ハン♀とアヤメさんの2人で軽く遠征してる時に中継に使った町で、若い頃はヤンチャしてた風なちょっと軽薄そうな壮年のハンターにアヤメさんが声掛けられてて、空気読んで外してたハン♀が後で合流した時にはもう普通の顔してたけどなんか空気がピリついてておや?と思うハン♀
次の晩、野営の準備を終えて2人で火を見ながらそっと「昨日の人、どういう関係?」って聞いて、アヤメさんは一瞬誤魔化そうとするけどハン♀の目を見るともう察されてるのが分かって、諦めて目を逸らしてボソッと「……昔の男」って言う
「意外だわ、ああいうタイプ苦手そうだと思ってた」「アイツで苦手になった」「……」「……アタシは若くて馬鹿だったんだよ。あんなのに引っかかるくらいにね」苦そうに眉を顰めて少し唇を尖らせる横顔がなんだか妙に幼く見える。この気高い人にも男に縋った過去があったんだなあと、なんだか新鮮に思いながら橙の光を照り返す銀髪を眺めるハン♀。今までとはちょっと違う新たな親近感を感じつつ口を開く。
「こないだの男との顛末、私アヤメさんに言ったっけ」「……?」「私の前に4股かけててね、つまり私が5人目。集まって5人がかりでボコボコにしてやったわ!泣いてた。ざまあみろ」
フン、とわざとらしく鼻を鳴らすと、冷えていた気配が和らいだ。「ふ……アイツ?あの双剣使い?」「そうそれ」「アンタもよく軽い男に引っかかるよね」「そうよ、見た目ああいうのが好みなんだけど。中身が無いヤツ多いのよ!スッカスカ!」(ハン♀の好み:ちょいチャラめ伊達男系イケメン。髭があると尚良し)「分かる」「分かるぅ?アヤメさん」「分かるよ」「……ふふ。アヤメさんとこういう話してみたかったのよね」
アヤメさんは声を出さずに笑って、フイと背中を向ける。「もう寝るか」声音が冷たくないので拒絶ではないとわかる。だからハン♀も笑ってじゃれつく。「ええーもっと聞かせてよぅ」「嫌だよ」「ヤダヤダ寝かせない」ぐらぐらと揺さぶられてもアヤメさんは笑っている。「……じゃあ一対一ね、アンタが一個言ったらアタシも一個言う」「やった」
肩布にくるまって荷物にもたれて、いつでもそのまま寝られる体勢。時折薪を足したり白湯を飲んだりしながらぽつぽつと語られる昔話は、ハンターとしての体験談とはまた違う、ひとりの女性の苦い思い出。それを聞かせてくれるまでに信頼されていることが嬉しくて、自分もひとつ、里の誰にも言ったことのない失敗を打ち明ける。口を挟まず最後まで聞いて、「そっか」と一言。ポットを取って白湯のお代わりを注いでくれる。この人の優しさは静かで温かい。湯気を追って雲を見上げる。柔らかい夜が更けていく。