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    aneniwa

    @aneniwa
    マイハン♀ミドリさんの話しかしません

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    aneniwa

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    ツワ夢展示品

    マイハン♀ミドリさん×アヤメさんの書きかけ、五篇です。
    がっつりカプ成立済みか、身体の関係有り。
    対アヤメさんのミドリはツンデレみが薄い。ビッチには変わりないけれども。

    【ツワ夢】ハン♀アヤ書きかけ「……………やらかしたね」
    「……なんにも言い逃れできないわね、コレ」

     朝を告げる小鳥の声が遠く聞こえる、まだ薄暗い水車小屋の中にて。里のハンター・ミドリと、その先輩ハンターのアヤメの2人は、揃って二日酔いに痛む頭を抱えた。
     眼前に広がるのは昨夜の酒宴の跡だ。ほとんど空になった酒樽やらつまみにつついていた魚の骨、落ちて転がった箸や倒れたままのぐい呑みなどが、雨戸の隙間から差し込む淡い光に照らされている。……それはいい。幸い壊れた物もなし、少し掃除をすればすぐに片付く。
     そして敷かれた布団二組。それもまあいいだろう。いくらハンターとはいえ、酔った女一人で夜道を歩くのはよろしくない。「泊まっていけば?」と軽く言った記憶がミドリにはあるし、アヤメには「じゃあ泊まる」と答えた記憶がある。気の知れた仲の同性同士だ、謗られる振る舞いではないだろう。
     問題は、その先の記憶――酔いにまかせた悪ふざけとその延長のじゃれ合い、そしてその先で起こってしまった『間違い』にある。
     そう、全く言い逃れは出来なかった。顔を見合わせて互いに悟る、両者とも完全に記憶は残っている。その上物的証拠までもが完璧に揃っていた。使われた形跡のない客用布団と、散らばった二人分の衣服、何より互いの身体に残る無数の跡だ。

    「……ごめんなさい。私から誘ったわね」
    「いや……受けたアタシもアタシだし。さっさと片付けて無かったことにしよう」
    「助かるわ……」

     気まずい空気の中、そそくさと身支度を整えながら、アヤメがふと呟いた。

    「……手慣れてたね、女相手」
    「アヤメさんもね」

    「……そこ追及するのやめましょ、誰も幸せにならないわよ」
    「ごめん」


    「あー、アヤメさん、それダメだわ」
    「ん?」
    「すっごい見える」
    「…あー」

     アヤメの内腿に散らばった跡を指して

    「それ取って」
    「ん? うん。……あわ」

     飲み残しの酒を大事な装備にぶっかけて、涼しい顔でそれを風呂敷に包む。

    「酒被っちゃったからアンタの服借りた。二日酔いで今日は休み」
    「……そう言っとくわ」

     じゃあ服貸すから、と箪笥に向かったところで、ふとミドリの胸中で首をもたげたものがあった。衝動のまま引き出しを引っ張り出し、あーでもないこうでもないと中身を掻き回し始めた後輩に、アヤメは気後れしながら声を掛ける。

    「あの、適当に地味なやつ……」
    「『地味なやつ』? じゃ、これとか」
    「……アンタの地味の基準がアタシと違うのは知ってたけどさ」
    「気に入らない? これは?」

     それともこれ? 帯は? これなんかどう? ヤバい似合う! と、ミドリは長着や帯をアヤメに押し当てては喜ぶ。完全にスイッチが入っている。結局彼女の勢いに押し切られたアヤメは(昨夜もそうやって流された)、やたら粋で派手な小紋を着せ付けられて後輩の家を出た。自分の部屋に帰るまでの短い間しか着ないというのにヘアセットまでされて。


