悪霊退散(笑) ある夏の暮れ方のことである。山々に囲まれたこの田舎町に一人の訪問者が訪れた。男は自称除霊師である。ぽつぽつと点在する家々を巡っては、やれ悪霊に取り憑かれているだの、悪い気が溜まっているからこの壺を買えなど宣って住人達から多額の金を毟り取らんとしていた、いわゆる詐欺師だ。しかしほとんどの住民は馴染みのない顔の話を易々と信じる訳もなく、売上は芳しくなかった。が、一つ妙な話を聞いた。
──S区の辺りには幽霊が出るらしい。
曰く、この町で最も住民が少ない静かな土地で、かつて凄惨な事故があったという。除霊師なら祓ってみせろ、そうしたら貴方の話を信じると突き放されてしまった。何の成果もなくただ無駄に高い電車代を払ってまた都会に戻るなど無為に肥えたプライドが許すはずもなく、男はなんとしても稼ぎにありつかねばならぬと息巻いていた。
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