Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    aneniwa

    @aneniwa
    マイハン♀ミドリさんの話しかしません

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 🍶
    POIPOI 37

    aneniwa

    ☆quiet follow

    私がモンハン二次を書き始めた初期の初期、一番初めのやつです。あちこち書き終わってないけど、もう覚えてないし動かせないしで書き足せないので、恥を忍んで晒します。
    やっぱりマイハン♀だけど、このハン♀はなんとビッチじゃないです(!)
    一応名無しで書いてるはずですが、教官にタメ口叩いてギャンギャン噛み付くタイプの娘っ子なのでご自衛ください。
    追記:ごめんなさい嘘つきました名前有りです、ミドリです!

    死にたがる教官に追い縋る愛弟子の話教官は人格者だし、剥ぎ取り台詞に「大切に使う」「無駄にしない」ってあるから命の大切さも知ってるし、最悪やむを得ず自分を使い捨てるとしてもその場を絶対教え子には見せないと思うんだけど、それはそうと軽率に死にに行く教官とそれにブチ切れるマイハンが読みたいので、解釈違いだと叫ぶ自分と刺し違えながら書く

    ↑書き上げられなかったね……






    ウツシという男は、死にたがっているのではないか。
    カムラの英雄と呼ばれる狩人の、目下の懸念はそれだった。
    あれほど強く若いハンターが、何故里付きのハンターとして扱われていないのか、教官として里に閉じ込められているのか。その理由を里長に尋ねてもハッキリとした返答は得られなかったが、弟子として彼の近くで時を重ねるうちに、なんとはなしに感じられる違和感があった。
    あまりにも怪我が多いのだ。
    1人で狩りに赴き、深傷を負って帰ってきたことが何度あったか。深追いをどれだけ咎められても、「熱くなって、つい」と笑って済ませては呆れられていた。
    ある教練の折、転んだ自らを庇ってモンスターの攻撃を受け止め、傷を負いながらも笑顔で「怪我はないかい、愛弟子」と曰う師匠を尻餅をついたまま見上げた時。少女の胸中にぼんやりと漂っていた不安は、確かな輪郭を持つ。
    『弟子を庇う』だとか『里を守る』だとか、そんな大義名分さえあればこの人は、きっと簡単に死に場所を定めてしまうのだろう。

    身寄りない少女にとって、師弟として長い時間一緒に過ごしたウツシは大切な存在だった。家族に等しく慕っていた。培った温かな関係を、むざむざ手放すつもりは毛頭無い。
    見習いの年若く力無い自分に、とれる手段は限られていた。いつまでも手のかかる弟子として自立せず守られ続け、彼の人を里に縛りつけるか。あるいは一足飛びに駆け上がるように力をつけ、死にゆく男の手を掴み上げるかだ。そして彼女の生まれ持った高い矜持は、前者の選択肢を許さなかった。

    だから彼女は強くなるしかなかった——大切な人を喪う恐怖に抗い続けるために。
    幸いにして彼女には、ハンターとしての天性の才能が備わっていた。当の本人である師からの教示で、狩猟に必要な知識も技術も、地道な努力を続ける体力も、絶望的な状況でも諦めない精神力も身に付いた。
    そして運も、狩人に味方した。否が応でも多くのモンスターを相手取る百竜夜行を幾度も体験した。怨虎竜その他、強大なモンスター達の討伐依頼を幾度もこなした。それは他の地域では得られない試練であり、成長の機会を求める彼女にとっては恩恵であった。
    そうして彼女は望み通りに、追い立てられるように力を得ていったのだった。
    やがて百竜夜行の源泉たる、2体の古龍を打ち倒すほどに。

    それで狩人は、少し安心していたのだった。
    百竜夜行が終焉を迎えつつあり、里の危機は去った。大物の討伐依頼は自分に宛てて来る。タイシという新たな弟子もいることだから、里から遠く離れることもしばらくはしないだろう。もうあの人が、ウツシ教官が危険に際するような状況は、そうそう起こるまいと……。





