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    06uwihs_m

    @06uwihs_m
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    06uwihs_m

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    ジャミカリ忘年会開催おめでとうございます❣️🎉✨
    ささやかながらクリスマスのジャミカリを書かせていただきました。楽しんでいただけたらうれしいです😊
    クリスマスに別れ話⁉︎でごちゃごちゃするジャミカリです。

    #ジャミカリ
    jami-kari
    #クリスマス
    christmas
    #ジャミカリ忘年会2022
    jamikariYear-endParty2022

    ひいらぎの下で クリスマスは家族で過ごす日か、それとも恋人と過ごす日か。
     そんなくだらない話題をテレビが喋っているなか俺はいつものように屋敷の中を駆け回っていた。父親も母親もこの時期は忙しくてほとんど家に帰ってこない。
     学生ということで呼び出されることの少ない俺も当日ばかりは逃げられずに引っ張り出される。なにしろ今日は一年のおわりにやる最後の宴でアジーム家の人々だけではなくたくさんの親戚の方々もやってくるのだ。
     客室の準備から会場準備、そしてテーブルに並びきれないほどの料理の数々。
     ここ数年は俺はキッチンの手伝いを任されていて一日中フライパンを振ることになる。まあ料理を作るのは嫌いじゃないし、客人だけでなくアイツの口にも入るのだから会場や客室の担当でなくてよかったと思わなくもない。
     ありがたいことに料理長に気に入られてる俺は宴の料理に多少口出しできるし今年もアイツ好みで客人をもてなすのにふさわしい出来栄えになったと自負している。
     熱砂の国には聖夜を祝う風習はなかったが古くから年の終わりを祝う祭りはあったのでいつからか聖夜とやらもまとめて祝うようになったと聞く。祭りと名のつくものなら何でも受け入れてしまう熱砂の大らかさといえば聞こえはいいが、なんてことない。ただ祭り好きな気性の者たちばかりなのだ。
     まあ俺もみんなで集まるのは嫌いじゃない。ジャミルも手が空いたらこいよ!なんていう能天気がいなければの話だが。
     カリムはまったく、昔から線引きというものがなってない。俺は別にお前と宴に出たいと言ったことは一度もないのに、従者達の打ち合わせに参加してたらひょっこり顔を出して「ジャミルはいつオレのところに来れるんだ?」なんて聞くものだから当初の予定を変更して俺の予定に“カリムタイム”が組み込まれた。カリムはいつだって俺の予定を崩してくる。
    「なあ、楽しみだなっ!」
     そうだなと返しつつ頭の中でスケジュールを組み直すのもいつものこと。妹のナジュマは友達の家に行くから持ち寄りの料理を持たせるし、父さんと母さんは後片付けまでいるから帰りは日付けを超えるだろう。大丈夫。問題ない。
     きっちり組み上がった予定を頭の中で確認しながら移動しようとしたら、まだカリムがドア付近にいた。コイツだって暇じゃないだろうに。
    「何か忘れものか?」
     問いかけるとなにやらモジモジと顔を赤らめている。言うことがあるなら早く済ませてほしいんだが。
    「あの、あのなっ」
     カリムはなにかを決意したようにひとり頷いて俺の耳にこっそり耳打ちした。
    「……宴が終わったら、オレの部屋に来てくれよ」

     は?

     カリムの言葉をすぐには理解できなくて固まっていたら、恥ずかしそうに照れ笑いをしながらカリムは小走りで去っていった。え?
     言い遅れたが、俺とカリムは先日からいわゆる恋人と呼ばれる関係になっている。だがキスはおろか手を繋いだりイチャイチャしたりなんてことは一度もない。
     それが突然、部屋にお呼ばれだ。
     それってもしかして…………と淡い期待してしまうのは男として当然じゃないだろうか。いや、淡いどころじゃない。正直かなり期待してる自分がいる。
     早く仕事を終わらせたくて気合いが入った俺にいつもより手際がいいと料理長に褒められる程度には浮かれていた。
     だから部屋で待っていたカリムから放たれた言葉はまったく予想だにしていなかった。

