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    dankeimotorute

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    クエスチョニングの三がマッチングアプリでアポを取り付けたら初恋拗らせた暮が来た話
    アポ当日編
    もしかしたらホテル編に続くかもしれない

    再会②(三暮)※全方位の苦手要素を詰め込んでいる可能性があるので、心して読んでください。

    前回のあらすじ:三は酔った勢いでマッチングアプリをインストールしていた


     さて、辞めどきを見失ったオレは一日に数度彼とチャットを送りあうようになり、そこからはとんとん拍子だった。日常生活の合間に文章のやりとりを重ねて、数日後には一緒に食事に行く流れができあがっていた。あまりに自然な展開に、こいつ結構な手練れなんじゃないか?と最新のメッセージを睨む。
    『気になってるお店があるんですけど一人じゃ入りにくいんですよね…久光さんも一緒に来てくれたらうれしいな』
     「うれしいな」ってなんだ。基本的に丁寧な文面の彼がくだけた語尾になるのが新鮮で、ガキみたいにドキドキしそうになった。オレがおっさんだったら今頃庇護欲を刺激されまくっていただろう。なんにせよ、彼には一度会ってみたいとは思っていたし、提案された店も手頃でうまそうだし、断る理由がない。
    『うまそうっすね 今週の金曜とかどうですか』
    『OKです!予約は19時半でいいですか?』
     これで約束は決まった。いよいよ出会い目的で男に会うのかと思うと少し落ち着かなかったが、不思議と嫌な予感はしなかった。今思えば、少しくらい虫の知らせがあってもよかったんじゃないか。


     そして話は冒頭に戻る。見ず知らずの「ハムさん」と会うはずだったオレは、なぜか数年ぶりに会う同級生の顔をまじまじと見つめていた。まさか、と思ったが、オレ同様にぽかんとしている木暮の様子を見ると、目の前の男が「ハムさん」だとしか思えない。
    「……ハムって、お前か……?」
    「ひ、人違いじゃないか」
    「……そのリアクションでよく誤魔化せると思ったな」
    「さあ、なんのことだかさっぱり」
     しらを切るそぶりには見覚えがあった。後ろめたいことがあるとメガネのブリッジをしきりに撫でる癖は高校時代から変わっていないらしい。本人は気づいていないんだろうが。変なところで頑固なのが懐かしいやら腹が立つやらで、少し意地悪してやりたくなった。
    「忘れちまったのかよ。チャットの内容読み上げてやろうか?……白地にアメコミのイラストがプリントされた」
    「あーもうわかった!オレで合ってるよ」
     大げさに悲しむふりをしてチャットの文面を読み上げてみせると、根負けした木暮が片手でこちらを制してきた。彼ははぁ、と小さくため息を吐いて、それから眉を寄せて何か考えているような仕草をした。かと思うと、ふと何かに気づいたというように顔を上げてこちらを見てくる。
    「というか、用心しろよ。三井は一般人じゃないんだから、アプリなんかで不用意に相手を探したりするな。たまたま相手がオレだったからいいようなものの……」
     確かに正論ではあるのだが、目の前の男に言われるのは納得がいかない。さっきまでの動揺が嘘のように真面目くさった顔をする木暮の説教に思わず口を挟んでいた。
    「一個いいか?」
    「なに?」
    「客のオッサンに説教される風俗嬢ってこんな気分なんだろうな」
     彼は一瞬ぽかんとしたあと、脱力したように笑い声をあげた。
    「あはは、まあ、そうかもな。びっくりして当たっちゃったんだ。ごめん」
     強情なのも懐かしいが、屈託のない笑顔が一番懐かしくてこいつらしいと思った。なんとも言えない気まずさが完全になくなったわけではないが、場の空気はいくらかほぐれたようだった。
    「で、店まで連れてってくれんだろ。普通にうまそうだから楽しみだったんだけど」
    「ああ、石井が前に行ってうまかったって言ってたんだよ」
    「石井と連絡取ってるのか?」
    「言わなかったっけ、就活のことでちょっと相談乗ったりしてたんだ」
     それからちょくちょくな、と木暮が笑う。メガネの男がふたり向かい合って面接の練習でもしたんだろうか。あいにく世間一般の就活とは縁がなかったので、ぼんやりとした想像しかできない。しばらく会わない間に知らない木暮が増えていて距離を感じたが、まあそれも当然か。なにしろ、直接顔を合わせるのはほぼ3年ぶりだ。最後に会ったのはバスケット部の同窓会だったと思う。
     あっけないものだ。部活に復帰してからの一年弱はほとんど毎日顔を見ていたのに、卒業したらぱったりと疎遠になってしまって、たまの集まりでしか会わない仲になってしまった。特別な理由があるわけではない。ただ、オレも木暮も自分から人を遊びに誘うタイプではなかったし、そもそも生活リズムが合わなさすぎた。それがこうして再会したのだから、世の中不思議なこともあるもんだと思う。欲を言えば、マッチングアプリ以外の方法がよかったが。