    狩人は周囲を哨戒しながら、周りの里守達に気づかれないようにため息をついた。誰も彼も硬い表情で警戒しながら、荷物を担いで小走りに進んでいく。非戦闘員は列の中央に、その周りを武器を担いだ里守達が取り囲んで守り、迫り来るモンスター達を迎撃しながら退路を確保していた。

    ……敗戦だった。
    百竜夜行は風神龍・雷神龍の討伐に伴い、徐々に規模を縮小していった。それで警戒を怠っていた訳ではないが、その対策に割く人手を少しずつ減らしていくことは当然ではあった。
    それで、気づいた時には、その大きな群れは砦のすぐ近くまで迫っていたのだ。対応が遅れた結果、常であれば別働隊が砦の外で戦闘を行い、撃ち漏らしを砦で引き受けるという構図で戦っていたはずが、群れの全てを砦で迎撃する羽目になった。折しも物資を運び込んだ直後で、それ自体は戦闘の助けになったが……運び手の非戦闘員を多数抱え込むことになった。

    このまま抵抗を続けていては死人が出る。そう判断した里長が撤退を指示し、砦を放棄して里への途上にある中継拠点へ戻り、体勢を立て直すことになったのだった。
    その最後尾で狩人は、手練れの里守達と共に迎撃に当たっていた。

    悔しかった。万全の状態であれば耐え切れる規模の群れであった分、余計に。
    その気持ちは皆も同じだろうが、狩人には自らこそが里を守り抜いてきたと言う自負があったのだ。その自分が付いていながら、皆に敗北を味合わせることになるとは。申し訳なさと屈辱感で目も眩むようだった。



    「モンスター、増えてきたね……」

    「うん……」

    隣で戦っているイオリとヨモギの言葉に、物思いに耽っていた狩人は驚いて顔をあげた。雄叫びをあげて迫り来るモンスターの群れがその眼に映る。……こんな事態になっているのであれば、彼女らと共に殿を務め、遊撃しながら哨戒に当たっている筈のあの男から、何かしら警告がこない筈がない。
    慌てて周囲の気配を探り、……血の気が引いた。

    「……ウソでしょ」

    「ハンターさん?」

    ヨモギが狩人の呟きに反応する。それに返事を返す余裕もなく、合図の指笛を鳴らす。二度、三度。……反応はない。
    その間にもモンスターの群れは迫っていた。混乱する精神をおいて、鍛えた体は勝手に反応する。飛びかかってきた迅竜を避けて、その頭に軽弩を打ちつけて昏倒させる。倒れ込む迅竜にはもう目も向けず、上空に狙いをつけて傘竜を撃ち落とす。狩人が動きを止めたモンスター達をイオリとヨモギは連携して仕留めた。目を見交わし、様子のおかしい狩人の近くに駆け寄る。2人が見上げた彼女は顔色を失い、見たこともないほど狼狽していた。

    「教官がいない……!」

    「えっ」

    「ウソ……!」

    戻ったのだ。1人、敵の渦中に。
    もっと早く気づくべきだった。狩人は歯を食いしばって悔やむ。こんな絶好の機会が訪れたのだ、あの戦闘狂が、あの死にたがりが飛び込まない訳がない。

    「どうした」

    異変に気づいた里長が声をかける。

    「教官がいません。合図にも反応しません……!」

    手傷を負い動けずにいる、あるいは気絶している可能性は考えなかった。それであれば指笛に返答があるはずだし、彼のオトモが主人の危機を知らせにくるはずだ。土台、この程度のモンスターに簡単にやられるような柔な男ではないのだ。その点については誰も心配していなかった。

