「 ……なあ、別に答えなくてもいいんだが」
ふいに思い立って問いかけると、ゲンがこちらを振り返った。
その動きに合わせて、さらりと長い白髪がなびく。
「 うん?どうしたの、改まって」
普段、角度によっては表情を完全に覆ってしまうこの髪が、呼びかけてゲンが振り返る瞬間横に流れて。
毛束が落ち着くまでの寸暇、頬のラインや隠れている耳が覗いて、表情全体を浮かび上がらせる。……この瞬間が、なんだかとても好きだった。
さら、と長い髪を梳いて、指を絡める。
「 この髪は、地毛なのか?」
「 あっ、そっか気になるよね!……うん、地毛だよ。……まあ悪目立ちするし、石化前はずっと染めてたんだけど」
ずっと、と言う言葉から、それが短くない期間であることが窺えた。
確かに、目立つことは目立つだろう。
「 ほーん、……俺は、この髪嫌いじゃないぜ。テメーがゲーノージンやってた頃より、なんかしっくりくるし」
キレイだ。
掠めるような声でそう告げて、一房掬い上げた髪にくちづける。
「 せ、せせせせんくちゃ……⁉︎ 」
あまりに予想外のリアクションだったのか。
普段は飄々としているこの男が、いつになく狼狽えていた。
ひんやりした、艶のある髪の感触が心地よくて、そのまま、また指に絡めていじってしまう。……普段彼が仕込んでいる花の匂いなのか、ふんわり甘い匂いがした。
「 まあ、髪の色や髪型に関しちゃ、俺も人のこた言えねぇしな」
白菜って馬鹿にした奴らは、とりあえず全員返り討ちにしたわ。
言葉に、やっと平静を取り戻したようで。
ゲンはちいさくわらった。
「 白菜はひどいよねぇ」
俺も、千空ちゃんの髪、好きよ。
そう言ってやわらかくわらうゲンと、かつてのブラウン管の中の、どこか胡散臭いゲンの記憶が重なる。
どちらも同じあさぎりゲンではあるけれど。
「 あ"ぁ。……やっぱ俺は、今のテメーのが好きだわ」
噛み締めるようにそう言って、千空は相好を崩す。
その言葉を受けて、視線の先の魔術師は、軽く目を見開いたあと、ふんわりと、白い花のように笑った。