は一切無く、今後の調査で新たな脳無が出る可能性があった。内部の調査は一時中断され、周辺に脳無への対応が可能な人員もいないことから、公安経由でエンデヴァーに協力要請が来たのだった。
     そしてどうもその話をたまたま聞きつけたらしいホークスが、半ば強引に同行を申し出たらしい。

     その話を聞いた辺りから、薄々とこのミッションの意図に気づき始めていた。
     施設に脳無がいる可能性は、実際のところ無に近い。
     施設へのアクセスは悪く、代わりに、今は使用されていない簡易な宿泊所が近くにあるため、調査はそこに寝泊まりしながら行う必要がある。本当にわざわざ俺が出向く必要があるのかと疑問に思うような要請だった。
     しかし、現状の俺はと言うと、大きな戦いの傷跡を深く残した街での活動に、数々の支障があった。
     民間人の中には、俺を見るたび憎しみの感情を露わにする者もいる。そうした市井の反応に対して、俺よりも俺の事務所の者達が深く傷付いている様子なのが居た堪れ無かった。
     自身の仕事への支障は出ていなかったにしろ、その状況が心身にも少なからず影響を与えており、いくつかの処方箋を受け取っていた。
    根本的解決には至らなくとも、せめて少しの間だけでも、出張を兼ねて市街地から離れてみてはどうか、と。そのような意図があったのだろう。

    そして耳聡くそれを聞きつけたホークスの同行があっさり受け入れられたのも、ホークスの状況が俺に程近かったからだと当たりを付けていた。さらに、どちらかと言えば身体的な理由が主だろう。
    ホークスの背から伸びていた見事な赤銅色の両翼は、根本から無惨に焼き払われ、現在に至ってかつての半分も生え揃わずにいる。
    今後も気長な治療が必要で、酷使するような場面は避けるべきとの見解だったが、それも市街地にいればつい個性で対応してしまう場面が多くある、とホークスのSKが零していた。

    今回のミッションは、建物内での作業が中心だ。ホークスの剛翼が必要となる場面は、比較的負担の軽い探知系が主となる。
    つまるところ、仕事をしながらでなければ上手く休むこともできない厄介なヒーロー2名への、休めと言う意図を含んだ要請だろう。その要請そのものにホークスがどのくらいの段階から関わっていたのかは知る由も無く、ここまで来た今となってはさほど興味もないことだった。
     
     ピ、と電子音が鳴った。見ればホークスがエアコンのリモコンを操作している。
    「もう最低温度最大風量なんですけどね、確か風向きを上にすると良いらしいんですよ」
     ごう、とフィルター音と共に冷えた風を顔に浴びた。しかし、それでもまだ身体に纏わり付くような熱は消えなかった。
     ふぅっと静かに息を吐き、汗で湿ったシャツを脱いで、まだろくに荷解きしていないボストンバッグから着替えを引きずり出した。頭から被ろうとしたら、横から伸びてきた手にそれを阻まれた。ひどく冷たいその感触に、この室温はこの男には適さないんじゃないのか、と眉を顰めた。
    「汗、拭いてから新しいの着ましょうよ」
     そう言いながら、両手にタオルを広げて見せる。その光景に、まだ長女が小さかった頃、風呂から上がってきた娘を待ち構えて、同じ仕草をしたことを思い出し、知らず苦笑した。心身に支障をきたしたNo,1ヒーローのお目付役でも仰せつかったつもりで付いてきたのだろうが、妙に張り切っている様子が可笑しかった。
     タオルを受け取るついでに手の甲を男の頬に押しつけた。ぶにとした頬肉の感触はしっとりと弾力があり、思った通り冷え切っていた。
    「俺に合わせるとお前が風邪を引く。他にも部屋はあるだろう」
    「そっ、うじが、ここしか、間に合わなかったらしくって」
    「……何を慌てとる」
    「ひぇ」
     突然声を裏返させるホークスが奇妙で、今度は手のひらで顎を三角に摘まんでやった。抗議の意か、すっかり短く不揃いになった翼をぱさぱさと動かしている。小さい産毛がふわりと舞い、俺の鼻先をくすぐった。
    「もう一度寝る。お前も眠れ」
    「ひゃい」
     間抜けな返事を訝しみながら、ホークスを寝床に追い払うためにも、大人しく目を閉じて眠ったふりをすることにした。暗闇の中、目を閉じているだけでも休息は取れる。そうして静かにしているうち、ゆるく微睡みが訪れ、夢と現を行き来するような浅い睡眠を僅かに取った。


     何事も予定通りには行かないもので、翌日、施設の調査をしている最中に、ホークスの羽根が近隣の山道での接触事故を関知した。二人して現地の応援に向かい、あれこれと手配をしているうちに、日が暮れた。

    「あんまり普段と変わらなかったですね」
     交代で風呂に入り、冷食を温めてつまんでしまうと他にすることも無かった。ホークスは持ち込んだPCで何やら書類を作っている様子だったが、俺の方は僅かとは言え日中に個性を使った反動か、体内に籠もった熱で頭がぼうとしていた。あまり眠れていないからか、不調が折り重なるようで、熱を外に逃がす機能の働きが鈍いようだった。
    「もう、寝る。お前もほどほどで眠れ」
    「……はぁい」
     物言いたげな視線を躱し、洗面台で冷水を頭に浴びた。焼け石に水程度だが、やらないよりはマシだった。


     炎は乾燥した木々を舐め尽くし、辺り一面を火の海にした。俺はその中で、全身に火の粉を受けながら焦燥感と共に走っている。見渡す限りの炎に、方向感覚を見失う。燃えさかる倒木の隙間に何かあるように見えて、俺はそれに縋り付いた。炎は腕を通じて肩を、全身に燃え移り、やがて俺の身体を灼いた。


     拭きますよ、と言う声が聞こえた気がした。冷たいものが顔に押し当てられる。全身が汗でじっとりと濡れているのに、身体は熱を湛えたまま、行き場も無く体内を暴れ回っていた。冷えた指先が、汗で額に張り付いた前髪をどかした。一瞬、額に触れたその冷たさが、惜しかった。俺は緩慢な動きで腕を上げると、その指先を探り、掴んだ。びくり、と大きく振れた後、動かないでいるその手首をも掴んだ。血管の温もりがあるはずのそこすらも冷え切っていた。手首が、戸惑うような動きをした後、恐る恐るもう一方の手をこちらの頬に当てた。やはり冷たいそれに俺は頬を押し当て、腕ごと絡め取るとその腕の主ごと寝具に引きずり込んだ。え、という小さい呟きと共に、ばさばさっと、もがくような羽音が聞こえた。
    「あ、あの」
     喉の震えが耳元に直接届く。鎖骨の窪みに鼻を押し当て、頸動脈の温もりを確かめるように顔を押し当てる。温い人肌の体温が、熱に浮かされた皮膚を宥めた。ドコドコと太鼓を打ち鳴らすような音が間近で聞こえ、不規則なそれに耳を傾けているうち、気づけば眠りに落ちていた。
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