    「つかぬことを聞くんだけどアヤメさん」
    「なに」
    「お酒の失敗これが初めてじゃないわよね?」
    「まあ」



     そして何事も無く2ヶ月が過ぎた。
     あまりに波風が立たなかったので、油断があったのかもしれない。しかしハンターとして、独り立ちした大人として、同じ過ちを繰り返すという愚行は避けるべきだった。
     此度はアヤメの部屋にて、前回と同じく倒れた酒器や散らばった衣服、咬み傷や鬱血痕まみれのお互いの姿を目にし。しばしの沈黙の後、アヤメは口を開いた。

    「提案があるんだけどさ」
    「うん」
    「2人で飲むのやめない?」
    「……異議なし」


     この後ミドリの家に泊まる度に着せ替え人形にされるアヤメさん








    「今回は、酒はやめとこう」
    「勿論勿論。これ、お団子」



    「一滴も飲んでないのにこういう雰囲気になるのヤバいわね、アハハ」
    「ま……待った。ちょっと待っ……」
    「これもう割り切っちゃった方が楽よ。こういうのアリの仲ってことにならない?」
    「ならない! いちいち盛るな!」
    「だって相性良いんだもん! ねーもう開き直ろ? なりましょうよ、セフレ」
    「嫌だって! この里でまで変な噂たったりしたらアタシ親に顔向け出来ないし!」
    「『この里でまで』?」
    「……」
    「……」
    「調べるなよ」
    「ふふ……アヤメさんがボロ出すの珍しいわね……」
    「事実無根なんだよ……」
    「くく……」
    「はあ……」
    「見ないフリ、してあげてもいいけど。口止め料は?」
    「……紅玉」
    「いっぱい持ってる」
    「……天鱗」
    「うーん、惹かれなくはないけど。もっと欲しいのがあるなあ」
    「はあ…………………。…………………一回だけね」
    「うふふ」



    「ねえーアヤメさん。これくらい酔ってるときしかできない話したいの聞いて」
    「んー?」
    「仕事終わりとかにさ、一人で発散したりする?」
    「……」
    「怒んないでよー、真剣に悩んでるのよ私。自分じゃ上手くできなくて切ないのよ。指だと届かなくって」
    「……道具使ったら?」
    「痛くない? あれ」
    「モノによるでしょ」


    ―――――――――


    「アヤメさーん!」

     遠くから歩いてくる人影を認め、アヤメはまた溜息をついた。
     小振りなものとはいえ酒樽を丸々一個、片手で軽々と肩に担ぎ上げ、空いた手をひらひらと振りながら近付いてくるのは、この里にて英雄と讃えられるハンター・ミドリだ。おそらく船着場に着くなり受け取ってきたものだろうその樽に、華やかな字体で施された銘を見て、アヤメの形良い眉がピクリと動いた。

    「前言ってたやつ! やっと入ったわよ、飲みましょ、今日! 今から!!」

     後輩が担ぎ込んだ提案と酒は、撥ね付けるにはあまりに惜しい。

    「あのさ」
    「んー?」
    「流石に今日は何もないよね?」
    「いや、いやいやいやいや流石にないわよ、こないだのは突発事故だもの。今夜はただの飲み。そう、ホント美味しいのよこのお酒。アヤメさん絶対好きな味だから。お詫びも兼ねて、ね?」

     そうして始まった酒宴だったが、勿論何も起こらないはずがなく。
     翌朝目覚めたアヤメは、素っ裸の上痕まみれの自分と、その自分に抱きついてツヤツヤのご機嫌で眠る女を見て、特大のため息をついた後。拳を固めて後輩の頭をぶん殴った。

    「うぎっ!!!!!?!? ……〜〜〜!!!」
    「……」

     友人同士でハンター同士、遠慮も手加減もない。いや、友人とこれからも呼ぶかどうかは、考えるべきかもしれない。

    「ぅ、つぅ〜……、えぁ……。ん? アヤメさ………なん、…あ」
    「……何か言うことある?」
    「えーと、ごめんなさい……?」
    「本当アンタさあ……」
    「……ごめんなさい、自分の性欲舐めてたわ。マジで何もする気無かったのに、お酒回ったら簡単に理性飛んじゃったうふふ」
    「うふふじゃないんだよ。はあ……アンタの舌は信用してるけど、これは……」
    「舌?」