    「……あやつめ」

    里長の目に焦燥の火が灯るのを見て、狩人は彼が同じ懸念を抱いていたことを悟る。それは里長にも伝わったようだった。




    「里長」
    「ならんぞ」

    口を開いたのは同時だった。
    父とも慕うフゲンの、地に響く重い声音に、女狩人は一瞬目を逸らし……真っ直ぐに見返す。

    「お叱りは、あとで受けます。ごめんなさい里長!」
    「待て!!」


    狩人は懐から翔虫を取り出して放ち、モンスターの群れに飛び込んだ。吼える蛮顎竜の頭を蹴って群れを飛び越え、木の枝をバネに使い虚空に躍り出る。一つに結んだ長い黒髪と装備の飾り布が風に翻り、木々に紛れてすぐに見えなくなった。


    「あわわ……」
    「……里長」
    「……撤退を続けるぞ。体勢を立て直したらすぐ砦に戻る。あの2人であればそのくらい保つ筈だ」

    慌てる里守達に指示を飛ばし、
































    「君は戻りなさい」
    「イヤよ」
    「愛弟子!」

    反命を咎める教官を他所に、狩人は猟具生物カゴから子泣キジを放った。高い鳴き声が響き渡り、周囲全ての気配が一斉に此方を見る。飛び去る雉を眩しそうに見つめて、愛弟子は笑っていた。

    「いくら私でも、こんな中単独で撤退は無理があるわね?」

    「倒し切って、2人で帰ればいいのよ」
    「……帰ったらお説教だよ」

    こういう時の弟子に何を言っても無駄だと、ウツシは経験で知っていた。ギルドより『腕は確かだが協調性に難有り』と公式に評価される程の跳ねっ返りだ。
    しばらくの間好きにさせておく。そうして、いよいよとなったら……気絶させるなりして安全なところに寝かせておけばいい。
    そう教官が判断するだろうことを、愛弟子も予測していた。お互い長い付き合いだ。

    「ふん。先に出るわよ」

    高慢に言い捨て、女狩人は宙に身を躍らせた。落下の勢いを乗せ、手頃なモンスターの頭をボウガンの銃床で叩き割る。即座に前転してどこからか飛んできた棘を躱し、武器を納めると、ウツシをチラと見上げて腰のポーチに手を入れた。閃光玉を投げる気だ。ウツシが目を腕で覆うと同時にそれは投げ上げられ、用途に正しく閃光を放った。

    「早く来ないと、私が全部倒しちゃうかもよ!」

    目を回すモンスターの群れの中心で、彼女は快活に笑った。

    「全く」

    とんだじゃじゃ馬だ。
    ウツシは苦笑する。彼はかの女の、カラッとした我儘ぶりを気に入っていた。彼女の教育担当としては咎めなければならないのだが、どうしても甘くみてしまう。……放言に見合う実力を備えるための、血の滲むような努力を知っているだけに。

    そう、彼女は強くなった。
    武器を持ち上げることすら出来ずに悔し涙を流していた幼い頃とは違う。ウツシの思考を読んで追いすがり、遠距離からとはいえ一撃を喰らわせる程に。今のように、一対多数でモンスター側を圧倒する程に。人智を超えた力を持つ古龍をも打ち倒す程に。成長した。強くなったのだ。

    であるからこそ、もう自分は必要ないのでは、とウツシは考えてしまう。追い求めてきた理想の生き方に、死に方に、近づいても良いのではと考えてしまう。

    「よいしょっと」

    考え事をしながら調合していた、タル爆弾が出来上がった。気負いもなくそれを持ち上げ、ウツシは眼下の愛弟子に呼びかける。

    「おーい愛弟子ィ!」
    「どわっ!?」

    怒り状態の蛮頭竜から意識を逸らさないまま、片目だけで頭上を見上げた女狩人は、良い笑顔でタル爆弾と共に落下してくる師匠を視認するや慌てて後方に跳ね飛んだ。
    直後起こった爆発により、蛮頭竜の頭が破壊され、その巨体が地響きをあげて倒れる。

    「あっぶないわね!ふざけないでよ!!」
    「流石の反射神経だね、偉いぞう愛弟子!」
    「もう!獲物を横取りするんじゃないわよ!」
    「君が先に横入りしたんだよ。ほら、あとは早い者勝ちだ!」