    「オレたち、友達に戻らないか」

     俺はすぐに返事ができなかった。まず脳が理解を拒んだ。次に何が原因かと考え始めた。自己嫌悪とショックな気持ちが頭の中でぐるぐると回る。
     なにか俺が傷つけることをしたのか。あの時か、それともこの時か。いいや、もっと前のホリデーのときの…………。
    「ジャミルのせいじゃない。オレが悪いんだ」
     カリムの言葉に頭を上げる。カリムはいつもの人好きのする笑顔で俺を見ていた。なあ、なんでそんな普通なんだよ。この俺の顔をみてそんな顔を向けるのか。見ろよ、この情けない面を。ちくしょう。かわいい顔しやがって。
     そんな俺の混乱をちっとも考えずにカリムはあっけらかんと言い放った。
    「なんか違うんだよな〜。ジャミルのことは好きだぜ。でも、恋人ってなると……う〜ん? 違くね? ってなってさ」
    「俺が男だからか」
    「違う……と思うけどオレ今まで女の子しか好きになったことねーし、そうなのかも。ジャミルだったら男でも恋人になれるかと思ったけど…………なんかごめんな?」
     なんだ。それ。
     なんだよそれ…………ッ‼︎
     告白してきたのは、お前だろうがッ!!!!!!!
     


     こうして俺は聖なる夜を直前に振られた。オバブロしてやろうかと思ったけどホリデー以来、医師の指示に従って体調もメンタル面も気をつけていたのでほんの少しマジカルペンを濁らせるだけで終わった。己の優秀さが憎い。
     こんなに心が引き裂かれそうなのにいつものように仕事して勉強をして生活できるんだな。人間って案外タフだ。
     カリムとはあれから直接会ってない。どうも避けられているみたいだ。噂では年明けに見合いが決まったとか。
     なんとなく、カリムに別れを告げられた理由が分かってきた。アジームくらいの家柄になると見合いするということはほぼ婚姻が確約されるということだ。アイツのことだ。余計なことを考えて突っ走ってるか、あるいは親に身辺整理をしろと迫らせたのか。
     だっておかしいだろ。俺がOKしたとき泣いて喜んだアイツが別れを切り出すなんて。
     カリムのやつ、一言俺に相談すればいいのに。
     そう思ったけどあのホリデーにした仕打ちを考えると相談されなかったのは俺の落ち度もあるかもしれない。ほんの少しだけど。
     いつもいつも、勝手に決めるな。報告連絡相談しろ。一度持ち帰って検討しますと言えと何度も言い聞かせて最近ようやくやるようになったのにまったく困ったやつだ。
     さて、今年のホリデーは俺達が付き合ってはじめての冬でありはじめての聖夜となるはずだった。忙しいながらも恋人と過ごそうと色々手を回してきた。ささやかながらプレゼントも用意していた。まあフラれたわけだが。
     でもよく考えたら俺はまだ別れることに了承してない。あまりにショックだったため無言で逃げるようにその場から立ち去ったからだ。つまり考えようによってはまだ俺とカリムは正式に別れてないということになる。
    「よし、決めた」
     抱えていた抱き枕を放って頭の中で新たな計画を練り始める。聖夜は明日。まだ遅くはないはずだ。
    「ちょっと、ジャミル! お皿洗ってってお願いしたじゃんっ」
    「お兄ちゃんと呼べ。ナジュマ。今からやるところだったんだよ」
    「昨日もそう言ってやらなかったから私が洗ったんだよ! 今日は絶対やってもらうんだからっ!」
     ピーピーうるさいな。ナジュマのやつ、最近ますます母さんに似てきた。
    「今やるって。そうだ。ナジュマ。おまえ小遣い欲しくないか?」
    「はあ? なによ。急に」
     怪訝そうにナジュマがこちらを見上げる。妹が年越しのカウントダウンに友達と出かける約束をしていたのは把握済みだ。俺はにやりと口角を上げてみせた。カリム。今にみてろよ。