     べ、と出てきた桃色の舌に目を奪われ、その感触を思い出してアヤメは肌を粟立たせた。昨夜は前回ほど飲んでいなかったので、大部分の記憶が残っている。

    「……違う!!! 味覚が合うって言ってるんだよ!!!」
    「?? 何がちが……、アヤメさん」
    「あっ……もう!!」

     べしべしと半ば本気で……言い換えれば半分は本気でない力加減で、後輩の肩や頭をしばき回す。

    「あいた、ごめ、ごめなさ」
    「帰る!」

     頭からは怒りで、顔からは羞恥で湯気を立てながら、肩を怒らせてアヤメは立ち去った。その背中を




    ―――――――――


    「なにこれ?」
    「チョコレーズン」
    「ちょこれーずん」
    「どっちも知ってるだろ、うさ団子の材料にもあるし。レーズンをチョコで包んだだけの菓子だよ」

     カムラのハンターは小さな粒をつまみ上げしげしげと眺める。筋肉量に比例した体温の高さ故、茶色のコーティングはすぐにじわりと融けた。
     慌てて口に放り込むと、とろける油脂と弾力ある干し葡萄の食感の差が面白く、またそれぞれ種類の違う甘みが楽しめる。カカオ独特の甘ったるい匂いと、レーズンに使われた洋酒の香りがお互いを引き立て合い、それぞれ単品で食するよりも奥行きのある味わいとなった。
     指についたチョコを舐め取りながら、ミドリはアヤメへと視線を向ける。大いに口に合うが、わざわざ狩猟帰りに呼び出して渡すほどのものだろうか。

    「美味しいけど、なんでくれるの?」

     声をかけてきた当初からなにか機嫌良さそうにしている先輩ハンターは、唇の端を吊り上げ、隠し持っていた瓶をチラつかせた。途端に後輩の瞳が輝く。

    「焼酎に合う」
    「飲む!!」
    「部屋来る?」
    「行く!!」
    「じゃあ、先に戻ってるから。着替えてきな」
    「……! 分かった!」

     るんるんと自宅へ駆け行く姿は仔犬の如し。

    「素直になったもんだ」

     笑って見送るアヤメもまた、同じ事を恋人に思われているのだが、未だ本人に自覚はない。



     装備と共に狩人としての責任も矜持も脱ぎ置いて、ミドリは手土産の酒を片手に宿へ向かった。アヤメが飼う翔蟲2匹が部屋の隅で戯れる様を眺めながら、2人きりで飲むことしばし。焼酎を飲み切って持ち込んだ米酒に手を付け、器に盛られたチョコ菓子が凡そ半分になった頃。

    「もうちょっとこっち来たら?」
    「ん? うん」

     部屋の主にちょいちょいと指先で招かれるのに応じて、ミドリは座布団を持って隣に移動する。も、「まだ」と呼ばわれ、さらににじり寄る。ぴったりくっ付き腕にしなだれて肩に頭を預けてもまだ、「もっと」と腕を引かれる。

    「まだー?」
    「うん、まだ」
    「えー?」

     アヤメは終始澄まし顔で、視線が合わない。けれども機嫌が良いのは分かる。それから、恋人の事を構いたがっているのも。まるで、プライドの高い姉猫が妹を、そちらを見ずに抱き寄せているような態度だった。
     それだからミドリも、大人ぶった子猫のような顔をした。それでも胸の奥に燻る、甘いような切ないような感覚が抑えきれなくて、目尻が蕩けて唇の端が上がってしまう。