    「はいこれ、砥石」

    一群れ倒し終わった。
    ボウガン使いの狩人は砥石を教官に差し出す。有事に備え、携行品の中に必ず入れておくものである。

    「じゃあ、俺はこれを」



    「まだ手持ちが残ってるわよ」
    「いいから、君が持っておきなさい」

    憮然としながら回復薬を受け取った愛弟子は、ふと通常弾の弾倉を取り出した。察して眉を顰める教官を他所にさっさと回復薬を流し入れ、受け取った分全てを回復弾に変えると、フンと鼻を鳴らす。(持ってますけど)とでも言いたげな、不遜な表情だ。

    「はあ……」



    「丁度いいじゃない、アレ使いましょ」

    2人の眼下には、迫り来るモンスターの群れの、その先鋒の一団があった。オサイズチやトビカガチなどの、比較的素早いモンスター達が互いに牽制し合いながら走り寄ってくる。それらにかなり遅れをとる形で、いくつかの白い岩のような背中がどしどしと、彼らにしてみれば大急ぎなのだろう速さで寄ってきていた。

    「バサルモスか。……いいね」

    単純な作戦だった。動きの鈍重なバサルモスが門に辿り着く前に先鋒のモンスター達を片付け、然るのちにバサルモスを門に突っ込ませる。その場でトドメを刺して動きを止めれば、即席のバリケードの出来上がりだ。

    「先に出るよ。トドメは君が」

    「分かったわ」




    「小休止、かしらね……」

    最後に残ったリオレイアを撃ち落とし、女狩人は一つ息をついた。辺りの気配を探っていた教官が警戒を解く様子を見て、自分も武器を格納する。どちらからともなく歩み寄り、目視でも相手の状態を確認しつつ声をかける。

    「怪我は?」
    「無し。教官も?」
    「もちろん」

    遠くから地響きが迫る中、装備の損傷や回復薬の手持ち数など、短い会話で確認していく。双方、動きに支障の出るような怪我は無く、装備にも問題はない。しかし、

    「……どう考えても弾と火薬が足りないわ」
    「俺も、砥石を使い切りそうだ」

    体力にはまだまだ余裕があったが、持ち込みの消耗品の殆どを使い果していた。
    元よりこの師弟は、武器を大物狙いのピーキーな仕様に調整している。砥石や弾薬の消耗が激しく、長期戦には不向きなのだった。

    「……撤退の時に持ち出せなかった分がまだあるはずだよ。手分けして探そう」

    「じゃ私東側見てくる」

    「頼んだよ」


    そして探し出した物資を長持ごと、門の前に山と積み上げ、師弟はその前に陣取った。

    「結構残ってたわね」

    「これでまだやれるね」











    ジリ貧だった。
    ウツシはどうやって愛弟子を逃すかの算段を始め、

    「教官!残弾8!」

    叫ぶ愛弟子に一瞬目をやる。視界の端でジャコン、と音を立ててボウガンに装填されたのは回復弾だった。

    「絶対当てるから!」

    それ以上の言葉は必要なかった。愛弟子がやろうとしていることは、絶対に楽しい。教官としての責務と天秤にかけて、狩人の性が勝った。
    愛弟子は周囲のモンスターの注意を引きつけて誘導し、ウツシが角竜に集中できるように舞台を整える。

    その角でもって相手を貫かんとする、頭を振り上げる角竜の攻撃に、ウツシは真っ向から勝負を挑んだ。翔虫を放って飛び上がり、角竜の額に真上から双剣を叩きつけたのである。的が自ら跳ね上がって来た分、相乗効果で相当のダメージが入った筈だが、その衝撃に人間の体は耐えきれず、上空へ吹っ飛ばされた。冷静に翔虫を使い、空中で体勢を立て直すその瞬間、腰に軽い衝撃が走る。回復弾が着弾したのだ。一拍の後、身体が軽くなる。

    (すごいな……)