     宴のあとは静かだ。客が帰り宴のためのクッションやテーブルや特別な飾りや花は楽しかった余韻だけを残しながら片付けられる。実家では手伝うと怒られるので従者たちがテキパキと動いているのを眺めながらみんなに気付かれないようため息をついた。
     ジャミルはここにいない。オレが大人の従者に頼んで広間ではなく別の場所の手伝いに行かせたからだ。
     昨日のことを思い出すと胸がチクリと痛んだ。オレ、ジャミルにひどいことを言ったんだ。
     ごめんな。心のなかでジャミルに謝る。ジャミルはひどく傷ついた顔をしていた。泣くかも、って思った。でもジャミルはうるんだ瞳から涙がこぼれる前に走って行ってしまった。思わず追いかけたくなったけど、こぶしを握りしめて耐えた。
     告白したとき、握ってくれた手のひらの温度を今でもまだ覚えている。
     あの時はオレが感極まって泣いてしまったんだ。そしたらジャミルは笑って「なに泣いてんだよ」って指の背で幾度となくこぼれる涙を拭ってくれた。好きになってよかったと思った。
     でも結局傷つけただけだった。
     オレはバカだ。なんにもわかっていなかった。オレはカリム・アルアジームで、次期当主で、将来嫁さんをたくさんもらう立場だ。学生の間だけ、今だけ。後悔したくないと思った。だから告白したけどやっぱりそれは許されないことだった。
     見合いの話がきた。オレに断る自由はない。すべては家のために決まることで、そこに一個人の感情はいれたらいけないんだって。それは恋人がいてもだ。結婚自体はすぐじゃないけど将来そうなることは決定事項だ。
     そうなって初めてオレは気がついたんだ。ジャミルと別れないといけないんだって。
     本当にバカだ。両思いってことに浮かれて楽しくて、ジャミルとこの先もずっと一緒にいるんだと思ってた。ずっと付き合えるんだと無邪気に根拠もなく信じてた。そんなわけないのに。
     オレは告白しちゃいけなかったんだ。
     一晩泣いて、ジャミルと別れようと決めた。話すなら早い方がいい。そう思ったけど、いざ言うとなると勇気が出なくてなかなか言い出せなかった。
     別れたくない。ジャミルと会えなくなったらさみしい。別れても今まで通りなんて都合のいいことはないだろう。気まずくなるだろうし、ジャミルはオレのこと嫌いになるかもしれない。そもそも元々嫌いと言われてたんだから、付き合えたことが奇跡だった。また、元に戻るだけだ。
     この胸の締めつけられるような苦しさは、罰だ。
     後先考えないで行動したオレへの罰。ジャミルを傷つけた罰だ。
    「カリム様、お久しぶりです」
     考え事してたところに話しかけられてはっとする。顔を上げると時々屋敷に手伝いに来てくれているジャミルの妹がいた。
    「おお、ナジュマか。久しぶり! ちょっと見ないうちにますます綺麗になったな」
     兄妹なだけあってナジュマはジャミルとどことなく似ている。ナジュマはもっと可愛らしい感じだけど美人さんだ。ジャミルがもし女だったらこんな感じなんだろうか。
     思わず想像しそうになって、慌てて頭の中のそれを打ち消した。
    「お褒めいただきありがとうございます。カリム様もお元気そうでよかったです。兄がご迷惑をかけてないですか? ジャミルってば口煩いでしょう。あんまりうるさかったらビシッと叱ってやってください」
     年のわりにしっかりしている。ジャミルもそうだけど本当にバイパー家は優秀な者が多い。ああ、手放したくないな。
     ナジュマとしばし会話を楽しみながら未練たらしくそう思った。
    「そうだ。これ、兄から預かってきたんです」
     ナジュマが前掛けのポケットから取り出したのは一通の手紙だった。白い封筒にオレの名前が書かれてる。綺麗だけど勢いのある見慣れた筆跡にドキリと胸が高鳴った。

     カリムへ

     お前の気持ちは分かった。最後に渡したいものがある。俺を少しでも憐れんでくれるなら、受け取ってくれないか。
     図書室に来てくれ。

                         ジャミル・バイパー



     最後という言葉に嫌な予感がした。まさかジャミル、オレの前からいなくなるつもりなのか。
     そんな…………。そうなるのが嫌だから別れたっていうのに。
     それか突然別れを切り出したことに怒っていて文句を言いたいのかもしれない。どちらにしろオレができることといえば黙って聞くことだけだ。オレはもやもやした気持ちを胸に押しこめて図書室に向かった。