    「……なあに? 今日は甘えても良い日?」
    「さあね」

     横顔で片目だけを合わせてくすくすと笑い合った後、ミドリは大きく体勢を変えた。絡み合わせた腕を起点にしてくるりと背中の向きを返し、アヤメの膝に座ったのだ。首に手を回し頬を擦り寄せて甘えれば、座ったまま恋人に横抱きにされているような状態になった。

    「これでも『まだ』って言う?」

     首筋にかかる銀糸にじゃれつきながら得意気に含み笑いをする後輩を、アヤメも悪戯っぽく笑いながら見下ろす。

    「うん、まだ」
    「これ以上どうするのよ」
    「こうする」

     自由な方の手で恋人の頤を掴み上げ唇を重ねる。

    「……チョコの味する」
    「するね。まだ食べる?」
    「食べる」

     その体勢では手が届かないだろうと、チョコレーズン4、5粒を後輩に手渡して、自分も口に放り込みながら空の杯にワインを注ぐ。それも渡してやろうと視線を落とすと、眉尻を下げて困っている女と目が合った。

    「……すぐ融けちゃう」
    「ん?」
    「チョコ」
    「ああ……」

     手の平に載せてやったチョコ菓子は




    「んっ……」
    「……何か別のこと考えてたでしょ」
    「いや……暑いなって」
    「誤魔化さないでよ」

     いよいよもって臍を曲げた年下の恋人を、苦笑しながらアヤメは宥める。頬をくすぐっても肩を撫でても、そっぽを向いたままの可愛い子猫。むずがって柔く押し返す手を握り込み、腰を抱き寄せた手でそのまま背中へ、うなじへと撫で上げていく。

    「暑くない?」

     耳元で囁きながら彼女の髪留めを外し、美しい黒絹の艶を目で、先程までより強く香るようになった花の匂いを鼻で、しっとりと滑らかな感触を指で楽しむ。

    「……暑い」

     逢瀬を重ねるうち、合図の一つになった。


    ―――――――――



     夜闇に溶け込む深い黒の布地。袖の無い肩から、身体のラインを軽く拾いつつ流れ落ち、脛の半ばほどまでを覆い隠す。足を踏み出す度に、潮風が吹き付ける度に、その裾ははたはたと揺らめいた。
     と、そんなふうに言えば聞こえは良いが、このワンピースの素材は薄手の木綿だ。吸湿性に優れており肌触りも良いが、晴れの場で身につけるようなものではない。デザインも、人の目を気にしない極めて簡素なもの。着脱が楽で身体を締め付けないという理由で選ばれた、要は室内着であった。しかも長く愛用し着古して、布地はくたくたで毛玉もできている。擦れやすい尻の辺りなどは、若干薄くさえなってきていた。その分肌触りは良くなったのだが。

     きい、と背後で扉が開く音。そこから滑り出た気配が、黒いワンピースを纏ったアヤメの背後に立つ。

    「何か見える?」
    「なんにも」

     船の後部、貴賓室から出られるテラス。その手すりにもたれた自分の、隣にふわりと寄りかかる女から、アヤメは頑なに目を逸らしている。

    「……ぷっ。いい加減慣れない?」

     その様子を見て後輩が噴き出したのを皮切りに、アヤメはまた肩を震わせ始めた。

    「慣れないよ、……ヒヒ」

     ようやくチラリと目を向けた先、ニヤニヤ笑う後輩は、純白のネグリジェを身に纏っていた。それがアヤメには可笑しくて可笑しくてしょうがないのだ。何せ、彼女に全く、まっっったく似合っていないものだから。