    角竜から目を離すことなく着地し、油断なく構えながらも、ウツシは感嘆していた。
    いくら長年の付き合いで、戦い慣れたモンスターで。動きの癖を知り尽くしているとはいえども、空中の的に当てるのは至難の筈だった。さらに彼女は、小物とはいえ周りのモンスター達の注意を引き受けていたのに。それらの攻撃を捌きつつ、ウツシの動きの阻害をせず視界の邪魔をしない場所であり、最大の回復量を得られる体の中心に命中させたのだった。

    新たに現れたタマミツネが咆哮をあげる。それを聴いて女狩人は「直線ブレス!そっち向くわよ!」と警告の声をあげた。



    「腕を上げたね愛弟子ィ!!」

    心底嬉しげな師匠の声を聞いて、愛弟子は暗く笑った。

    「当然よ。この時のために鍛えてきたんだから」

    聞こえないように小さな声でひとりごちる。
    彼女も楽しかった。持ち得る全ての技を使い果たして行う狩りが、楽しくないわけがない。それがハンターというものだ。
    けれども、どうしても許せなかった。腹の底に怒りが燻っていた。
    置いていかれた。かつての危惧の通りに。……それも非戦闘員と一緒くたに。これほど力をつけたというのに、まるで無力な子供扱いである。元より高い彼女のプライドが傷ついていないはずがなかった。
    胸を刺す悲しみと憤りを振り払うように、軽弩を構え泡狐竜に弾丸を叩き込む。

    人の気も知らないであの男は、ウツシはその心のままに双剣を振るっている。翔蟲を最大限に活用した縦横無尽の動きは、一昔前の自分なら目で追うことも出来なかったはずだ。でも今なら、先を読むことだって出来る。そう、ここで右に跳ぶ。それを追って角竜が尾を振り回す。上に跳んで躱し、双剣を叩きつける、そのまま標的に張り付き攻撃を続け……後ろに跳んで距離をとるここ、このタイミングで一瞬動きが止まる。それを見越して照準を据え、一拍早く回復弾を放った。——着弾。振り向いた教官の目に、称賛の色が浮かぶ。

    「置いていったくせに」

    周囲の敵に対応するため、貫通弾を装填し直して……女狩人はふとそのまま、宙を駆けるウツシに狙いをつけてみる。動きは読める。……撃てば当たる。

    「撃ち落としてやろうかしら」

    そうしたら、もう私のこと、忘れたりしないんじゃないかしら。
    そっと撃鉄に指をかけ……グリップを握り直して、飛びかかってきた傘竜の頭を殴り割った。

    「……なんてね」

    物騒な呟きに気付くことなく、教官は楽しげに斬撃を繰り返している。




    全身を巡る血が、沸騰しているのではないか。そんな考えが浮かぶ程ウツシは興奮していた。これ程に——これ程にキツく、楽しい狩りがあるだろうか。全ての技量を出し切って互いに一歩も譲ることなく、しかし思考と動きが恐ろしい程に噛み合う——こんな狩りが。

    「楽しいなあ」

    我知らず呟く。
    この瞬間がいつまでも続いて欲しかった。永遠にこうして戦っていたかった。
    今だってそうだ、角竜が叩きつける尾を掻い潜り、その目前に躍り出る。折れずに残っている片角を振り翳して突進する角竜を、真正面から迎え撃つ。すれ違い様に残った角を叩き折り、衝撃を逃しきれなかった左腕に痛みが走るが……着弾。見事に左肩に。

    「残弾0!次で決めてよ!!」

    鋭い愛弟子の声が飛ぶ。

    「誰に向かって物を言ってるのかなっ!」

    「俺は、教官だよ!!」





    崩れ落ちた角竜を一瞥し、2人は即座に泡弧竜に向き直った。

    「まだやれるよね?」

    「当然よ。誰に言ってるの」

    ボウガンに貫通電撃弾を装填し、ウツシが誇る最愛の教え子は不敵に笑った。

    「私、あなたの愛弟子よ?」










    「もう俺、君がいないと駄目になりそうだよ」

    「っ」

    群れを倒し切り、次の群れに向けての戦闘準備中。いきなり放たれたその言葉に、狩人は息を詰まらせた。

    「楽しかったなあ」

    陶然と呟く男に対し、目眩と殺意を覚える。

    (やっぱりさっき撃っとくんだったわ)