     アジームの屋敷には大きな図書室がある。世界中から集めたさまざまな本が並んでいるがアジームの者だけがその蔵書の数を独り占めするのは惜しいと平日は一般公開されてる。 
     とはいえ防犯の面を考えてアジームの者が使う部屋がある。ここは常に扉の外にアジームの警備が配置されていて中に入ることができるのはアジームの家の者と特別に許された一部の従者だけだ。ジャミルはオレが許可を申請したので入ることができる。っても子供の頃にしたのを毎年更新してるだけだから複雑な手続きなんかはいらない。
     専用の部屋と言っても見た目は小さめの図書室だ。天井まで届く棚にびっしり並べられた本。机と椅子の代わりに敷かれた上等な絨毯とクッション。普通の図書室は飲食禁止だけどここでは簡単につまめるおやつが常に用意されている。
     部屋に入ってあたりを見渡す。何人かの弟と妹、それについてる従者達がいた。ジャミルはまだ来ていないみたいだ。
     なんて言われるんだろう。
     絨毯に腰を下ろしてなんの気なしに手に取った本を開く。昔ここでよく読んだ昔話の本だ。ページをめくると懐かしくも鮮やかな色の絵が目に入った。
     これ、子どもの頃にジャミルとよく読んだな。懐かしい気持ちとくるしい気持ちがないまぜになって、ページをめくる指が止まる。

     "すごいなぁ! オレもランプのまじんとともだちになりたい!"
     "ほんとうにあるかどうか、わからないんだぞ。カリム"
     "さばくのまじゅつしはほんとだろ? ならきっとまほうのランプだってあるにきまってる"
     "それは……そうかもしれないけど"
     "なあ、ジャミル! おおきくなったらいっしょにまほうのランプをさがしにいこう!"
     "ええっ⁉︎ そんなのむりだよ"
     "むりじゃないよ。オレとジャミルのふたりならどんなテキにもまけない。オレたちはムテキだろ!"

    「あの、カリム様。少しよろしいですか?」
     従者に声をかけられて我にかえる。昔の思い出に浸ってしまったみたいだ。あの後、ジャミルはなんて答えたんだっけ。
    「ああ、どうした?」
     声をかけてきたのはまだ二十代くらいの若い男だ。今は48番目の弟の世話役だったか。以前ジャミルと楽しそうに話していたのをみたことがある。
    「ジャミル・バイパーからカリム様へ贈り物です」
     手渡された小箱に一瞬身構える。知り合いからのプレゼントを装った爆弾なんてのが以前届いたことがあったからだ。
     念のため魔法で調べたが火薬も機械仕掛けも呪いの類いもない。受け取った箱は細長く、幅は手の中に収まるくらいだ。開けると中から出てきたのは一本の赤い薔薇だった。
    「花…………?」
     添えられていたのは小さなカード。見覚えのある少年らしい文字が並ぶ。

