狂い咲く花は風を乱吹く13何故ダ
何故「□」を捨てない
ナゼ
ナゼ、ヴァーユの子を憎まない
この手筈ではなかった。
ビーマにボロボロに傷つけられた後、ドゥリーヨダナはビーマへの愛を全て捨てるはずだった。
なのにドウシテ
なにか間違えてしまったのか?
なにか計算を入れるのを間違えてしまったのか?
神々は可能性の限りを考えた。
それともドゥリーヨダナは、欠陥だったか
…
きっとそれだ
それに違いない
これは失敗だ、間違いだ
ドゥリーヨダナは欠陥品だったのだ
ならば、捨てよう
もうコレはいらない
>>>>>>
「待ってくれ、スヨーダナ!!」
「……」
すると、ビーマの叫び声にやっと相手は止まってくれた。
その行動に安堵して、やっと追い付けた。
カルデアにいるドゥリーヨダナよりも若く、ビーマの胸辺りの身長のその子は背を向けたまま沈黙だった。
ビーマは息を整え、優しく優しく話しかけようと慎重に言葉を選ぼうとした。
「……お前に会いたかった」
考えた末に絞り出した言葉。その言葉を出してもまだスヨーダナは背を向けたままだ。焦ってなにか会話を続けようと思案すると
「私も、会いたかった」
思い出の中よりも少し若干高い気がしたが、ビーマはそんな事よりも嬉しい言葉に年柄もなく心が浮くように歓喜した。
「スヨーダナ…っ!」
ビーマは両手を広げると、スヨーダナはこちらを向いて流れるように抱きついてくれた。
夢にも思わなかった幸せでビーマは気がつかなかった。
そう、あの時のように
幼い頃、想いを寄せていた初恋のスヨーダナが自分に菓子を手付けで頬張ってくれた時のように
ビーマはまた気づかなかったのだ。
「…ぁ」
それは「匂い」が違っていたから気づいた。
違う花の匂いにビーマは戸惑った。
幸せで麻痺していた痛みにビーマはやっと気がつく。
「…ぇ、…ぁ、な、なん、で…」
高潮していた幸せが地面に叩きつけられるように、悲しみと痛みと苦しみがビーマを襲う。
スヨーダナの手には「神殺しの短剣」が握られ、刃はビーマを貫いていた。