    さっきから死のうとしてる奴が未来を口にするな。
    人の気も知らないでこの男は。
    深呼吸して心を宥める。まだ殴るな。次の群れが迫っている。まだ、動かない人間一人を担いで退避できるような状況ではない。
    横目で睨みつけて……男の動作がどこかぎこちないことに気がついた。

    「教官……どこか怪我した?」
    「ああ、肋骨一本逝ったかな」
    「言いなさいよ……」

    こめかみに青筋が浮かびあがるのを感じた。
    やっぱり殴ってもいいかもしれない。

    「あれだけ無茶やって骨一本で済んだんだ。本当に腕を上げたね、愛弟子。助かったよ」
    「状況を正確に教えろって言ってるのよ、話をすり替えないで」
    「愛弟子こそ、言うことがあるんじゃないか?」

    半身振り向いたウツシに横顔で誰何され、ぐ、と狩人は言葉に詰まる。先程の戦闘において長時間過剰に集中し続けていたため、目眩と耳鳴りが出ているのを隠していたのだ。

    「……動けるわよ」
    「俺もね。……目眩?」
    「……耳も」
    「そうか。君は休んでいなさい」
    「絶対イヤ。骨折の方が重症でしょ」
    「三半規管の異常を甘く見ては駄目だよ」
    「動けるって言って……」

    狩人が言いかけたその時、林の向こうから雷狼竜の遠吠えが響き渡った。

    「ジンオウガか……」

    「呼び声ね。2体はいる」

    言った端から、違う方向から吠え声が聴こえてくる。

    「多いな……」







    「愛弟子、君はもう帰りなさい」

    「……は?」


    「いい加減にしてよ!」


    「あなたが呼んだのよ。私のことを、英雄だって。それなのに戦力外通知?まだ足りないの?」

    「それは違う!君を失うわけにはいかないんだ」

    「あなただって必要よ!」

    まるで予想だにしなかった、という風に、ウツシは微かに身じろぎした。それが腹立たしくて、悲しくて——縋りつきそうになった手で、胸ぐらを掴み上げる。至近距離で目が合う、その琥珀の輝きは憎たらしいほどに曇りない。それにまたウツシの愛弟子は憤る。

    「……この死にたがりが!」

    突き放し、睨みつける。
    顔色ひとつ変えることなく、教官は同じ言葉を繰り返した。

    「……帰りなさい、愛弟子」




    襟元を掴み上げられ、至近距離で目が合う。そうこれだ、この目だ。その異名の通りに燃え上がる、この目に俺は惚れたんだ。





    「……こう言えばいい?『あなたが死んだら後追いしてやる!』」

    「なっ……!」

    「本気よ」

    「……ずるいな」

    「……帰るって言って。私と一緒に生きるって言ってよ」

    泣かない。泣けば視界がぼやけるし、息が乱れる。何より矜持が許さない。……私は絶対に泣かない。

    「置いてかないで、……」

    でも、声が震える。


    ふ、と師匠の気配が消え、狩人は慌てて顔をあげた。どこかへ行ったのではない、攻撃の前触れだ。視界外からチャキ、と



    うなじに手刀を叩き落とし、意識を失った愛弟子を抱き止める。その手にあった小袋が零れ落ち、地面に白い粉が撒き散らされた。

    「!……人魚竜の眠り粉か」

    こんなものを隠し持っていたとは。

    「……危なかったな」

    先程掴みかかられた際に口布が少しズレていた。これをぶつけられて吸い込めば、恐らく意識を手放していただろう。
    感情的な行動の裏に冷徹な計算を隠し持って、愛弟子は機会を窺っていたのだ――成長を嬉しく思うと同時に、刺すような罪悪感がウツシを襲った。