     エルガドに招かれた際あてがわれたという自室は、船室の中でも最も大きく豪華な、王室関係者向けの貴賓室だったという。備えられていた備品の一つに、今ミドリが身につけているネグリジェがあった。ギャザーをたっぷり寄せ、ふんだんにフリルをあしらい、愛らしくかつエレガントに仕上げてある、シルク製の高級品。胸元にはリボンが、袖口と裾にはレースまであしらってある。
     恐らくは、内装を整えた誰かが、客人の性別と年齢を聞き気を利かせて用意したものなのだろう。年若い女性が喜びそうなデザインではあった。実際、ミドリも始めは、少し目を見開いて『まるでお姫さまね』と呟いたらしいが、実際に着用して姿見を見た途端に崩れ落ちる羽目になった。あまりに面白くて、わざわざおねむのフクズクを呼び出して写真を頼んでしまったほどだという。
     ハンターとして生き、数年。修行時代から現在に至るまで鍛え続けてきたその身体には、実用的な筋肉がみっしりと纏わりついている。当人が何かにつけて『見られて恥ずかしい身体してないわよ』と誇らしく胸を張る通り、均整のとれた堂々たる身体つきはまるで彫像の如く美しい。
     美しいがしかしそれは、乙女ちっくなフリルとリボンとレースには、あまりにもそぐわない美なのだった。

     そもそもミドリ自身の嗜好としても、そして生まれ持った素質、似合う服飾のジャンルも、『格好良い』とか『粋』だとか『色っぽい』と呼ばれる種類のものに偏っている。気に入っているのはいつものセットの他に、ジャナフ装備やスパイオ、ベリオやオウガ装備など。程よく露出があり女性らしく、且つ過度に媚びない服装を好み着こなすのが、ミドリという女なのだった。
     しかし今の彼女の身を包むのは、違う意味で女性らしい、


     アヤメは一応良識ある大人であるので、初めは我慢しようとした。「ふぐぅっ……ぐ、ふ、ふふ……ごめん……」と、すぐにその努力は水泡に帰した上、当の本人が「これ見せたくて堪んなかったのよ、ねえウケる? ウケる???」とガンガンに追い討ちをかけた。ウケてツボっている人間に『ウケてる?』などと聞くと、その人物は更なる笑いの坩堝にずぶずぶハマり込んでしまうものである。よってアヤメも地獄を見た。腹筋痙攣地獄と酸欠地獄である。
     とうとう崩れ落ちたクール系先輩ハンターを見てミドリは手を叩いて喜び、つついたりカメラを取り出して撮影したりと大はしゃぎしていたが、それに反応する余裕はアヤメには全く無かった。


     それで、アヤメがなんとか落ち着いた後。
     就寝するにあたり、二人同じベッドに入ろうとしたのだが。アヤメはまた打ちひしがれることになった。

    「これね、髪が痛まないのよ。最高」

     大事にしている髪に丁寧に櫛をかけ、クセが付かないようにゆるく編み下ろして。後輩はナイトキャップを取り出した。そしてそれを被ると、その中に編んだ髪をくるくる仕舞い込んだのだ。
     ネグリジェと同じ生地を使用し、ふんだんにフリルをあしらった愛らしいナイトキャップ。髪が隠れた分目立つようになった、頼り甲斐のある逞しい肩。袖から覗くムキムキの腕。
     そもそもゆるふわ乙女かわいい装いで、いつも通り脚をかっ開いてベッドに腰掛けている時点で、アヤメは込み上げる笑いを堪えていたというのに。