    『おまえと本を読む時間は、好きだった』

     そして、裏側に小さく文字が書かれていた。厨房へ来てほしい。そう書かれていた。
     厨房はいつも賑やかだ。アジームの者達への食事はもちろん、来客への食事や賄い飯に明日の仕込みなどやることはいくらでもある。ジャミルは厨房で手伝うことが多く、学校に通う前はカリムの食事も三食作ってくれていた。コック達とも仲が良く特に料理長にはとても気に入られている。
     昔、冗談まじりで料理長から卒業後は厨房担当にジャミルがほしいと言われたけど、オレが断ったんだ。その頃はジャミルもオレの従者でいたいに決まってると思い込んでいたから。でもジャミルはどうしたかったんだろう。料理を作るのが好きだからもしかしたら興味があったのかもしれない。ちゃんと聞けばよかった。
     聞いたところでオレはワガママだからやっぱりジャミルを手放せないかもしれないけど。
    「ああ、カリム様! お待ちしてましたよ!」
     髭をたくわえた顔がくしゃりと笑う。この素敵な笑顔のおじさんがこの屋敷の料理長だ。でかい図体に似合わないかわいい笑顔をする人で豪快な笑い声は厨房から離れた客間にまで聞こえてくる。
    「ムハマド。今日も元気そうだなっ。おまえの笑顔を見るとオレもうれしいぜ」
    「ありがとうございます。カリム様はいつも俺を喜ばせるのがお上手だ。わざわざこんなむさ苦しいところまですいませんね。ジャミ坊のやつ、ここで渡せってうるさくて。こういうものは自分で渡さないといけねえって説教してやったんですが鮮度がどうの安全性がどうのって生意気な口聞きやがって」
    「あははっ、オレのせいでケンカさせちゃったみたいだな。迷惑かけてごめんな」
     カリムが頭を下げると料理長はアワアワと分かりやすく動転した。
    「とんでもねえことです。ジャミ坊と俺がやり合うのはしょっちゅうで! 挨拶みたいなもんですから、カリム様が気になさっちゃあいけませんや」

     料理長が持ってきたのは銀のフードカバーが乗った銀の皿だった。毒があれば変色するからすぐわかる。この家ではよく使われる皿だ。
     銀のフードを開けるとあらわれたのは薔薇の花の形のカップケーキ。
    「この香り……林檎か?」
     カリムの問いに料理長が満足そうに頷く。薔薇の形の林檎が乗った簡単なカップケーキ。むかし、誕生日に毒を盛られて寝込んでしまったカリムの元気になったお祝いにジャミルが作ってきてくれたものと同じだ。
    「ケーキ、食べれなかっただろ。……ちょっと焦げてるけど味は保証する」
     そういってこのカップケーキを差し出してきたあの照れ臭そうな顔を今でも昨日のことのように覚えている。
     料理長が毒味をしてくれて、カリムはカップケーキに齧りついた。口の中に広がる林檎の酸味と素朴なケーキの甘さに懐かしさとせつなさが胸に広がった。
    「…………ん、皿になにか書いてある」

     『だれの料理が一番美味いか、思い出せ!!』

    「ふ、ふふふっ、はははっ! あはははははっ!!!」
     ちょっとだけ、ほんの少しだけ期待した。もしかしたら愛の言葉が書いてあるんじゃないかって。
     でもこっちの方がジャミルらしいや。なんだか悩んでいたのが馬鹿らしくなってきた。だってあいつは言ってたじゃないか。
     もう我慢しないって!