    「ごめんよ愛弟子。でも、君は喪えない。里も、俺もね」

    愛弟子を担ぎ上げ歩き出した、その時。
    背中に熱い痛みが走った。

    「なっ」

    彼の背にクナイを突き刺した女狩人は身を捩り、ウツシの腕を振り解いて地に降り立つ。
    ウツシが膝を突いて崩れ落ちる様を、感情を殺した目で見下ろしていた。

    「ま、……」



    「…………」

    完全に意識が落ちたのを確認し、狩人は眠り毒を塗ったクナイを教官の背中から抜き取り、簡単に止血を済ませる。担ぎ上げて砦の奥へ。控え室に寝かせ、楽な体勢を取らせる。

    「…………」

    計画通りに事は成った。だというのに、心は晴れなかった。
    この男の中では、私は徹頭徹尾『被保護者』なのだ。
    それを見越して行動を組み立てていた自分にも腹が立った。
    ……それでも、勝ちは勝ちだ。初勝利だった。

    「……ふん」

    弾薬を失ったボウガンを投げ捨て、砦に置かれていた予備の武器の中から、双剣を一揃い選び取る。
    振り返り、見下ろす先にはひしめくモンスターの群。

    「勝つわよ。当然でしょ」

    守り切ってみせる。
    里も、あの人も。






    里長が里守達を連れて砦へ辿り着いたのは、それから少し後のことだった。











    「……里長。申し訳ありませんでした」
    「よく、ウツシを止めてくれた」
    「……はい」
    「今回は不問とする。二度とするなよ」
    「はい」

    「……戻ったか」
    「ハモンさん……。ごめんなさい。ご心配おかけしました」
    「無事なら良い」
    「……あの、もう一つ謝らないといけないことが」
    「ん?」
    「その……砦にあった予備の武器、全部使い潰しました」
    「……何だと?」


    「いっっっっ…………!!!!!」


    「あたた……。拳骨一回で済んで良かった……」
    「ミドリさん……酷いじゃないですか。全部作り直しで」
    「ごめんナカゴ。弾も砥石も使い切っちゃって……今度奢るから。許して。……あの、あれ使いやすかったわよ、大剣。アンタの銘が入ってたやつ」
    「自信作です。……あれも駄目にしたんですか……」
    「本当にごめん」





    「謝らないわよ」
    「……」
    「言っておくけど、あなたのそれはあなたの我儘よ。私のも私の我儘だから。お互い譲れない以上、どっちが勝つかの話でしょう。それで今回は私が勝ったの」
    「……強くなったね、愛弟子」
    「当然よ。伊達に英雄なんて呼ばれてないわ」





    「もう痛くないから。心配しなくても大丈夫だよ、愛弟子」
    「骨折が1週間で治るわけないじゃない……」
    「俺丈夫だからね!」
    「いいから大人しくしてなさい!それとも麻痺弾を撃ち込まれたいのかしら!?ちょうど持ってるわよ!!」



    「教官が教えたんじゃない、対人戦闘訓練で。『罠は二重三重に張るべし』って。基本に忠実にやっただけよ。自分で教えといてよく引っかかったわね?」

    「返す言葉もないなあ。実際上手だったよ。衝撃を殺しつつ意識を失ったようにみせる身体のコントロール、眠り粉への視線誘導、クナイの仕込み位置も。完璧だったね!」
    「ふふん」
    「悔しいなあ。でも次は通じないよ」
    「……次がある前提で話すな!!いい加減にしてよ!!!」
    「ごめんね。性分なんだ」
    「ふざけろこの男……」
    「……大事なもの守って死にたいんだよ、俺」

    低い声で囁きながら分厚い手で女の頬を撫で、美丈夫が男くさく微笑む。並の娘なら一撃で堕ちるこの男の色気も、……里1番の跳ねっ返りには通用しない。

    「守られたくないのよ私は!十体から古龍の討伐する女守ろうとしてるのアンタくらいよ!?」
    「ははは」

    きゃんきゃん喚く愛弟子を片手でいなす。
    (やっぱり、おぼこいよなあこの子)と生暖かい笑いが出た。それを「笑って済まそうとしているの?」と捉えた愛弟子は、怒りのあまりこめかみに青筋を浮かべて立ち上がった。

