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    dankeimotorute

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    ※1年生の秋~冬くらい
    ※赤木そんなに出てこない、代わりにモブ同期が出張る
    ※木暮ってこんなにじめじめしてなくない?と書いてから思いました。3年間で精神的にも成長したんだなということにしてください。

    共犯(赤+暮) 夕方のホームルームが終わり、木暮は部活に行こうと支度をしていた。教科書を鞄に放り込もうとしたところで、後ろから肩を叩かれる。振り返ると、バスケット部の同期が立っていた。先月末から練習を休んでいたはずだ。なぜか申し訳なさそうな表情を浮かべる彼を見て、この後の展開が読めてしまう。
    「木暮、ちょっといい?」
     正直なところ、木暮はうんざりしていた。同じようなパターンで同期が次々やって来るのにも、それをまたかと思ってしまう自分にも、うっすらと嫌気がさしていた。
    「ああ、どうかしたか?」
     つとめて平静を装いながら返事をする。「君の来訪など全く予期していなかったし、何を言われるか全く想像がつかない」という声色になっていることを願った。
    「部活さ、退部しようかと思ってて」
     彼の手には『退部届』と書かれたくすんだ色の藁半紙が握られていた。
    「そうか」
     退部の手続きに一切関係ないのに、どういうわけか同期はきまって木暮のところへやってくる。残る同期に何も言わず退部するのは不義理だが、赤木には話しかけたくない。じゃあ、そこそこ真面目に部活に出ている木暮にしよう。そんなところだろうか。
     彼らは自分に何を求めているんだろう。何人かの同期と同じやり取りを繰り返したが、木暮にはいまだに判断がつかないでいる。肯定してほしいのか、引き止めてほしいのか、やんわり赤木をたしなめてほしいのか。あるいは、木暮には何も期待していなくて、ただ気持ちを吐き出したいのか。何も分からないまま、去っていく同期を回転ドアよろしく送り出すしかない。
    「赤木と仲いいやつにこんなこと言うのもなんだけど、正直、ちょっと限界なんだよな」
    「……そうか」
     夏以降、赤木と他の部員の軋轢はいよいよ表面化しつつあった。原因は明白だ。全国制覇をぶち上げる赤木には、それを裏付けるカリスマも実績もない。三井がいたころはよかった。彼は中学MVPの輝かしい実績と、人好きのする笑顔を持っていた。赤木と三井が張り合うのを見て、しょうがないなと笑いながらも自然と練習する空気ができあがったものだ。
     しかし、かつて湘北バスケット部を全国に導くと豪語した男は、退部届すら出さずに姿を消した。クラスメイトは彼が他校の総番とつるんでいるところを見たと言っていたが、本当のところは知らない。他人の空似であってほしいと思うだけだ。三井なき今、競争相手のいない赤木は独り相撲をとるしかなくなり、同期はそれを冷ややかに見ている。
     いずれにせよ、木暮の実力と性格ではとうてい三井の代わりは務まらない。かといって、赤木に同期に譲歩せよと迫るつもりもなかった。それを言ったら最後、いよいよ彼は孤独になってしまうと思った。木暮にできることといえば、赤木の隣にいて、ただ味方でいることだけだ。彼の全国制覇の夢を見届けるには、他の何を取りこぼしてでも赤木を支えるしかなかった。自分には両方を取ることはできない。きまりが悪くなって、木暮は同期から目を逸らすようにしてうつむいた。

    「さみしくなるなあ」
     けれど、こればかりは本当だった。こんなことがしたくてバスケット部にいるんじゃない。誰ひとり欠けずバスケットボールに打ち込めたらどんなにいいか。去っていく仲間を見送るのは二度とごめんだと思うのに、同期は一人、また一人と退部していく。そのたびに木暮は自分の不甲斐なさを糾弾されているような気がした。
    「まあ、結構辞めたもんな。俺で5人目か?」
    「……ああ」
    「俺らがみんな辞めたら、赤木はせいせいするのかな」
     するわけがないだろう。喉まで出かかった言葉を木暮はすんでのところで堪えた。同期の退部届を目にした時の、何かを責め立てるように藁半紙をじっと睨みつける赤木の痛々しさといったらない。根性なしの元チームメイトを責めているのか、仲間とバスケットボールの縁を断ち切った赤木自身を責めているのか、きっと両方じゃないかと木暮は思っていた。
    「……そんなことないと思うよ」
    「……すまん、なんて言った?」
    「いや、なんでもない」
     放課後の喧騒に飲み込まれて、木暮の言葉は届かずに終わった。聞こえたところで今さら何が変わったとも思えないけれど。
    「じゃ、職員室に出してくるわ。……お前は頑張れよ」
     もう一緒に頑張ってくれないのか、とは言えなかった。去っていく同期をただ黙って見送り、木暮は再び支度をはじめた。部室に常備している制汗剤がそろそろ切れそうなのを思い出した。

     そこへ、ほとんど入れ替わりで赤木が教室に入ってきた。既に帰り支度を終えたらしい彼は、準備万端といった様子でバッシュを掲げてみせる。
    「部活行くか?」
    「すまん、まだ準備が終わってない。ちょっと待っててくれ」
    「当番でもあったのか」
    「いや、高木が部活を辞めるっていうので挨拶に来てくれたんだ」
     嘘をついても仕方がない。他愛のない世間話のように聞こえればいいと思いながら返事をする。赤木が何も言わないので、まずったかな、と木暮は思った。身支度がほとんど終わるまで、赤木は黙ったままだった。それからぽつりと彼は言葉を漏らした。
    「すまないな、いろいろ」
    「謝るなよ、赤木。俺は好きでこうしているんだから」
     彼がどういうつもりで謝ったのか、木暮には今ひとつわからなかった。どんなに取り繕ったとしても、赤木と他のチームメイトを天秤にかけて赤木を取ったことに変わりはない。そういう意味で、木暮は赤木の共犯者だ。だから、申し訳ないなんて思わないでほしかった。
    「よし、行こう。モップかける時間なくなっちゃうだろう」
     スポーツバッグのジッパーを締めて、バッシュを持って、体育館へ行く。なにがあってもこの習慣を破綻させるものかと、今はそれだけ考えていた。
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    dankeimotorute

    MENU三暮webオンリーのサンプル兼尻たたきです。
    このあとに花火デートをする短編がくっつきます。
    全編はオンリー当日にpixivで展示します。
    百代の過客としても(三暮)1.兵どもが夢の跡

     生ぬるい夜だった。夏特有のまとわりつくような湿気をはらんだ風が首筋を撫でる。昼間ほどの暑さがないせいかどこか締まらない感じがする。気の抜けた炭酸水みたいだ、と三井は思った。あるいは、今の自分たちのようでもあった。劇的な勝利のあとに待っていたのは言い訳しようのない大敗だった。全国制覇をぶちあげて乗り込んだ割には、あまりにあっけない結末だ。トーナメントとは得てしてそういうものだと負けてから思い出した。この夏はなにもかもが上手く行きすぎたから、すっかり忘れていたのだ。いきなり引き戻された現実に気持ちだけが追いつかずに、意識はじめじめした空気の中を浮遊している。
     人気のない道路を歩く。アスファルトと靴底の擦れるぺたぺたという音と、遠くに聞こえる虫の鳴き声だけが聞こえる。ぽつぽつと立つ電柱に設置された街灯の頼りなさが不安を誘う。街灯を辿るように歩いていると、ガードレールの途切れたところに座る人影を見つけた。木暮だ。切れ目から下に伸びる階段に腰掛けて、頬杖をつきながら空を見ているようだった。
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