    「ゔふ……ぐ」
    「いいでしょ」

     何故か誇らしげに胸を張る後輩にまたもツボを抉られ、アヤメはベッドに倒れ伏した。

    「ま、まぬけ……あは……」
    「アーハハハ!」

     高らかに一声笑った後、ミドリは立ち上がり、壁のオイルランプを吹き消しにかかった。

    「助かる……もう見たくない……」
    「くく……」

     暗闇の中、未だふくふくと響くアヤメの呻き声と、ベッドに戻ったミドリがごそごそ体勢を整える音。やがて静かになり、アヤメの腹筋も落ち着き、目が暗闇に慣れたところで。

    「ねーアヤメさん?」

     ミドリは隣のアヤメに覆いかぶさった。

    「シよ?」
    「え、……ぶふっ」

     アヤメの視界の中、闇に目立つ白絹。後輩兼恋人の被る、全く似合わないナイトキャップである。

    「これ被ってたら髪も邪魔にならないわよ」

     ニヤニヤ笑うミドリを見上げて

    「ん? 試したの?」

    「さあ? ……うふふ、身体に聞いてみるー?」



    ―――――――――


     タマミツネを捕獲した。強く、大きく育った立派な個体で、元の縄張りから逸れ水没林の辺りを荒らし始めたので狩猟依頼が出たものだ。
     幸いに、二人とも大きな怪我はない。細かな打撲や擦り傷程度はあるが、回復薬を服用し適切な処置をしてある。ハンターの回復力ならば、里に戻る頃には元通り何の跡も残っていないだろう。

    「ねーえアヤメさん?」
    「……何」

     キャンプまで戻ったところで、それまで大人しかった後輩が急に機嫌良く話し掛けてきたので、アヤメは警戒レベルを引き上げた。この女がニマニマ猫みたく笑う時には、間違いなくロクでもないことを思い描いているのだ。

    「このままシてみない?」
    「出た。それしか考えてないのアンタ」
    「ダメぇ?」

     呆れ返るアヤメに、ミドリは小首を傾げて蠱惑的に笑いかけてみせた。

    『このまま』と言うのは、二人の現在の状態を指す。つまりタマミツネが分泌する滑液に塗れ、全身ヌルヌルと良く滑る状態、ハンター間で俗に『泡やられ』と称されるもの。
     先程の戦闘でアヤメは消散剤を使い果たしていたし、ミドリに至っては持ち込んですらいなかった。ナメすぎである。地面の状態によっては直立することも難しい中で、自分の身体の何倍も大きいモンスターを運ぶ手伝いなどできなかった。よってギルドの人員に後の処理を任せ、比較的澄んだ水溜まりのあるベースキャンプまで戻って来たのだ。そこらの濁った水で洗うと髪が傷む、と文句を言うミドリに合わせた次第である。


    「わざわざ戦利品使うのも勿体無いし、家ですると後片付け大変だし。でもどうせ今から身体洗うなら、ここでシちゃってそのまま」
    「はい」

     アヤメはさも『良いこと思いついた♡』とばかりに戯言を並べ立てる後輩兼恋人に近付き、思い切り抱きしめた。お互いヌメヌメだが、彼女の装備の隙間に手を突っ込むなどしてなんとかがっしり掴み上げ。

    「やん! アヤメさんったら積極てガボボ」

     そしてそのまま地を蹴って、水溜まりに倒れ込んだ。

     派手に水飛沫が散り、集まっていた魚たちがパニックを起こして逃げ惑う。
     子供の背丈より大きな魚も難なく棲める水溜まりは、見た目よりもずっと深い。とはいえ女性ハンター達の足が届かないほどではないが、絡み合って沈んだ上に、水底に溜まった泥のせいで容易には立ち上がれない。その中で一足先に体勢を立て直したアヤメは、未だもがいている後輩の襟首をやや乱暴に掴んで引き起こしてやった。

    「げほっ、はあ、……はあ、ひどいわよ、アヤメさん……」
    「よし、大体流れたね」
    「ひどいぃ……」

     身に纏っていた粘液のほとんどは今ので落とせた。首周りや脇などに僅かに残る滑りをざぶざぶ洗うアヤメを恨めしげに眺め、やがてミドリは唇を尖らせてプイとそっぽを向く。分かりやすく拗ねたのだ。

    (これは構わないと後が面倒かな)

     苦笑して、アヤメはもう一度恋人の身体に手を回し、今度は優しく抱き寄せてやる。

    「さっさと乾かさないと、本当に傷むよ、髪」
    「……」

     じとー、と見つめる視線がアヤメの胸元に刺さる。少し俯いているので

     ミドリを黙らせるのにはこれが一番手っ取り早い。




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