    「……あっきれた。もういいわよ勝手にすれば?知らない」
    冷たい目をして吐き捨て、部屋から出て行く愛弟子を見送る。ウツシの口元はまだ緩んだままである。(怒った顔も可愛いんだよな)くらいにしか思っていないのだ。
    この男はまだ知らない。かの女の怒りの深さも、その長さも。今回ばかりは怒って当然許さずとも良い、と周りもそれに同調し、ウツシに味方する者はいなかった。

    ……次に彼が彼女の声を聞くのは、一年後となる。




    「……愛弟子ぃ、俺が悪かったから……頼むから話を……もう3ヶ月も俺のこと無視して……愛弟子ィ……………」
    (……追われるより追う方がダメージ入るのねこの男。あと3ヶ月は粘ろ)



    「今回は俺あいつの味方しますよ。……絶対言うなって止められてたんだけど、あいつ、帰ってきた晩ひとりで泣きながら吐いてたんですよ」「そりゃ、教官には絶対知られないようにしますよ、そういう奴じゃないですか」

    「うーん……、流石に僕も擁護できませんねぇ。ミドリさん、ウツシ教官の話題出すとフイっと行っちゃうんですよ。相当根に持ってます」

    「誠心誠意謝るしかないでしょう」
    「辛い思いをさせたんですから、当然ですよ」













    「やっぱり無いなあ」

    「完全に使い切っちゃったわね」

    砥石も弾丸も、もうどこを探しても出てこなかった。

    「と、なると……こうするしかないね」

    「流石に罪悪感……」

    師弟の背後の壁に、様々な武器が大量に立てかけられていた。予備として砦のあちこちに置かれていたものを集めて運んだのだ。今からこれらを片端から使い潰そうというのである。

    「怒られるかしら……」

    「うーん……」

    武器職人達の、特にハモンの怒りが恐ろしいところだが、背に腹は変えられない。

    「帰ってから謝ろう」

    「そうしましょ。……さて、」

    弾が無い以上、弩を持っても仕方がない。その次に得意とする弓を吟味している愛弟子を、教官が呼びつけた。

    「君はこれだよ」

    振り返り、教官の手に大剣があるのを見て、愛弟子は「うげ」と盛大に顔を顰めた。

    「えーやだ」

    足を止める武器を不得手としているのだ。

    「もちろん、上達しただろう?」

    「せめて太刀……」

    「復習は大切だよ、愛弟子」

    有無を言わさぬ笑顔の教官から渋々大剣を受け取り、天を仰ぐ。気を取り直して刃の状態を確認すると、軽く素振りをして動きを確かめた。

    「重いやつ嫌いなのに」

    「何でも扱えないと、こういう時に困るんだよ」

    「こんな事しょっちゅうあっちゃ、堪んないわよ……」



    モンスター達を掃討し切り、周囲に敵影が無いことを確認すると——女狩人は自らのボウガンに縋るように、ずるずると座り込んだ。

    「……」

    「大丈夫?」

    「耳がわんわんする……」

    顔色を見るに、吐き気も出ているようだった。指先も震えている。耳と目を酷使し、過度に集中し続けた弊害が出ているのだ。

    「少し休んでいなさい。水は?」

    「ある。……なんで教官はそんな動けるのよ」

    「楽しかったからね」

    こともなげに言い放ち、物資の補給に向かう教官の背中に、「スタミナお化けめ……」と恨めしげな声が届く。

    「聞こえてるよ」



    「火薬……ないかしら」

    「ああ、確か分散して貯蔵してあるはずだよ」


    「ついでに砥石も探してきてくれないか」

    「もう使い切ったの……。分かったわ」

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💯👍👍👍👍👍👍👍👍👍👍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works