     木暮の選んだ店は表通りから少し逸れたところにある、隠れ家風のバルだった。狭い店内に客がひしめきあって賑やかだ。ほとんどの客が二人連れで、確かに一人では入りづらそうだった。料理も酒も手頃な値段で感じがいい。電球色の薄暗い照明も相まって、オレも木暮もずいぶん酒が進んだ。
     お互いの仕事の話や、元チームメイトたちの近況の話などがひと段落して少し落ち着いた頃、酔って機嫌のよさそうな木暮がそういえば、と口を開いた。
    「ちょっと意外だったな、三井がそうだったとは」
     『そう』ってなんだ、と聞き返しかけてすぐ思い出した。もともと、今日は同級生と思い出話に花を咲かせるつもりで家を出たのではなかった。
    「いや、まだはっきりしてないんだけどよ。一回会ってみたらわかるかと思って……」
    「ああ、なるほど」
     そう言う木暮はずいぶん慣れていそうだ。彼はグラスを軽く呷ると話を続けた。
    「それで、会ってみてどうなんだ」
    「わからん。今んところはちょっと気まずい同窓会だな」
    「それは同感」
    「まあ、相手がお前じゃなくても飯食った程度じゃわかんねえだろうな。嫌な感じはしないくらいだ」
     おどけるように肩をすくめてみせると、木暮が緩く目を細めた。その瞳にちょうど照明の明かりが映って、ぞくりとした。
    「……じゃあ、やったらわかるか?」
     一瞬何を言っているのか分からなかった。こいつ、実は結構酔ってるんじゃないか。よくよく見ると、頬がかなり赤くなっていた。こっちを見る目が若干据わっている気もする。
    「……正気かよ」
    「しらふじゃないのは認めるけど、ほぼ正気かな」
     確かに、女の恋人とすることにはセックスも含まれるだろう。だから、いずれ男としてみようと思う日が来たかもしれない。だが、別に今日そのつもりで来たわけじゃなかった。そもそも、しらふでない人間のことを正気とは呼ばないし、今のこいつは明らかに普通じゃない。そういう人間の提案は互いのために断るべきだ。朝になったら二人揃って後悔するかも。
    「で、どうするの。三井」
     だが、しらふでないのも正気でないのも木暮一人ではなかった。
    「……行く」
     どうして頷いたのか自分でも分からなかった。酒か、好奇心か、シーズンオフの解放感か、溜まった性欲のせいか。色々並べ立てても誤魔化しているように思えて自分に呆れてしまう。オレはそんな言い訳がましい男じゃないはずだ。
    「この辺りなら歩いて10分くらいのところにあるけど、そこでいいか」
    「妙に詳しいな、お前」
    「疑ってるようだけど、別にヤリモクってわけじゃないからな。まあ……そういう流れになったら逆らわないだけだよ」
     この数時間で一番木暮を遠く感じた瞬間かもしれない。こともなげに言い放つかつての同級生をぼんやり眺めていると、彼はわざとらしく眉を八の字にした。
    「なんだ。幻滅したか?」
    「お互い様だろ、幻滅するなら」
     暗に「お前は幻滅したのか」と問うように木暮の目を見据える。すると、さっきまでの据わった目が嘘のようにまっすぐオレを見つめ返してきた。
    「オレはしないよ、お前がまっすぐ生きている限りは」
     その言葉には確かにあの頃の木暮の片鱗が見えて、オレはますますわけがわからなくなった。脱いでわかるものでもないだろうに、オレたちは店を出てホテルに向かった。道中はずっと無言だった。
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    dankeimotorute

    MENU三暮webオンリーのサンプル兼尻たたきです。
    このあとに花火デートをする短編がくっつきます。
    全編はオンリー当日にpixivで展示します。
    百代の過客としても(三暮)1.兵どもが夢の跡

     生ぬるい夜だった。夏特有のまとわりつくような湿気をはらんだ風が首筋を撫でる。昼間ほどの暑さがないせいかどこか締まらない感じがする。気の抜けた炭酸水みたいだ、と三井は思った。あるいは、今の自分たちのようでもあった。劇的な勝利のあとに待っていたのは言い訳しようのない大敗だった。全国制覇をぶちあげて乗り込んだ割には、あまりにあっけない結末だ。トーナメントとは得てしてそういうものだと負けてから思い出した。この夏はなにもかもが上手く行きすぎたから、すっかり忘れていたのだ。いきなり引き戻された現実に気持ちだけが追いつかずに、意識はじめじめした空気の中を浮遊している。
     人気のない道路を歩く。アスファルトと靴底の擦れるぺたぺたという音と、遠くに聞こえる虫の鳴き声だけが聞こえる。ぽつぽつと立つ電柱に設置された街灯の頼りなさが不安を誘う。街灯を辿るように歩いていると、ガードレールの途切れたところに座る人影を見つけた。木暮だ。切れ目から下に伸びる階段に腰掛けて、頬杖をつきながら空を見ているようだった。
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