    中庭の片隅に小さな家がある。元は離れとして作られたもので昔は人が住んでいたらしいが、今は使われておらず放置されている。昔はよくここに入り込んでジャミルと遊んで怒られたっけ。もう老朽化していて崩れるかもしれないんだよな。きっと数年のうちに取り壊されてしまうだろう。
     その離れの扉にジャミルが寄りかかっていた。誰かが飾った聖夜のリースが扉にかかっている。最後の呼び出し先は『秘密基地』、この離れのことだ。
    「カリム」
     ジャミルの声かけにオレは軽く手を上げて応える。柄にもなく緊張しているのだろうか、少し強張った顔でジャミルはこっちを見ている。
    「ジャミル。すてきな贈り物ありがとうな。うれしかったぜ」
    「カリム、俺は」
     何かを決意したようにジャミルはこぶしを握りしめた。
    「お前と別れない」
    「そういうと思ったよ。でもよく考えてくれよ。ジャミル。その選択をして後悔しないか? 何が起きるかわかっているのか?」
     思ったより冷たい言い方になってしまってどっと罪悪感が押し寄せてくる。でもジャミル。本当に今、引き返さないとダメなんだ。今ならまだ、若気のいたりとやらで後から笑えるんだ。
     ジャミルは少し泣きそうな目でオレを睨む。まるで仇を見るようだな。さすがジャミル、迫力あるなぁ。なんてまるで他人事のように思った。
    「お前こそ、俺と別れて後悔しないか。俺のこと好きなくせに」
     生まれが違ったら、出会いが違っていたら。何度そう思っただろう。この気持ちのままに行動できたら、どんなに幸せだろう。
    「好きだよ。ジャミル」
     そういうと、ジャミルがほんの少しうれしそうだから言いたくなる。このまま何も考えずに身をゆだねたくなってしまう。甘えてしまう。
    「でもオレはアジームなんだよ」
     ああ、ごめん。傷つけたいわけじゃないんだ。泣かせたいわけじゃない。ごめん。はじめから、オレが間違っていたんだ。
     ぽたりととうとうジャミルの瞳から涙がこぼれ落ちる。拭ってやりたくてもそんな資格オレにはない。
    「…………カリム。お前はもっと俺に感謝しろ」
    「えっ」
    「俺はっっっ!!! ユニーク魔法でお前の決断を変えることができる!!!」
    「あ、うん……」
     ジャミルのいう通りだ。ジャミルのユニーク魔法『スネーク・ウィスパー』は人を操ることができる。ジャミルがユニーク魔法でオレを操って既成事実を作ってしまうことは不可能じゃないだろう。でも、おまえはそんなことしないだろう?
    「大体お前の立場なんて、初めから知っている。それこそお前が鼻水垂らして泣きじゃくって俺に告白してきた時からこんな日が来るかもしれないと想定していた。今さら怖気付くなんて思うなよ」
    「は、鼻水は垂らしてない!……たぶん。あのな、ジャミルには黙ってたけどオレ……見合いが」
    「その見合いだが、キャンセルしてもらった」
    「ええええっ!!!?」
     キャンセル?
     そんな簡単に?どうやって???
    「御当主様に直談判した。俺とお前が真剣交際していると証拠写真を提出してな」
    「証拠写真⁉︎ 父ちゃんに何を見せたんだよ?」
    「まあ、些細なことはいいから」
    「すっごく重要なことだよな⁉︎」
    「カリム」
     肩にジャミルの手が置かれて久しぶりに感じるその近さにドキリとする。ジャミルの顔が近くて、ちょっと、かなり、恥ずかしい。
    「ひとりで抱え込むな。俺はそんなに頼りないか」
    「そ、そういうわけじゃ…………。ジャミルをこれ以上オレのワガママに付き合わせるのはイヤなんだ」
    「それこそ、今更だ」
     あ、笑った。ジャミルが昔よくしたくしゃっとした笑い方。最近じゃあ滅多にしてくれない、オレが大好きな笑顔。
    「……ジャミル」
    「うん」
    「オレ、オレ…………本当は、ほんとはなっ」
    「うん」
    「ジャミルと別れたくないっ‼︎ どうしてもっ、ジャミルをっ、好きな気持ち、すでられっ、ないっっっ!!!」
     吐き出した気持ちと一緒にとめどなく涙が流れ出る。周囲の期待に応えられない悔しさと情けなさと申し訳なさ、それに湧きあがってくるいとしさが全部涙に変わってしまったみたいだ。ジャミルはオレが泣き止むまでずっと、背中をさすってくれた。
    「少しは頼ってくれ。寂しいだろ」
    「う゛んっ、ごめっ、じゃみっ……ごべんっ!!」
    「ああ、もう。謝るな。俺も…………その、気づいてやれなくてすまない。恋人失格だな」
    「そんなことっ……」
     目の前に一輪の薔薇の花が差し出される。緋色の美しい薔薇は魔法でキラキラと光っていた。
    「だからもう一度、俺と付き合ってくれないか」
    「ジャミル……っ! これっ……‼︎」
     驚きで目を瞬かせるとジャミルは恥ずかしそうに目を逸らした。
    「…………柄じゃないのは分かってる。でも、今夜くらいは俺だって素直になるさ」
    「えっ、それって」
     ジャミルがニヤリと笑う。よく知ってるちょっと意地悪な笑顔。
    「上、見ろよ」
     言われるまま見上げると、目に入ったのは柊の葉で作られたリース。扉の上の方に飾ってあったやつだ。
    「柊の下で、恋人同士はキスをするんだ」
     聖なる夜。こんな素敵なプレゼントは初めてだ。はじめて重ねた温もりは林檎の香りがした。

    Merry Christmas‼︎
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